第3回 DV被害者へ寄り添う支援とは

1.暴力を受けていい人はひとりもいない~社会の中でできること

 DV被害者に対して「あなたにも問題があったから暴力がおきたのでは?」と言うことは、DV被害で傷ついた被害者をさらに深く傷つけることになります。加害者は「お前がだめだからだ」「お前が間違ったことをしたからだ」と言い、暴力をふるってきます。しかし、どんな問題にも暴力を用いない解決方法は必ずあります。例えば「掃除ができないからだ」との理由で、DV加害者が暴力をふるったとします。しかし、家の中が片付かないことについては、家族で話し合いをする、家族に掃除の分担を振り分ける、掃除の家事サービスを外注するなど様々な対応があるのです。いろいろな対応方法があるにもかかわらず「暴力」という間違った方法を選んだことが、暴力の起きた原因です。暴力をふるっていい理由はありません。暴力をふるわれてもいい人は一人もいません。
 DV被害者は「お前が悪いからだ」と言われ、繰り返し暴力を受けます。そのことによって、被害者は「自分は暴力を受けても仕方がない人間だ」と自分自身を責めるようにもなります。暴力は被害者の自己肯定感を奪い、その人を内側から弱らせるのです。自責感に苦しむDV被害者には、「あなたは悪くない」「暴力を受けていい人なんて誰もいない」と声をかけてください。
 DVだけではなく、虐待やいじめ、パワーハラスメントなども人が人を傷つける行為です。人間関係の中で起きた傷を癒すために必要なことは、被害者が味方と感じられるような人とのつながりです。DVや暴力について正しい理解を持ち、DV被害者を支援できる力を社会の中に増やしていきましょう。

2.相談することの重要性

 DV被害に気づいた時には、まず被害者が専門の相談につながることが大切です。現在、全国各地に配偶者暴力支援センターが設置され、相談ができるようになっています。DV被害者には、相談窓口があることを伝えてください。被害者がDVについて専門知識を持つ支援者とつながり、DVについての正しい情報や今後の選択肢の幅を広げることは、回復の第一歩となります。その他にも、法律相談やDV被害者やシングルマザーを支援するNPO法人の情報、参考になる信頼できるウェブサイトや本や相談のホットラインなど、被害者にとって必要な情報を伝えてください。

3.別れられない心理 トラウマティック・ボンディング

 DV被害者が加害者からの離別を決意するのは、容易ではありません。「住むところや仕事があれば別れられる」「シングルマザーが子どもを安心して育てられる社会があるなら、別れたい」という声は多くあがっています。DV被害者が離別を選択できるような仕組みを、社会の中にもっと増やす必要があります。
 DV加害者は暴力をふるった後には謝ったり優しくなる傾向にあります。これは実は、戦場で捕虜に対して行う洗脳と同じ方法です。緊張と緩和が交互に繰り返されることによって、「ここから離れられない」「何とかここでうまくやっていかなくてはならない」と感じるトラウマティック・ボンディングという特殊な心理が生じます。トラウマティック・ボンディングにより別れられなかったり、別れた後によりを戻したくなることが起きているのです。最終的に別れるまでに、別れたりよりを戻したりを繰り返す回数は5~8回とも言われています。支援する人は被害者の別れられない状況を理解し、長期間の支援をしていくことが大切です。離別を決断するまでには時間がかかることは、とても多いのです。別れを決断できない被害者に寄り添う支援者がいることによって、被害者は離別を選びやすくなる傾向にあります。DV被害者は「だれも味方がいない」「この複雑な状況をだれも理解してくれないだろう」と孤立しがちです。孤独は人を弱らせていきますが、味方を得ることで自らの力を回復させることもできるのです。

トラウマティック・ボンディング

4.繰り返される暴力の後遺症

 DVなど繰り返される暴力は、被害者の心身に悪影響をもたらします。不安感が過剰になったり、恐怖心が強くなったり、眠れなくなったり食べられなくなったり、頭痛やめまいなどが起きることもあります。突然過去に振り戻されるようなフラッシュバックと言われる症状に悩むこともあるかもしれません。今は安全な環境で生活していたとしても、暴力を経験していた時のような大きな音を聞いたり、加害者と年恰好の似ている人を目にした時などをきっかけに、心臓がドキドキして恐怖心が急に高まり、過去に暴力を経験していた時と同じような症状が出ることもあるのです。そのような時には、五感を使って今現在を認識する方法が役立つ場合もあります。今目に見えるものは何か、聞こえている音はどんな音かを確認したり、味覚、触覚、嗅覚などで「今」を感じられるようなものを用意しておくこともできます。気に入っている飴やポプリをカバンに入れておいたり、さわり心地の良い小さなタオルを持ち歩き、そっと触れると落ち着く人もいます。暴力を経験した後の悪影響からの回復には時間がかかることもありますが、精神科医やセラピストの助けを得てケアしていくことができる問題でもあります。体の傷と同じように、あせらず手当をしていくことが大事です。

5.トラウマの後の成長(PTG:Post Traumatic Growth)

 トラウマ経験は様々な症状をもたらしますが、被害者を強くしたり成長させたりするPTG(Post Traumatic Growth)という力を、トラウマ経験から得ることもできます。「過去のあの経験の中で頑張れた私だから、今度の困難にも立ち向かえる」という力や、「辛い経験をしたことによって、人の心の痛みに共感する力がついた」という優しさ、「助けてください」と言える勇気、などはPTGです。DV被害など何らかの被害経験で苦しむ人は弱い人ではなく、その経験の中で培ったPTGという力を持つとても強い人なのです。

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