第1回 LGBTQ+、トランスジェンダー、性別不合とは?

●様々な性の要素

 性には様々な要素があります。身体の性(性染色体、性器の解剖、性ホルモンのレベルなどから決定)、性の自己認識(性自認)(Gender Identity:性同一性とも訳され、自分は「男」「女」「男でも女でもない」等の認識)、性的指向(Sexual Orientation:性愛の対象となる性別)などがあります(図1)。また、性別表現(Gender Expression:服装や髪形などの表現)、性役割(Gender Role:男性として、女性として果たす役割)、社会に割り当てられた(指定された)性(Assigned Gender/Sex:戸籍や保険証等の性別)なども性の要素の1つです。

図1
(図1)性の要素

●性的マイノリティとLGBT

これらの性の要素のいずれかが多数派と異なる人々は「性的マイノリティ」と呼ばれます。同性愛は「性的指向」の視点から見た場合に少数派で、レズビアン、ゲイなどが含まれます。また、バイセクシュアル(両性愛)、アセクシュアル(無性愛)も「性的指向」から見た言葉です。トランスジェンダーは「性自認」の視点から見た場合の少数派です。
 これらの頭文字であるL(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)を合わせて「LGBT」、また、Q(クエスチョニング:Questioningやクイア:Queer)を加えた「LGBTQ」、さらに、性的マイノリティすべてを含むニュアンスを加えた「LGBTQ+」という言葉も目にすることが増えているかと思います。

●性の各要素が持つグラデーション

 このように、多様な性の要素ですが、いずれも「男性」「女性」の2分法ではなく、グラデーションがあるということを理解することも重要です(図2)。これは、LGBTQ+当事者のみのことではなく、すべての人に当てはまることです。また、これらも、一生変わらないものではありません。揺れたり、変わっていったりすることもあります。

図2
(図2)性のグラデーション

●LGBT理解増進法とジェンダーアイデンティティ

 2023年6月に議員立法で「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)」が成立しました。この過程で「性自認」(LGBT議員連盟の案)を使用するのか、「性同一性」(自民党・公明党案)を使用するのかの議論がなされました。その後、「ジェンダーアイデンティティ」(維新案、国民民主案)も加わり、4党協議の末、ジェンダーアイデンティティが採用されることになったという経緯があります。しかし、元々、「Gender Identity」の邦訳が「性自認」あるいは「性同一性」であり、3つの言葉は同じ概念です。

●トランスジェンダーと性同一性障害

 トランスジェンダー当事者の中には、ホルモン療法や手術療法などの医療が関わることにより、性別違和感が軽減したり、生活の質(QOL)が向上したりする例が存在します。このように性自認と身体の性とが一致しないために性別違和感を持つトランスジェンダー当事者が、医療施設を受診した場合の診断名として「性同一性障害(Gender Identity Disorder: GID)」があります。
 これは、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Classification of Diseases)第10版(ICD-10)に沿った名称です。

●「性同一性障害」から「性別不合」へ

 一方、アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第5版(DSM-5)では、「Gender Identity Disorder: GID」を「Gender Dysphoria」に変更し、日本精神神経学会は「性別違和」と訳しました。このように世界的には、「障害」ではなく「医療を必要とする状態」と考える脱病理化の流れがあり、それに沿って、2022年に発効したICD-11では「Gender incongruence」に改称され、邦訳は「性別不合」の予定です(日本では、現在、ICD-11への移行の準備中)。今後は、「性同一性障害」や「GID」という言葉は使われなくなると思います。

●「性別不合」で変わった定義

 ICD-10では、「性同一性障害」を「身体の性と性自認とが一致しない状態」と定義していましたが、ICD-11では、「性別不合」を「出生時に割り当てられた性と実感する性別(experienced gender、性自認に近い概念)とが一致しない状態」としました。
 出生時に割り当てられた性が女性で、実感する性別が男性である場合は、female to male(FTM)と呼ばれてきましたが、近年、トランスジェンダー男性(トランス男性)とも呼ばれていますし、医療の現場では、ICD-11に沿ってassigned female at birth(AFAB)と呼ばれる可能性があります。同様に、male to female(MTF)はトランスジェンダー女性(トランス女性)、assigned male at birth(AMAB)などの名称に変わっていくと考えられます。

●「性別不合」の定義の意味

 性別不合は、「実感する性別」が「身体の性」とではなく、「出生時に割り当てられた性」と一致しない状態ということですから、医療で「身体の性」を本人の望む性別に近づけるのみでは不十分ということになります。社会に割り当てられた性別による種々の苦痛を、社会の方が解決しなければならないことになります。
 また、ICD-10では、性同一性障害を「精神疾患」に分類していましたが、ICD-11では、性別不合を「性の健康に関連する状態(Conditions related to Sexual Health)」に分類しました