第3回 少子化と日本社会 少子化が与える経済的影響

 前回と前々回で私たちは日本社会で進む少子化の現状についてみてきました。今回と次回では、「少子社会 日本」の将来展望を大胆にしてみたいと思います。今回は、少子社会の進展が日本経済にどのような影響をおよぼすのかを考えてみましょう。前回と前々回で私たちは日本社会で進む少子化の現状についてみてきました。今回と次回では、「少子社会 日本」の将来展望を大胆にしてみたいと思います。今回は、少子社会の進展が日本経済にどのような影響をおよぼすのかを考えてみましょう。

50年後の日本の人口構造

 図1は国立社会保障・人口問題研究所が推計している「日本の将来推計人口」を年齢三区分別に示したものです。この推計は2002年に行われたもので、現在では少子・高齢化の速度が速まっていますから、図1よりも人口減少がより進んだり、高齢者の割合がもっと高くなる可能性は十分にあります。

日本の将来推計人口
図1

 さて、2000年の日本の総人口は1億2,693万人でした(総務省『国勢調査』による)。図1の中位推計の結果によると、2006年に1億2,774万人でピークに達した後、以後長期の人口減少過程に入ることがわかります。2013年には2000年当時の人口規模に戻り、2050年にはおよそ1億60万人になるものと予測されるています。なお、より出生力を低く見積もって推計している低位推計によると(図は省略)、2004年に1億2,748万人でピークに達し、以後減少して2050年には9,203万人に達すると予想されています。
また、図1を年齢三区分別にみると、次のように将来は推移すると予想されています。
まず、年少(0歳~14歳)人口は、2016年には1,600万人を割り、2050年には1,084万人の規模になると予測されています。出生率がより低いとする仮定で推計された低位推計では急速な年少人口減少が予測されており、2014年には1,500万人、2050年には750万人まで減少すると予測されています。
 生産年齢(15~64歳)人口は、1995年がピークで現在は減少過程に入っています。2030年には7,000万人を下回り、2050年には5,389万人まで減少すると予想されています。低位推計では2028年に7,000万人を割り込み、2050年には4,868万人まで減少すると予測されています)。
 今後、年少人口および生産年齢人口の減少が始まりますが、老年(65歳以上)人口は2013年に3,000万人を突破し、2018年の3,417万人へと急速な増加を続けると予測されています。ちょうどこの時期に団塊の世代(昭和22~24年出生世代)が65歳以上の年齢層に入るためです。その後は緩やかに増加して2050年には3,586万人となると予測されています。

少子化の進展で日本経済はどうなる

 上でみたように、これからの日本の人口は年少人口と生産年齢人口が減少し、老年人口が減るという少子・高齢社会になります。ここで問題になるのが、生産年齢人口が減少したとき、日本経済の生産活動がどのような影響を受けるかということです。
 一国全体の経済活動の大きさを示す(実質)国内総生産(GDP)は、(実質)GDP=国民一人あたりGDP×総人口と計算されます。少子化で総人口は減少していきますから、当然ながらGDPも減少するだろうと予測されます。
 GDPが今後減少するとはいえ、国民一人あたりの生活水準が少なくとも現状維持できれば、そう大きな社会的混乱はないように思います。はたしてわれわれは将来も現在の生活水準を維持することが可能でしょうか。
 現在、日本の実質国内総生産(GDP)は約500兆円ほどです。一人あたり実質GDPを計算すると、約400万円(500兆円÷1億2,700万人)となります 。一人あたり実質GDPを400万円で維持することが出来れば、現状の生活水準を維持できると考えて良いでしょう*1。
*1 本当は貯蓄や不動産などの家計資産も生活水準に影響しますが、ここでは考えないことにします。しかし、現在問題になっている所得格差や資産格差を考えると、資産の国民生活への影響は大きくなるかもしれません。
 そこで、一人あたり実質GDPを400万円として2050年の実質GDPを計算すると、400兆円(400万円×1億人)ほどになります。
 では、実際に生産に携わることが出来る生産年齢人口一人あたりGDPはどうでしょうか。現時点では約580万円(500兆円÷8,600万人)です。が、2050年に国民一人あたり実質GDPを400万円で維持しようとすると、約740万円(400兆円÷5,400万人)まで高める必要があるのです。このことは、これから45年間で生産年齢人口一人あたりGDPを年率0.5%ほどで伸ばしていく必要があることになります。
 一人あたりGDPを年率0.5%で伸ばすことは大した問題ではないと思われるかもしれません。しかし、高齢者が増加することで貯蓄の取り崩しが増加すれば、金利上昇要因となり、投資水準は低下すると考えられます。そうすると、資本装備率の高まりは期待できませんから、資本装備増強による生産性上昇は期待できません。

これからどうする

 資本装備の増強以外に生産性を高める手段として次の三つが考えられます。
1.労働者一人一人の質を高めること。
2.R&D投資を積極的に行って技術革新をより進めること。
3.企業や社会の組織効率などが影響するTFP(全要素生産性)を高めること。
 こうした生産性を高める手段はすべて、企業が労働者をどう活用するかということと密接に関連しています。
 これまでの日本企業は、男性を主戦力と考え、女性をどちらかといえば補助的な仕事に配置してきました。しかし、このような姿勢では少子社会を生き延びていけません。最近は女性を活用する企業が増えてきて、そうした企業の業績が良好であることがいくつかの研究で明らかにされています*2。これからの企業は、より女性を活用していく必要があります。この点について、次回で詳細をみていきましょう。
*2 以下に掲載する報告書・論文が代表的なものです。
①経済産業省「男女共同参画研究会」報告書(http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g30627c1j.pdf)
②21世紀職業財団「企業の女性活用と経営業績との関係に関する調査」(http://www.jiwe.or.jp/jyoho/chosa/h15anq.html)
③児玉直美(2004)「女性活用は企業業績を高めるか」、『日本労働研究雑誌』、第525号(http://www.jil.go.jp/institute/zassi/200404/200404j.PDF)。