第3回 農山漁村における男女共同参画について

1.はじめに

 農業や漁業は、最近でこそ法人化した企業的な経営も増えてきましたが、多くは家族経営です。家族だからこそ、うまくいっていることはもちろん多いと思います。しかし、仕事と家庭の境目がはっきりせず、生活にゆとりがないという声もよく聞きます。仕事と家事の両立を求められることの多い女性にはなおさらのことのようです。 
 最終回である今回は、家族経営の中で一人ひとりがその能力を発揮していきいきと参画していくための取組を、農業の事例を中心にお話しします。

2.家族みんなで経営参画

 家族が仲良く暮らしていくには何が必要でしょうか。家族で暮らしのこと、事業のことについて、よく話し合うことが重要です。しかし、現実には農業経営について家族で細かく取り決めをしているところは少なく、労働時間も休日も労働報酬も決まっていない場合がほとんどです。経営主である男性からは、「家族だから一々決めなくても意志疎通は十分図れている」と言う声が多いのですが、本当にそうでしょうか。もし、経営主がそう思っているだけだとしたら…、ちょっと悲劇ですよね。 
 県では、農業経営や生活・地域活動などについて家族全員で考え、その結果を文書にする「家族経営協定」の締結を推進しています。パンフレットや機関誌、地域参画セミナーなどで啓発を行っている傍ら、興味を示す農家へは個別に相談に乗っています。 
 家族経営協定で取り上げる項目は様々ですが、次のような事項が多く挙げられています。

  • 経営の目標…経営の理念や収入、規模拡大や新規作物導入など
  • 役割分担…それぞれの責任ある役割、仕事内容(家事も含めて)
  • 収益の配分…役割や労働に対する正しい評価・報酬
  • 就業時間や休日…健康とゆとりを考えた就業条件
  • 生活設計…家族の年齢に応じた目標、後継者の就農・経営移譲なども

 話し合った内容を整理して文章化することで、初めて気づく部分もたくさん出てくるようで、家族それぞれの責任と目標がはっきりし、仕事への姿勢が変わってきたと言う経営主もいます。協定の締結は、個人のやる気が向上することで経営の改善にも非常に有効な手段なのです。 
 家族経営協定は、個々の取り組みが基本ですが、生産組織や集落での締結しやすい環境づくりもまた重要です。県内の締結農家数は平成15年度末で120戸と、まだまだ少ない状況です。しかし、締結農家が増えてくるにつれてその効果が理解され、市町村でも女性農業委員が中心となって推進に取り組むなどの動きが出てきています。
 なお、家族経営協定を漁業にも取り入れようとする動きも出てきています。まだ全国で39戸と少なく、県内での事例もないのですが、漁業経営を発展させる新たな手段として期待されています。

家族経営協定の締結農家数の推移(組)

平成10年度末 平成15年度末
三重県 47 120
全 国 12,03 28,734

3.特技を生かした経済活動…女性起業のすすめ

 皆さんはドライブによく行かれますか?車で走ると、最近はあちこちに「道の駅」が増えてきました。多くの道の駅では、地域の特産物が売られていますね。味噌や漬物、お餅やクッキーなどのお菓子も並んでいます。素朴なパッケージに惹かれてつい買ってしまいます。もし今度、そんな商品を見かけたら裏の表示をよく見てください。ほとんどの商品は会社名が書いてあると思いますが、中に個人の女性の名前が書いてある商品が見つかると思います。
 昔の農村では、ほとんどの農家で味噌や豆腐、餅やあられなど、農産物を自家用に加工していました。兼業農家が増えると共に、手間がかかることから自家加工品を作る農家は減ってはしまいましたが、その技術は農村女性の間で伝えられてきました。そして、近年になってそれを「自分の名前で売ってみよう」とする動きが出てきたのです。
 また、よく街道沿いで農産物の青空市が開催されているのも見かけると思いますが、これも売ってる人に女性が多いのに気が付くと思います。多くの青空市が地元の農村女性や高齢者がグループで経営している場合が多いのです。
 さらに、農村女性の取り組みは、農産物を生かした、総菜、弁当、一歩進めてレストラン(茶店)の経営にも及び始めています。こういった「起業」は、農村女性に一定の収入をもたらすだけでなく、都市交流など地域活性化にも貢献することで高い評価を受けることになり、さらにそのことが女性の自立を促しています。しかし、ほとんどの農村女性起業は規模が小さく、経営的には安定していません。
 県では、女性起業家(希望者)に対して、研修会や個別の相談活動などを行っています。加工品製造や食品表示の相談、経営計画、価格設定、商品開発、生産物の作付け計画など、起業開始から経営改善まで各県民局の生活関係改良普及員が中心となって細かく支援に当たっています。

4.最後に

 前回、今回と「地域」「仕事と家庭」と分けてお話しましたが、実際にはそれぞれの取組は重なりあって進められています。
 農山漁村の女性は非常にバイタリティーに溢れています。そして、技術と才能を秘めた人材がたくさんいます。しかし、入口である能力を発揮するチャンスに恵まれてこなかったのです。これからもよりたくさんの農山漁村女性がチャンスを掴み、能力を発揮して活躍できるよう、支援していきたいと考えています。