第1回 いま、企業に必要なこと ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント

1.「ダイバーシティ」の由来

 ダイバーシティの伝統的な定義は、1965年に設置された米国雇用機会均等委員会により「ダイバーシティとは、ジェンダー、人種・民族、年齢における違いのことを指す」と明文化されています。
 1991年には公民権法の改正により、グラス・シーリング(glass ceiling)すなわち、働く女性の能力開発を妨げている見えない天井を取り除いて管理職・意思決定ボードへの女性の登用を促進する「ガラスの天井法 」が制定されました。グラス・シーリング委員会においては、女性の意思決定ボードへの昇進について調査が行われ、昇進の人為的障壁をなくす報告書の策定がなされ、それを大統領並びに国会に提出する規定づけられました。
 1990年代後半、アメリカの先進企業は、経済のグローバル化の進展に伴い国際競争力を高めるため人材の多様性を組織活力にする新しい企業経営であるダイバーシティ・マネジメントへと転換していきます。

2.「ダイバーシティ・マネジメント」とは

 まず、これまでにない企業経営としては、「ダイバーシティ・マネジメント」が重要です。「ダイバーシティ・マネジメント」とは、性別、年齢差、障がいの有無あるいは国籍の違いを超えた多様な人材が有する能力や発想、価値観をインクルージョン(包摂)することにより、組織全体の活性化を図り、商品提案力の強化をはじめ企業の価値創造を目指す人事・経営戦略です。

3.欧米企業が「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」を取りいれた背景

 1990年代、米国企業は、女性の管理職登用に本腰を入れ始め「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」の先駆けとなりました。その背景には、アフリカ系やアジア系、ヒスパニック系等の移民の人口増加率が高まり、労働市場における白人男性の確保が困難になったことがあります。そこで、女性をはじめ少数民族、移民、マイノリティーといった多様な人材を組織に取り込む必要が生まれたのです。それなくして、企業は競争力を維持できず、企業の持続的発展が望めませんでした。
 一方、ドイツ連邦家族・高齢者・女性・青少年省は、2002年から2010年の上場企業で最も重要な160の会社を対象に、企業の監査役員・役員における女性割合と財務業績との関係の調査を実施しています 。この調査では、役員および監査役員における女性割合の高い上場企業は財務業績が高く、企業のブランド価値が向上したという明確な成果が出ました。
 このような背景から、欧米企業では、女性の管理職登用を意識した「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」が不可欠であるとする認識が高まり、実行に移されています。

4.日本企業がジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントを必要とする理由

 日本の企業や政府も、持続的な経済成長のためには、これまで活躍できていなかった女性をはじめ多様な人材を組織に取り入れて生産性向上を図ることが急務であると気づきました。
 ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントを必要とする具体的な理由は3点あります。第1に、イノベーションが生み出され、新たな価値を創造できるようになります。国内市場の成熟化が一段と進むなか、多様な能力や個性、ライフスタイルを持ち合わせた女性人材が企業組織で活躍すれば、新たな商品・サービスの開発や価値の創造が可能になるだけでなく、組織の危機管理力も高まるなど、企業業績に良い影響がでるからです。
 第2に、経済成長、生産性向上がはかれます。IMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)は、日本が女性による労働参加を欧米レベルに引き上げられれば、一人当たりのGDP をさらに4%引き上げることが可能と指摘しています。また、ゴールドマンサックスでは、「ウーマン」(女性)+「エコノミクス」(経済)を組み合わせた造語「ウーマノミクス」を用いて、日本の女性の就業率が男性並み(日本の男性就業率は世界最高水準の約80%)に上昇すれば、820 万人が労働人口に加わり、日本のGDP を最大で15%押し上げる可能性があるといっています。
 第3に、少子超高齢社会への適切な対応が可能になります。団塊の世代が75歳以上になり、高齢化率30%を突破するようになると、団塊世代ジュニア層(1970年代生まれ)が親の介護を担うようになります。また、2060年には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率は40%近い水準になると推計され、男性を中心とした組織維持では限界がきます。女性はもとより時間制約のある育児や介護を担っている男性の社員や管理職を含む多様な人材の活躍が不可欠となるのです。

5.「ダイバーシティ経営」に不可欠な働き方改革とは

 「ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント」の視点にたってこれからの日本の企業経営を考えると、日本では「ダイバーシティ経営」という新しい経営のあり方が浮かび上がります。この「ダイバーシティ経営」とは、「女性はじめ多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」のことです。
 これまで登用されなかった女性人材を管理職に登用して組織内のパワーバランスを変えるには、「マネジメントのあり方」、「公正な評価・処遇」、「目標管理」などのジェンダー・ダイバーシティ施策に取り組むと同時に、男女ともにキャリアと育児を両立させ、時間当たりの生産性を向上させるワーク・ライフ・バランス施策とをデュアル(合わせて)に推進することが欠かせません。
 「ダイバーシティ経営」に不可欠な働き方改革とは、下図のように日本的雇用慣行を変革するダイバーシティ・マネジメントとワーク・ライフ・バランスとを包括的に取り組んで、誰もが能力を発揮できる企業風土を醸成していくことです。

資料画像1
出展:山極清子 作図