第5回 少子社会の日本企業 企業は何をすべきか その2

実効性のあるファミリーフレンドリーを

ただし、単にワーク=ライフ・バランスを実効可能にする人事戦略を導入しただけでは、企業にベネフィットは生まれません。これまでの研究で明らかにされてきたことは、導入されたファミリーフレンドリー施策を管理職と職場の同僚達がちゃんと理解し、ちゃんと運用できるかどうかがベネフィットを産む鍵になる、ということです。例えばStaines & Galinsky[1992]は、アメリカのあるハイテク企業の管理職300名ほどにアンケート調査を実施し、育児休業制度への知識不足や仕事と家庭の両立への理解不足が育児休業に伴う生産性低下に強く関連していることを見いだしています。つまり、育児休業制度を理解し、仕事と家庭の両立が重要であると認識する管理職がいると、育児休業によるベネフィットが生まれるということなのです*1。
*1以下の文献を参考にしてください。
 Staines, G. L. and E. Galinsky. [1992] "Parental Leave and Productivity: The Supervisor's View," in Friedman, D. E., E. Galinsky and V. Plowden eds. Parental leave and productivity, Families and Work Institute.
こうした傾向は、日本でも内閣府が最近行ったアンケート調査に見られます(内閣府男女共同参画局「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」『管理者を対象とした両立支援策に関する意識調査』)。この調査によると、育児休業利用者に対する利用者の同僚など周囲の者の反応が「積極的に支援しようとする雰囲気があった」と答えた管理職は265名ほどいますが、このうち休業者の復帰後の職場全体の生産性は復帰前に比べて「(大幅に)下がった」と答えている管理職は81名(支援する雰囲気と答えた管理職の約30.6%)で、残りの約7割は生産性が変わらないか上昇したと答えています。対して、「会社の制度なので仕方がないという雰囲気があった」と答えた管理職は312名であり、このうち生産性が「(大幅に)下がった」と答えた管理職は102名(約33.0%)です。育児休業を肯定的に見る職場の雰囲気が生産性を高めているようです。
これまでも、ワーク=ライフ・バランスを積極的に整備してきた企業も少なからずありますが、その効果については懐疑的な見方が多かったようです。ただしそれは、企業が制度整備にのみこころが奪われるあまり、運用面での工夫をする企業は少なかったからではないでしょうか。上で見たように、ワーク=ライフ・バランスが効率よく機能し、ベネフィットを生むようにするには、管理職や職場全体の施策に関する理解や関心も重要です。

我々はどうすべきか

 5回にわたって、わが国の少子化の進展とその経済・社会に与える影響を考えてきました。人々が子どもを産まない背景に、我が国で女性活用とワーク=ライフ・バランスが立ち遅れていることが少なからず影響していること、そして今後は女性活用とワーク=ライフ・バランスを整備していくことが企業経営にとって重要であることみてきました。
 これまで私たちは性や年齢を重視し、企業や社会で遇されてきました。しかし、これからは性や年齢だけで人をみるのではなく、能力や専門性で遇していく必要があります。このことは、個人にとっては非常に厳しいことですが、個人のやりがいは大いに引き出されることになると思います。
 読者の皆さんに理解して欲しいのは、これまでの日本社会とこれからの日本社会とでは、その環境条件が違うということです。これまでは成長する人口の下で社会が成立してきました。しかしこれからは減少する人口の下で社会を形成していかなければならないのです。これからは、これまでのような考え方は通じないと言っても過言ではないでしょう。今後は、私たち一人一人が過去の成功経験にしがみつくことなく、意識を新たに、柔軟で大胆な発想をすることが必要ではないでしょうか。