第1回 「防災=男性の仕事という思い込みをなくしましょう」

 皆さんの地域では、どのような地域防災訓練が行われていますか? 
 地域役員の男性を中心にマニュアル通りの集団行動を促され、女性は炊き出し班か救護班に回されることが多いのではないでしょうか。

 現在、さまざまな分野で男女共同参画が進んでいますが、「防災」だけは、いまだに男性だけ、あるいは男性が圧倒的に多い中で計画づくりや実践が行われていることが多いのです。そのためか、災害発生時には旧来の性別役割分業が強化され、復旧・復興の段階に入っても平時より女性の参画が少なくなってしまう現象が、過去の被災地で度々起きています。生命や暮らしを守る大切な分野でありながら「男性任せ」「専門家任せ」にしてしまっていてよいのでしょうか?

 これから3回にわたって、男女共同参画の視点から防災・減災・復興について考えていきましょう。

1.防災=男性が担うもの、という思い込みをなくしましょう

 研修会場で「防災」という言葉から思い浮かべる色(イメージカラー)を尋ねてみると、赤やオレンジ、黄色といった警告色系、あるいは灰色や深緑、カーキ色といった国防色系の答えが返ってきます。このような色で想定される活動の担い手=男性、という考えが、私たちの意識の中には刷り込まれてしまっています。政府の男女共同参画推進計画の中でも2005年の第二次改訂以来、「防災」分野が位置づけられ、地域防災会議や消防団に女性の参画拡大を図る動きもありますが、なかなか広がりません。防災や災害救援の活動は「男性が担う力仕事」「訓練を受けた専門家でないと担えない特殊な分野」という思い込みが強いからでしょう。

 しかし、平日日中に災害が起きた場合、地域にいるのは高齢者や子ども、一部の自営業者、そして女性(専業主婦や遠距離通勤でないパート女性)たちです。初期消火やジャッキ等の使い方、避難誘導や安否確認、避難所設営のコツなど、リーダーシップ・トレーニングも兼ねた実践型の研修を受けておかないと、自分や大切な人の命を守れません。

 また災害サイクル(図参照)の中で考えてみると、発生から初期の緊急救命の段階では専門的な訓練を受けた人が中心になるかもしれませんが、復旧⇒復興と続く息長い取り組みの中では、老若男女すべての人の主体的な参加が欠かせません。古い性別役割分業に基づく思い込みや苦手意識を捨て、女性も災害対応の担い手になる心構えが求められます。

 これまで防災について学ぶ機会が少なかった女性たちに、研修やトレーニングを受けられるようにすることは、2005年に神戸で開かれた国連防災世界会議の採択文書「兵庫行動枠組」の中にも盛り込まれています。現在、女性向けの研修メニューとして、炊き出し訓練▽非常用持ち出し袋の作り方講習▽水を使わない調理実習▽子どもを守るための勉強会、などが行われていますが、このような「妻役割」「母役割」のプログラムだけでいいのでしょうか。女性を「災害弱者」や「補助的役割」の枠に押し込めるのではなく、防災・減災・復興の担い手としてエンパワメントにつながるプログラムの開発が待たれます。

図表

2.減災の本質をとらえ、柔軟に考えましょう

 自然災害から逃げることはできませんが、人為的な努力でダメージを減らすことはできます。これが「減災」という考え方です。建物の耐震化や家具の固定、食糧・薬の備蓄などのほか、▽地域内の危険個所を知り、改善の手立てを施すか、別の避難経路を確保する▽あらゆる人が防災に関する研修やトレーニングを受けられる機会をつくり「自助」の力を鍛えておく▽災害時に取り残されそうな人に目配りし、ニーズを汲み取るなど「共助」を強化する、といった取り組みも重要です。

 災害時には「想定外」の事態が多く起こり、なかなか規定のマニュアル通りにはいきません。マニュアルで表そうとした災害対策の本質をとらえ、臨機応変な対応をしないと、かえって非効率や悪平等、人権侵害事案を招くこともあります。

 そのマニュアルや運用上の「落とし穴」を埋めるためには(1)現行の体制や計画・マニュアルを多様な視点で点検し、不備を埋める知恵を皆で出し合う場をつくる (2)防災・減災の本質を理解し、臨機応変に動ける(マニュアル人間ではない)人材を育てる…という両方のアプローチが必要です。

 (1)では、「多様な視点」を確保するため、当事者参加や協議の場における参加のデザインに配慮しなければなりません。地域防災組織のリーダーや消防・危機管理部局の職員は、一生懸命やっておられるのですが、健常な中高年男性だけが机上で知恵を絞っても、高齢者や子育て世代のニーズ、障がいや持病を抱える人の困りごとなどは捉えきれません。地域内の女性団体や子育てサークル、障がい者団体などの当事者、あるいは現場の事情をよく知る支援者らの意見を聞きながら、皆で考える場が求められます。その中で、災害時の自助・共助・公助の望ましいバランスが見えてくるのはもちろん、普段からのつながりも深められるでしょう。誰もが声をあげやすい場をつくるには、男女共同参画の理念を浸透させる必要があります。

 (2)の場合も、女性の生活感覚や柔軟な発想が欠かせません。例えば、災害時に「避難所に行かない人・行けない人」というのは、歩けないなど物理的な理由以外にも結構たくさん(認知症のお年寄りや乳幼児、多動の子どもらとその家族、一人暮らしの女子学生やOL、外国人女性、ペットと離れられない人等々)おられます。この話を女性たちにすると、すぐに分かってもらえる、あるいは「たぶん私も行きません」という人もいたりするのですが、男性の防災リーダーの方たちは「全員が揃って指定避難所に行くものだ。自力移動が困難な人は、近隣で助け合い戸板に載せてでも連れて行く」と主張されます。

 しかし、指定避難所は多くの場合、最寄りの学校体育館で、生活環境としては劣悪ですから、虚弱な人を運びこんでも、そこで体調が悪化させてしまう恐れがあります。何より、さまざまな事情を抱える人の存在が防災リーダーたちに理解されていないと、自宅や知人宅で耐えている人が見落とされたり、不当な差別を受けたりする恐れがあります。指定避難所を居心地の良い場所にする努力が必要なのは言うまでもありませんが、発想を変えて▽指定避難所以外にも、乳幼児のいる家族専用の避難場所や畳の部屋がある福祉避難所などを地域内で確保し、そこに情報や支援物資などを届ける▽逃げ遅れやすい人こそ安全な家に住めるようにする…などの対策が必要ではないでしょうか。

 そのような柔軟な発想で課題をとらえ、複数の対策やセーフティネットを講じるには、女性を含むさまざまな人が防災リーダーになる、あるいは地域防災を考える場に参画するのが近道といえるでしょう。