三重県総合文化センター ブログ

第七劇場主宰 鳴海康平さん インタビュー(前編)

11月22日(日曜日)、23日(月曜祝日)小ホールで開催の第七劇場「Alice in Wonderland」について、2回にわたり、第七劇場主宰の鳴海康平さんに作品の特徴や演出についてお伺いしました。

鳴海康平さん

第七劇場代表 鳴海さん 津市美里の劇場 Théâtre de Belleville テアトル ドゥ ベルヴィル にて

1 原作について

そもそも「不思議の国のアリス」を題材に選んだ理由は?

第七劇場代表 鳴海さん

鳴海さん(以下 すべて):ひとつは、昨年ベルヴィルのこけら落とし公演で「シンデレラ」を上演しまして、本当に幅広い年代の方に劇場に来ていただきました。今回の公演もたくさんの方に気軽に足を運んでいただきたくて、老若男女に知られている題材にしたいと思いました。もうひとつは「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」は多くの方がディズニーの映画などでご存知かと思いますけど、意外と原作は読んでいなかったり忘れていたりするので、改めて原作の世界感を楽しんでもらう機会になればと思いました。

原作についてお伺いします。「不思議の国のアリス」はアリスがウサギを追って穴に落ちる所から始まって、不思議の国でいろんな生き物たちと出会ったり、アリス自身が大きくなったり小さくなったり、で最後は夢でしたという「夢オチ」話でしたね。

そうですね、チョッキを着て、時計を持った白いウサギが走っていくシーンは有名ですね。「不思議の国のアリス」も「鏡の国のアリス」も、ロードムービーのようにアリスがいろんなキャラクターに出会っていく話ですが、いろんな場面が切り替わっていくだけで物語らしい物語は実はないんですね。児童文学でよくある勧善懲悪話でもイソップ寓話のようにわかりやすい教訓話でもなく、ナンセンスでバカバカしい話によって構成されています。出てくるキャラクターはとっても特徴的で面白いですね。この作品は150年前に英国で出版されたのですが、作者のルイス・キャロルが数学教師をしていたオックスフォード大学の学寮長であるヘンリー・リデルの娘たちに即興で語った話が元になっています。その娘たちの中に、キャロルの一番のお気に入りだったアリス・リデルがいます。キャロルは数学者であり論理学者でもあって、とっても緻密にバカバカしい事を書いた作品です。公演を観る時にもし話の筋を忘れていても、そもそも物語自体がないような筋ですし、構造もシンプルなので問題ありません(笑)。「不思議の国のアリス」はアリスがウサギを追いかけて不思議の国に行って、最後はなぜか裁判に出て、不条理なやりとりに怒ってトランプたちを一蹴したら夢から覚めたというお話。「鏡の国のアリス」は鏡を通り抜けて鏡の国に行き、最後は女王になったアリスの晩餐パーティーがしっちゃかめっちゃかになったことにアリスが怒ったところで現実に帰ってくるという話。世界の構造としては同じですね。

この作品は当時の英国でどう受け止められたのですか?

150年前は日本はまさに幕末の時期で、英国はヴィクトリア朝時代です。子どもへの躾が大変厳しい時代で、女性のスカートの丈が年齢によって決められたりもしていました。児童文学は教訓めいた話ばかりだったんですね。その中でこういったバカバカしい作品はとっても受けました。当時の流行歌や、日本でいえば桃太郎や浦島太郎のように誰もが知っているキャラクターのパロディも登場させて、今でいえばベストセラーでした。またナンセンス文学の発展に大きな影響を与えた作品として大人の関心も集め続けてきました。今でも児童文学やナンセンス文学だけではなく、哲学や数学、論理学においても研究の対象となったり、2つの「アリス」の言葉がさまざまな場所で引用されたりしています。

アリスが大きくなったり小さくなったり猫が消えたりと非現実的な事がたくさん起こりますね。当時としては画期的な表現だったのでしょうか?

とっても突飛な表現だったと思います。ほかにもライオンとユニコーンにケーキを切り分けるシーンがあるのですが、「まず配る。切り分けるのはその後だよ。」という具合に物事の順序が逆になっています。白の女王の指から血が出るシーンでは、先に叫んでから指を刺して血が出ます。こういう時間の流れを逆にした表現があって当時は画期的だったようです。例えば、私たちが映画「マトリックス」で見た、タイムスライスという技術を使ったあの有名なシーン、銃の弾丸をよけるあのシーンを画期的に感じたことに近いと思います。また「不思議の国のアリス」が出版される6年前にはダーウィンの進化論「種の起源」が世に出て宗教界と大論争になっています。価値観が激動する時代だったわけです。2つの「アリス」はジョン・テニエルという画家が挿絵を描いているんですが、物語の中には登場しない猿が描かれている挿絵があるんです。キャロルがアリス・リデルにせがまれて手書きでつくった「地下の国のアリス」(不思議の国のアリスの原作)にも猿が描かれています。これは進化論の論争の影響のようです。

アリス挿絵
「不思議の国のアリス」挿絵(絵 ジョン・テニエル)

いままでたくさん映像化されていますね。ディズニーの映画が有名ですが。

チェコの映像作家の奇才ヤン・シュヴァンクマイエルはア リスに関連する映像作品も絵本の挿絵も描いていますし、最近ではティム・バートン監督の映画「アリス・イン・ワンダーランド」が記憶に新しいですね。ジョニー・デップやアン・ハサウェイが出ている作品です。これは「アリス」の後日談になっていて、19歳になったアリスが再び不思議の国に行くという構成に なっていて、二つの「アリス」がミックスされていて、両方の登場人物たちが登場します。「アリス」のミュージカルや、映画、漫画はたくさんありますし、ほかにも「アリス」を原作した小説やアニメ、イラストも多くつくられていて、いろいろな分野に影響を与えていますね。そしてキャラクターとしてのアリスは 「少女」を示すひとつの象徴にまでなっていると思います。

鳴海さんの一番好きな場面は?

「不思議の国のアリス」の第10章「ロブスターのカドリール」でロブスターを何度も海に放り投げる踊りを説明するシーンがあるのですが、その光景を想像するとまったく意味がわからなくて笑えます。残念ながら今回の舞台作品では使っていないんですけど(笑)。舞台作品ではキャロルとアリスが過去を思い返すシーンを挟みながら進行しますが、そこで引用している彼らの手紙の内容も、2人のアンバランスな関係が読み取れてとても興味深いです。

キャロルとアリス、実際の2人の関係はどのようでしたか?

1865年「不思議の国のアリス」が出版されたとき、アリス・リデルは13歳、キャロルは33歳でした。出版される前年に、リデルの母親から娘たちとの交遊関係において拒絶されたようです。キャロルは多少変わっている部分があって、アリスを喜ばす為にお話しや手紙をたくさん書いていたようですが、それらの接し方がアリスの母親から怪しまれてしまい、アリスや家族とのつきあいを遠ざけられたとも言われています。キャロルの日記が部分的に親族によって切り取られてしまい、真実はわかっていません。当時の英国は階級意識が強かったですから、それも影響していたかもしれませんし、当時女性は14歳から結婚が認められていましたので、婚期が近づいたこともリデル家が気にしたのかもしれません。そして、キャロルは写真技術の創世記の時代を生きたアマチュア写真家でもあったのですが、仲の良い少女の、今で言うところのコスプレ写真をたくさん撮っていました。リデル家と疎遠になった少し後からは、少女のヌード写真も撮影するようになります。当時は少女のヌード写真を撮影することはそれほど珍しいことではなかったようですが、キャロルは親の許可を得て撮影していたそうです。この辺りのことが独り歩きして、キャロルのイメージに対する誤解が生まれたようですが、今日の研究では彼は少女を性的対象ではなく穢れのない神々しくも愛らしい存在として考えていたというのが有力です。ただ、牧師の家に生れ、長く聖職であったことから生涯独身で、大人の女性との私的な付き合いは少女の友達に比べたら圧倒的に少なく限られたものだったようです。アリスの母親に距離を置かれて以後、アリスとの交流はほとんどなかったようですね。13歳になったアリスを見かけたキャロルの日記には「とても変わってしまった。つまらなくなってしまった。おそらく女の子が娘に変わっていく、あの厄介な時期なのだろう。」と書いています。児童から思春期を迎えて女性に変わっていく少女の変化はキャロルの関心を大きく左右していたようです。今回の作品では原作「アリス」に物語としては描かれていないキャロルとアリスの関係もテーマのひとつとして描いています。

(後編に続く)


公演情報

第七劇場 新作国内ツアー2015「Alice in Wonderland」

日時
2015年11月22日(日曜日)14時開演
2015年11月23日(月曜祝日)14時開演
場所
三重県文化会館小ホール
チケット料金
整理番号付自由席 一般2,000円(当日2,500円)25歳以下1,000円 高校生以下500円
※未就学児無料(無料券を発行、座席確保のためご予約お願いします)

公演詳細ページ

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