第1回 「“エッジ”を効かせ、“実効性”を注入」

1.本当に事態が進展するのか

 第3次男女共同参画に何を盛り込むか。その基本的な方向性を考えてほしいといった趣旨の諮問を時の総理、麻生さんから受けたのが2009年3月のこと。自民党政権下のことだった。その後、政権は民主党連立政権に変わり、中間整理のポイントを報告したのが2010年4月である。相手は鳩山総理。答申書を手渡した相手は菅総理(2010年7月)だった。実にめまぐるしく総理が変わった。
 そうした中で誕生したのが、第3次男女共同参画基本計画である。今回から3回にわたってそのポイントを紹介する。自画自賛と言われるのを承知で言えば、かなり踏み込んだ内容を答申し、政府もそれに応えた基本計画を作ってくれたと思う。どのあたりがそうなのかという議論は2回目以降に譲るとして、初回は第3次基本計画全体に流れている考え方あたりを説明したい。

 私が所属する男女共同参画会議は、大体3ヶ月に1回の割で官邸で開催される。会議のメンバーは閣僚12人、それに私のような民間議員12人、計24人からなり、議長は官房長官。総理はだいたい、毎回出席する。そして2010年2月の参画会議で、閣僚の一人から刺激的な発言があったことが、その後の答申に向けた起草委員会での議論に大きく影響することになる。
 発言の主は国家戦略担当大臣(当時)だった仙谷由人さん。私が中間整理案の報告を行った後に、次のような発言があった。
 「ちょっと挑発的に話をさせてほしい。今、報告を受けたような第3次計画で、本当に今後の5年間で事態が進展するのか。きれいな文章の計画を作っても実現できないことになり得るのではないか。全然エッジが効いてない。こんなことを100回繰り返しても、事態の進展はないと思う。極端なことを言えば、大企業にも女性の管理職員を何%にしない時には、賦課金を取るぞぐらいの、極論をすればそういうことまでも含めた、エッジの効いたことを5年間の数値目標とともにやらないと事態が進まないのではないか」
 本当に、そんなにエッジが効いていなかったのかどうか、改めて中間整理案に目を通してみる。
 2010年4月に男女共同参画会議・基本問題・計画専門調査会が公表した「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて」(中間整理)は、当時の男女共同参画担当大臣だった福島みずほさんの「「中間整理」に寄せて」が冒頭に載っている。

  • 男女共同参画社会をつくるとは、女性にとっても男性にとっても生きやすい社会をつくることである
  • それは、固定的な性別役割分担意識をなくした男女平等社会のことだ。
  • 第3次男女共同参画基本計画を作るにあたって、国連が提唱しているジェンダーの主流化を目指すとともに、実効性のある計画にしたい
  • 女性にも男性にも、「男女共同参画は私のことだ」と思ってもらいたい

 福島さんのメッセージの趣旨を要約すれば、大体こんなところである。男女共同参画に対する思いが伝わってくるが、起草委員会での議論も、大筋、そんな方向に進んでいたことは確かである。男女共同参画は、男女共同参画社会基本法が施行されて10余年が経過するというのに社会に浸透したとは言い難いのはなぜなのか。そうした反省から議論は出発し、性別役割分業意識がいまだに根強いからではないか、働く女性のためのものという印象を与え、専業主婦や男性が離れていってしまったからではないか、いや、なんといっても政治の意志が希薄だったためだ等々の熱っぽい議論が展開した。

2.やる気に火が

 そうした議論を経ての中間整理案だっただけに、それを発表した2010年2月の参画会議で「エッジが効いていない」と指摘されるとは思ってもみなかった。だが、その一言が起草委員の“やる気”に火をつけた。確かにそれまでは、答申案を「まとめる」ことに腐心し、「社会を変える」という意識はその後ろに隠れていたかもしれない。
 注文が付いた2010年2月の参画会議の席上、私もすぐ反論めいた意見を述べた。
 「生ぬるいという指摘があったので、反論を含めて意見も言いたい。…パンチを効かせるとすれば、例えばポジティブ・アクションでクオータ制を設ける方法もある。国会議員だったら、女性候補者の比率を3割、4割にするという方法がある」(詳細は内閣府・男女共同参画会議のホームページ参照)。
 この時から、起草委員会でクオータ制が大きな課題になった(クオータ制の詳細は次回に譲る)。そして、この言葉を引き出したのが、仙谷さんの一言だった。後に官房長官として男女共同参画会議の議長を務めた仙谷さんはこの話をすると、「いやぁ、あの時は、官房長官ではなかったから、そんな注文が出せたのかな」と照れていたが、政治家の一言、とくに閣僚の一言はかくも重いということでもある。
 同時に参画会議では「実効性」という言葉も総理を始め、閣僚から出た。「きれいな文章にまとめるのは簡単だ。実効性がなければ」と。
 「実効性」-それは世の中を変える力があるということだろう。そして実効性を担保するために、第3次基本計画は15の「重点分野」ごとに第2次基本計画の倍近い82項目の「成果目標」を掲げている。成果目標は一定の期間内に政府が達成を目指す水準だ。
 例えば民間企業の課長相当職以上に占める女性の割合は、2009年時点で6.5%しかいない。それを2015年までに成果目標として「10%程度」としている。本当に達成できるのかどうか。そのための装置も仕掛けたが、解説は次回に譲る。
 いずれにしろ、第3次基本計画のポイントは何かと言えば、“エッジ”と“実効性”なのである。少子化、貧困、労働力不足、景気低迷等々、多くの困難に私たちは直面している。多くの問題を解く手掛かりの一つが男女共同参画という視点であり、だからこそエッジが効いた基本計画の実効性に裏打ちされた展開が望まれるのである。


 この原稿を執筆している途中で、東北関東大震災が起きました。大津波で親を、子を、身内を奪われた方々に謹んでお見舞いを申し上げます。肉親を奪われることが、いかに辛いか。私は2008年5月に結婚を控えた最愛の娘をボリビアでの、対向車の酔っ払い運転による交通事故で失いました。その傷は今も癒えません。ですから、いつか立ち直れるようにといった、安易なお見舞いの言葉は申し上げません。悲しみと同居しながら、とにかく生きる気力を振り絞ってください。今の私には希望などありませんが、それでもなんとか生きようともがいています。