第2回 母子家庭の子どもたち―養育費と面会交流

母子家庭の子どもの気持ち 

 母子家庭の母にとって、経済的な問題と並んで大きく心を痛めるのが子どものことです。「子どもから父親を奪ってしまったのではないか」「父親がいなくなって、子どもが寂しい思いをするのではないか」「子どもを一人で育てられるのだろうか」等々、子どもをめぐるさまざまな不安を多くのシングルマザーが訴えておられます。
 こういった問題には、実際に当事者である子ども自身に聞いてみることが一番です。とはいっても、むやみには聞けないだろうし、聞いても本当の事を答えてくれるとは限りません。それでも、真摯に当事者に聞くしかないと私は思っています。そして、子どもの声にきちんと向き合い、きちんと耳を傾けて聴いたなら、きっと答えは得られると思います。
 母子家庭の子どもはどうしてもかわいそうな子、と見られがちです。実は、その「かわいそう」というまなざしが、当の子どもたちにとっては一番傷つきになっていることが多いのです。自分たちは決してかわいそうな子なんかじゃない、そんな目で見るな、という叫びを、当事者の子どもたちからたくさん聞きました。これは、母子家庭に育ったその事実ではなく、世間の目が子どもたちをしんどくさせているということだと思います。
 また、意外と重要なのが、親以外のおとなとの関係です。インタビューやアンケートでも、「お母さんの友人の家でご飯を食べるのが楽しかった」とか「お母さんがいないときは、近所のおばちゃんと遊んで、それが楽しかった」などの声が聴かれました。よく、男の子なのでお父さんがいないのが心配、などというシングルマザーがいますが、近所のおじさんや学校の先生など、世の中の半分は男性なので、まったく心配することはない、とお話します。子どもが、お母さんには相談できなかったけれども、サッカーのコーチには相談できた、というようなことがあったなら、それは非常に喜ばしいことだと思います。親でなければいけない、などということはないのです。むしろ、子どもが親以外のたくさんの人(おとなも子どもも)と出会い、関係を作っていけたら、子どもにとって非常に幸せなことではないでしょうか。

養育費と面会交流 

 別れて暮らす別居親について、子どもがどのように思っているかということも、母子家庭にとっては非常に気になることです。これは、たとえ血がつながっている親であっても、結局はどのような関係性を作れているかどうかで決まります。しっかりと養育費を支払い、月に一度の面会交流でも、その時間は子どもとちゃんと向き合い、子どもの話を聴き、子どものことを想っている別居親なら、子
どももその気持ちに応えます。自分は愛されているのだな、と実感して、たとえ毎日は会えなくても、別れて暮らす親のことを大切な人だと思うでしょう。逆に、義務感で会っていたり、養育費を払わなかったり会うことを嫌がっていたりしたら、子どももそれを見抜きます。親であることに甘えている親なら、子どものほうから適当に見限られてしまうこともけっこうあります。
 2012 年の 4 月から民法の一部が変わり、協議離婚に際して面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担などについて必要な事項を定めなければならなくなりました。それに伴って、離婚届用紙にも新たに欄が設けられました。この欄に印がなくても、また「決めていない」に印をしても離婚は認められますが、調停などでは養育費と面会交流をきちんと決めてから別れることが奨励されると思われます。前回(第1回の参画ゼミ)で、母子家庭の収入の内訳は、就労収入と児童扶養手当と養育費、と書きました。しかしながら、この養育費を受けている率は、19.7%しかいません。(表1)また、養育費の支払いを一度も受けたことがない人は 60.7%もいます。(いずれも「平成 23 年度(2011 年度)全国母子世帯等調査」(厚生労働省)より)

表 1 母子世帯の母の養育費の受給状況

総 数 現在も養育費を受けている 養育費を受けたことがある 養育費を受けた
ことがない
不詳  単位
平成 18 年 (100.0)  (19.0) 

(16.0)

(59.1)

(5.9)  (%)
平成 23 年 1,332 
(100.0)
263 (19.7) 211 (15.8)  808 (60.7) 50(3.8) (世帯) (%)

 養育費については、2004 年から養育費相談支援センターが設置され、相談活動を実施していますが、相談だけでは解決にはなりません。諸外国のように、国が肩代わりして支払い、国が取り立てるシステムが早急に必要でしょう。

 また、面会交流についても、先の全国母子世帯等調査を見てみると、面会交流を行っているのが27.7%と、養育費をもらっていると答えた人(19.7%)よりも多くなっています。(表2)要するに、養育費を受け取ってはいないが面会交流はさせているという母子世帯が一定数いるということです。面会交流に関しては、会わせない母親側が責められる傾向がありますが、実態はどうなのでしょうか。

表 2 母子世帯の母の面会交流の実施状況

総 数 現在も面会交流
を行っている
面会交流を行ったことがある 面会交流を行っ
たことがない
不詳 単位
平成 23 年 1,332 
(100.0)
369(27.7)

234(17.6)

677(50.8)

52(3.9) (世帯)(%)

 ただ最近、この面会交流と養育費をめぐって、親同士の間でもめるケースが増えています。たとえば、母親は「子どもに会わせたくないから、もう養育費はいらない」と言い、父親のほうも「子どもに会わせないなら、養育費は払わない」と言ったりすることがあります。しかし、養育費も面会交流も、どちらも子どもの権利なのです。これを忘れているケースがけっこうあるのではないでしょうか。
子どもの最善の利益をだれもが考え、子どもの気持ちをしっかりと聴き、子どもがどうしたいのか、子どもにとってどうするのが本当に良いのか、周りのおとなたちは真剣に考えるべきです。離婚に際して、また調停で、子どもの気持ちをきちんと聴き、真摯に受け止める役割をする「子どもアドボケイト」が、今こそ必要なのではないでしょうか。こちらも早急にシステムを実現していただきたいものです。
 面会交流に関しては、たとえばDVなどの被害を受けたため、どうしても別れた夫に会いたくない、声を聞くのもつらい、そんなシングルマザーも確かにいます。それでも子どもは父親に会いたがっている、そして子どもが危害を受ける可能性はない、そんな場合は、安全に面会交流ができる第三者機関も必要です。やっと東京で試験的に始まっていると聞きますが、まだほかの地域では民間の団体が細々と行なっているに過ぎません。これも、アメリカなどでは「面会交流支援センター」という施設があり、ガラス張りの安全性が保障された部屋で弁護士の立会いのもと、子どもと別居親が面会をしています。こういった施設も各地に必要だと考えます。

親以外のおとなたちも子育て 

 母子家庭で育つ子どもたちは、決して特別な存在ではありません。かわいそうな子でもなければ、父親のいない子、でもありません。子どもたちは子どもたちなりにいっしょに暮らす親のことを思いやり、心遣いをしながら生活しています。また、別居親のことも、それなりに気にしており、別れた親同士の関係にも心を砕いています。親たちは、ともすれば自分たちのことでいっぱいいっぱいになって子どものことを省みられないときもあります。そんな時は、親以外の周りのおとなたちが、子どもの心に寄り添って、親の大変さを子どもが背負わずにすむようにしてあげればよいのです。

 母子家庭で育つことが、決して特別なことではなく、ひとつの家族のあり方に過ぎないと社会全体が思うように、そしてたいへんな状況の子どもがいたら、親だけが子育てを担うのではなく、周りのおとながいっしょに育てていく、そんな社会になるように、心から願っています。