第2回 「クオータ制の導入」

1.候補者、議席の割り当て

 2020年までに指導的地位の女性を30%にするといっても、容易な業ではないことはみんなわかっている。企業の場合は年功序列型経営が減ってきたとはいえ、飛び級で若い管理職を作るかといえば、そこまでの冒険をする勇気はない。年功は死滅したわけではないのである。
 そう考えると、女性は不利だ。第1子出産を契機に、6割の女性が会社を去る。正確に言うと、62%の女性が、辞めていくのである(2005年)。就業継続率は38%。第3次基本計画では、2020年のそれを55%に引き上げることを目標にしている。
 すなわち管理職を増やすといっても、単にポジティブ・アクションに取り組めばいいというものではなく、ワーク・ライフ・バランスなど脇を固めることも大事だということをまず指摘しておく。
 さて、第3次基本計画のポジティブ・アクションには大きく3点に分類できる。
 一つがクオータ制、つまり割当制の導入だ。どこにクオータ制を導入するかというと、国会議員の女性候補者に占める割合だ。2009年の衆院選での女性候補者比率は16.7%、2010年の参院選女性候補者比率は22.9%と、いずれも3割には達していない。これでは2020年までに指導的地位の女性を3割にすると言っても、空念仏でしかない。
 「2020・30」を実現するのは、政治の分野で言えば、とにかく女性候補者を30%にしなければ、ことは始まらない。それを受けて、第3次基本計画では2020年までに30%という「政府として達成を目指す努力目標」が書き込んである。手前味噌になるかもしれないが、これを入れ込んだのは画期的なことだと思っている。クオータ制と聞いただけで、「あんな、結果の平等を目指すようなものはダメダメ」と毛嫌いする向きが少なくない中で、とにかく政府が各政党に働きかける際の「努力目標」ができたのである。
 では、本当に実現するのだろうか。現在、筆者もメンバーの一人として参加している、男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会のポジティブ・アクションWG(ワーキング・グループ)で、その議論を始めたばかりだ。この分野の第1人者である東北大学の辻村みよ子さんらの報告などを手掛かりに、まだ議論は緒に就いたばかりだが、一概にクオータ制と言っても難しい問題がたちはだかる。
 例えば比例代表制であれば、候補者名簿への女性の一定数の登載を確保できる。では小選挙区制なら、どうそれを担保するのか。比例代表制は候補者の割り当てを行うことによって、男女交互名簿方式などの対応で解決できるが、小選挙区制はそれができない。
 バングラディシュやタンザニアなど開発途上国で見られるのは、議席の割り当て方式(リザーブシート方式)である。国会の議席や地方議会の議席の3割、4割を女性に割り当てる方式である。日本がどの方式が望ましいかは、今後、女性と政治に関する議論をもっと喚起することで世論の関心、喚起を図る作業を同時並行して進めることが大切だ。
 合憲性との問題も議論が必要になる。憲法14条は法の下の平等を掲げている。クオータ制に限らず、ポジティブ・アクション全体に言えることだが、男性に対する逆差別だという指摘もある。それは結果の平等を目指すもので、平等原則に反するものだという主張もある。

2.クオータの方法もさまざま

 だが、そうだろうか。結果の差を生み出すのは、能力と不断の努力の賜物によるものだけなのだろうか。「置かれた社会的状況の違い等により、実質的には機会が平等に与えられているとは言えないことによるものがある」(内閣府男女共同参画局「ポジティブ・アクション研究会報告書」2005年)ことも事実である。
 私が講演等でよく例に出すのは、管理職の昇進試験だ。夫は帰宅後すぐに受験勉強にいそしむことができるが、妻はといえば家族の夕食の支度、後片付け、あした保育園に行く子どもの準備等々で、受験勉強に取り組めるのは夜中近くになるかもしれない。このように考えると、機会の平等は誰にでも均等に与えられているわけではないのである。
 だとすれば、平等化の作業を急ぐとすれば、クオータ制は有力な手法の一つであることは間違いない。むろんクオータ制といってもさまざまだ。割り当てが5%のクオータを導入している国もあれば、男女同数の50%クオータもある。後者の代表例は、フランスのパリテ法(男女同数制)だ。フランスは憲法を改正してまで「法律は、選挙によって選出される議員職および役職への女性と男性の均等なアクセスを促進する」(第3条、「ポジティブ・アクション研究会報告書」)との条項を付加した。
 日本の場合は、先に述べたように、女性候補者の比率を30%にする、というのが政府目標である。第3次基本計画の中で政府は、地方公共団体の女性の参画拡大にも触れ、政党や地方6団体に地方公共団体の議会の議員候補者における女性の割合が高まるよう要請するとしている。徐々にではあるが、国、地方自治体を問わず、女性議員を増やす手掛かりだけはできた、と思っている。
 いずれにしろ、国会議員を増やさない限りは、男女平等に関する日本の評価は低いままである。さまざまな世界指標を見ると、日本はどん尻に近い。それはひとえに、国会議員に女性が少ないからだ。第3次男女共同参画基本計画の「基本的な方針」にはこうある。
 「男女共同参画に関して国際的な評価を得られる社会」を目指すと。
 この文言が偽りになってはならない。偽り、虚言のそしりを受けないためには、クオータ制がこの国に、しっかり根付かなければならない。第3次基本計画に関するさまざまな議論を通じ、そう思っている。
 第3次基本計画に盛り込んだポジティブ・アクションは、クオータ制のほかにインセンティブ方式、ゴール・アンド・タイムテーブル方式があるが、それらの解説は次回に譲る。