第3回 「復興段階での共同参画から平時につなぐ」

 今年(2013年)も1月17日前後、阪神・淡路大震災の被災地では、さまざまな追悼集会や記念行事、防災や復興を考えるフォーラムが行われました。昨年以来、東日本大震災の関係者らもこの地を訪れ、経験交流が始まっています。お話を聞いていると、阪神・淡路や中越大震災の教訓が活かされたと思うこともあれば、過去の手法は役に立たず新たな対応が必要なこと、さらには重要であるにもかかわらず未検討な課題などが、少しずつ見えてきます。

1.検討が進んだこと・不十分なこと

 男女共同参画の観点でいえば、ここ十数年の間に、次のような進展がありました。防災分野における男女共同参画の必要性が国や自治体の計画に明記され、防災会議や消防団での女性の割合が指標として注目されるようになった▽避難所に生理用品や紙おむつ、粉ミルクなど女性や乳幼児に配慮した物資が準備され、着替えや授乳のスペースが設けられるようになった▽災害時には女性や子どもへの人権侵害事案が起きやすいことが認識され、予防やケアに取り組む市民グループや専門家組織が活動している、等々。

 その一方で、検討が不十分な課題としては、ジェンダー統計の普及▽働く女性たちが災害時に出動・出勤できる支援体制の整備▽単身や一人親世帯、DINKSら地域コミュニティと疎遠になりがちな世帯の増加を見越した複数のセーフティネットづくり、等があります。とくに2番目の「緊急時に、家族の世話などで出動・出勤できない」ことは、民間事業者における女性管理職や行政防災部局の女性職員の数がなかなか増えないことの原因になっており、早期の改善が求められます。また、初回で触れた「避難所に行かない人・行けない人」の分析と対策についても、急ぐ必要があります。

 特別な配慮や支援が必要な「災害時要援護者」の定義の中に「妊産婦」や「乳幼児」は入るようになりましたが、具体的な支援策としては、避難所に紙オムツと粉ミルクが置かれたぐらいで、避難する際に誰かが助けに来てくれるわけではありません。ほとんどの自治体は、支援者確保の難しさから、避難時の支援対象者を要介護度3以上の人、療育手帳Aや身障手帳1,2級の障がい者、独居高齢者や高齢者のみの世帯だけに限定しており、それ以外の人(妊産婦、乳幼児、外国人、病弱な人…)には手が回らないのが現状です。普段の外出でさえ荷物がかさばり、周囲の目も気になって大変な思いをしている子連れのお母さんたちが、緊急時に安全に避難できるかどうか、とても気がかりです。

2.連携・共助で、女性や要支援者の自立を促しましょう

 支援側の人手不足から災害時要援護者への個別サポートに限界があるとすれば、どうすればいいでしょう。自助の力を高める(避難しないでいいような住宅耐震化なども含めて)のはもちろんですが、連携して補完し合える手立てを考えてみましょう。

 例えば、子どもや要介護の家族を抱えた女性たちは、誰かがその人を見ていてくれれば、手が空いて、ほかの人を支援する側に回ることができます。避難所運営の役割も担えますし、キャリア女性は出動・出勤して復旧・復興に貢献できるでしょう。子どもや高齢者、障がい者も、一人ひとり切り離されたところでは「要援護者」かもしれませんが、連携して補完し合えば、第三者の手を借りずに自立できる可能性はあるのです。

 託児や託老、介助といったこの小さな連携や共助は、無償でもよいのですが、「しごと」にする可能性も探ってみるべきです。東日本大震災では「CFW(キャッシュ・フォー・ワーク)」が提唱されました。これは、被災者に現金収入が得られる仕事を提供し、早期自立を促そうという考え方です。今回、実践されたのは、がれき撤去など力仕事中心でしたが、もっと女性向けの仕事を開拓する必要があります。実際の避難所運営では、食事の世話を被災女性だけにアンペイドワーク(無償労働)で担わせる例が多かったようですが、「愛情」や「絆」という言葉で女性の能力・労力をからめ取ってしまわず、ケアや調理を「しごと」にして、個々の自立支援につなげる方が、よほど被災者のためになると思います。 

3.一人ひとりを大切にした復興から日々の減災へ

 次に、復興段階での男女共同参画について考えてみましょう。
 東日本大震災復興構想会議が2011年6月25日に発表した提言では、次のような理念が示されました。「これまで地域に居場所を見出せなかった若者や、孤立しがちな高齢者・障害者、声を上げにくかった女性などが、震災を契機に地域づくりに主体的に参加することが重要である。とりわけ、男女共同参画の視点は忘れられてはならない」

 復興の地域づくりにおいては、従来と同じ手法や固定的な顔ぶれで行うのではなく、社会的包摂や多様性の確保、とりわけ男女共同参画といった価値観を共有し、プロセス段階から実践していこうという呼びかけです。これを受けて、政府災害対策本部の復興の基本方針(11年7月29日)には「男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進する」という文言が盛り込まれました。

 しかし実際は、厳しいものがあります。被災自治体が復興計画を策定する際の審議会や検討委員会メンバーはほとんどが男性で、女性委員の割合は沿岸部38市町の平均で11.2%に過ぎません。平常時よりも災害復興の段階で、女性の参画度合が低くなる現象は、阪神・淡路の時にも起こりました。民間の取り組みでも、復興まちづくりを考える住民組織(まちづくり協議会)さえ、結成されていない地域が多いようです。

 もちろん、さまざまな事情があります。もとの居住地を一時的に離れてしまい会合に参加するのが難しい人もいるでしょうし、家族や勤め先の事情で忙しくなり会議どころではないという人も少なくありません。それだけに、会合の持ち方を工夫し、議題とその論点、決定事項ついて、いつもにも増して丁寧な情報伝達を心がける必要があります。紙媒体や掲示板の利用はもちろん、ICTを利用したネット会議や中継、記録も有効です。

 大切な人や場所を失った被災者の心境は計り知れませんが、それでも「自分たちの声が反映された」「経験や教訓が将来に活かされた」と感じることができれば、少しは救われるかもしれません。逆に、地域の復興に限られた人しか参画を許されなかったり、知らないうちに計画が決まってしまったりすれば、取り残され感が募ることでしょう。当事者参加の保障は、心の復興の面でも、大切なことなのです。

 具体的に、どうすればいいのでしょう。
 地域住民の間で解決できれば一番良いのですが、外部から寄り添い型の支援をすることで効果をあげることもできます。東日本大震災でも、役員が男性ばかりになりがちな住民協議会に、外部から支援者やコンサルタントが助言することで、複数の女性が役員になった事例があります。はじめは尻込みしていても、活動しているうちに自信がついたり、知見が広がり面白くなったりしているようです。

 上記のことは、震災復興に限ったことではありませんね。情報を得る・意見を言える・否定されず聞いてもらえる、といった参加・参画の保障は、社会的排除の状態におかれた人たちにとって大きな自信につながります。そして、減災のポイントが、多くの知恵を集めることであるのは、前回で指摘したとおりです。

 大震災によって突きつけられた「災害と男女共同参画」の課題は、被災地だけでなく、全国の一人ひとりに託された社会変革の課題でもあります。