第2回 事例からみるダイバーシティ

1.女性管理職登用を阻害する要因

 2018年3月8日付の日本経済新聞が「大卒女性 生かせぬ日本」の見出しで、日本の大卒女性の就業率が74%とOECD加盟国中29位と低いこと、男女格差も著しく、企業の女性管理職比率は12.1%(16年度)、役員比率は3.7%(17年、上場企業)と最下位レベルにあることを報じています。また、女性が活躍できない要因として、仕事と育児との両立が難しいこと、結婚・退職が多く、キャリアを形成できないことを指摘しています。
 さて、それでは、女性管理職登用を妨げ、遅らせている要因とは何か。それを解明するには日本の高度成長期に遡ってみる必要があります。
 高成長モデルにおける「終身雇用・年功序列賃金制・企業別組合」に代表される日本的雇用慣行の対象は、家庭責任を背負わず仕事に長時間専念できる長期雇用の男性正社員に限られ、女性は、結婚・出産などのライフイベントによる退職が当たり前の補助的な働き手という位置づけでした。これは自ずと男性中心の社会的価値観や企業風土を形成することにつながります。
 このような社会的な価値観や風土の形成は、人々の考え方の基本的な枠組みを構成し、暗黙裡に人々の行動を長期間規定づけているのです。高成長モデルの下で制度化された日本的雇用慣行は、恒常的な長時間労働と固定的な性別役割分担とが対構造になって温存されてきたのです。
 男性正社員の長時間労働が変わらないままでは、共働きの女性たちが家事・育児の多くを担う役割も変化せず、女性の多くは、この役割を優先して仕事時間を短縮することになり、キャリアを形成できない状況に追い込まれてしまっています。
 また、職務が明確でなく、労働時間の長さが評価基準にされる傾向があるため、長時間労働の削減が改善できなかったことも理由の一つです。
 そこで、次には、どのようにしたら阻害要因を取り除いて登用を実現できるのか。実現できるか否かは企業規模に関係あるとはいえません。日本的経営・雇用慣行を変革して女性活躍・働き方に成果をあげた小規模企業である当社の取り組みをケース・スタディーとしてとりあげてみましょう。

日本的経営・雇用慣行
出典:山極 清子作成

2.女性の管理職登用比率75%と業績向上を実現した当社の取り組み事例

 株式会社wiwiwは、「女性活躍をはじめとするダイバーシティへの取り組みが企業の業績および成長性等の経営パフォーマンスを向上させる」という確信をもとに、ジェンダー平等を徹底し、以下のようなジェンダー・ダイバーシティとワーク・ライフ・バランス施策を筆者が着任した2010年から現在まで継続して取り組んできました。

<ジェンダー・ダイバーシティ>

  1. 年4回の目標面談で職務評価を明確にする
  2. 仕事に要した時間でなく成果を評価する
  3. 公正・公平な昇進・昇格人事を行う
  4. 男女ともにキャリア形成できるよう支援する

<ワーク・ライフ・バランス>

  1. 男女ともにキャリアと育児の両立ができるよう支援する
    ・男性社員:育児休業取得、家事・育児参画
    ・女性社員:パートナー(夫)の家事・育児参画
  2. ワーク・ライフ・バランスがとれる企業風土を醸成する
    ・残業ゼロ方針(月平均5時間未満)
    ・気兼ねなく1時間単位で休暇が取得可(有給休暇取得率90%以上)
    ・柔軟な働き方にチャレンジ

 取り組みのポイントは、恒常的な長時間労働の削減、固定的な性別役割分担の解消など日本的経営・雇用慣行を変えるジェンダー・ダイバーシティとワーク・ライフ・バランスを同時に推進することです。
 これらに取り組んだ成果として、1つは女性役員比率60%、女性管理職比率(課長以上)75%を達成でき、それらの職位に就いた女性がモチベーション高く活躍し、新たな価値を生み出す事業を担ってくれています。2つには業績の向上で、2009年の売上を1とした場合、2017年度では2.7倍へと伸長しています。

株式会社wiwiw売上実績の推移

 3つには、社会的な評価として、「えるぼし」の最上位認定、「くるみん」認定、『ダイバーシティ経営企業100選』などに選ばれたことです。
 最後に、社内のダイバーシティ・働き方実態把握調査においても、ジェンダー平等な職場であること、男女ともやりがいを持って働いていること、ワーク・ライフ・バランスがとれている、といった評価が得られました。

3.取り組みにあたり気をつける点、押さえておきたいポイント

 企業におけるジェンダー平等は、ダイバーシティとワーク・ライフ・バランスに通底する概念です。また、ジェンダー平等そして女性活躍は、ダイバーシティのイントロダクションという位置づけにあります。
 ジェンダー平等な企業風土が醸成されていないと、成果が出にくいのです。ダイバーシティだけ充実させても長時間労働を削減できず、そのような職場では子育て女性の就業継続が難しくなります。
 他方、ワーク・ライフ・バランスだけを充実させても、ダイバーシティが不十分であれば、女性の活躍と登用は実現しにくいのです。
 女性の活躍と登用を実現する鍵は「デュアル・アプローチ」にあります。単独でジェンダー・ダイバーシティ施策を進めるのではなく、これとワーク・ライフ・バランス施策とを組み合わせて同時に(デュアルに)進めていくことが肝心なのです。
 この「デュアル・アプローチ」の有効性は、机上の空論から出てきたものではありません。筆者が株式会社資生堂の人事部課長として1997年以来、同社の女性活躍推進施策の策定過程に深くかかわり女性管理職登用に実際に取り組んで来た経験を系統的に振り返り、時間をかけて分析し、論理的に整理するなかで導き出された結論なのです。
 資生堂の女性管理職登用の歴史はそう長くはありません。1995年、同社の女性管理職登用比率は3%台でした。2017年1月には、およそ20年を経て、全世界の資生堂グループではリーダー(部下を持つ管理職)に占める女性の比率は5割を超え、国内では30%と日本企業のトップクラスになりました。
 また、筆者が調査した先進企業50社においても、下図のように、ジェンダー・ダイバーシティとワーク・ライフ・バランスを同時に推進しています。

50社のジェンダー・ダイバーシティ施策の内訳と割合
50社のジェンダー・ダイバーシティ施策の内訳と割合
出典:山極清子(2014)「日本的雇用慣行を変えるダイバーシティ経営-女性管理職登用と経営パフォーマンスへの影響」

50社のワーク・ライフ・バランス施策の内訳と割合
50社のワーク・ライフ・バランス施策の内訳と割合
出典:山極清子(2014)「日本的雇用慣行を変えるダイバーシティ経営-女性管理職登用と経営パフォーマンスへの影響」

したがって、今、女性活躍が進んでいない企業であっても、この施策「デュアル・アプローチ」を経営戦略として定め、数値目標やスケジュールを明確にし、PDCAサイクルに則して達成状況や「進捗管理」を行えば、必ず成果を出すことができるのです。