第3回 職場における男女共同参画について

1.仕事と家庭の両立

(1)次世代育成支援対策の推進
日本の少子化が急速に進行し、我が国の経済社会に深刻な影響を与えることが懸念されています。
人口を維持するのに必要な合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)は、2.08とされています。
平成元年、日本の合計特殊出生率は、1.57となり、昭和41年の丙午の年の1.58を下回りました。これは「1.57ショック」と言われ、私たちに少子化が進んでいるとの認識を一般化させました。
さらに、平成14年に公表された将来人口推計においては、少子化の背景として、晩婚化のみならず、「夫婦の出生力そのものの低下」という新たな現象が把握され、平成15年の合計特殊出生率も全国で1.29と過去最低を更新しています。
三重県内では平成15年の出生数は16,497人、合計特殊出生率は1.35と、全国平均を上回ってはいますが、減少傾向に歯止めがかかっていないのが現状で、今後も少子化が一層進行すると予測されています。
また、夫婦が実際に産む子どもの人数の平均と、夫婦が理想とする子どもの人数の平均との間には開きがみられます。その理由として、子育てにかかる費用が増加していることや、育児に対する負担感があることなどに加え、仕事と子育てとの両立に対する負担感があると指摘されています。

出生数、合計特殊出生率の推移

 実際、都市部では待機児童の問題など、保育所に子どもを入れにくい状況がみられ、それに加えて、仕事と子育てとの両立を可能にする雇用環境の整備が十分でなかったり、子育て期である30歳代の労働者の労働時間は長く、2割以上の男性が週に60時間以上の長時間労働をしているというような問題がみられます。
 では、仕事と子育ての両立を進めていくためには、どうすればよいのでしょうか。保育所の整備など行政の取組とともに、それぞれの企業等においても、男性を含めた全ての人が、仕事のための時間と、自分の生活のための時間のバランスがとれるような“多様な働き方”を選択できるよう、働き方を見直していくことなどの取組が求められます。

 このような状況を踏まえ、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境の整備のために、国、地方公共団体、事業主が行う取組である「次世代育成支援対策」を進めるため、それぞれの果たすべき役割等を定めた「次世代育成支援対策推進法」が平成15年7月に成立しました。この法律では、国や地方公共団体による取組とともに、労働者が仕事と子育てを両立させ、少子化の流れを変えるため、事業主にも次世代育成支援対策のための行動計画を策定・実施していただくこととしています。
 また、この「次世代育成支援対策推進法」においては、事業主が行動計画を策定・実施し、その計画に定めた目標を達成したことなどの一定の基準を満たした場合、申請を行うことで厚生労働大臣がその事業主を認定するという仕組みを設けており、認定を受けた事業主は、そのことを示す表示(マーク)を、広告や商品などに付けることができるようになり、次世代育成支援対策に取り組んでいる企業等であることを対外的に周知できるようになります。
 次世代育成支援対策に取り組み、認定制度を活用すれば、企業等のイメージアップや、優秀な労働者の定着など、企業経営にとって大きなメリットがあります。策定した行動計画を活用するという意気込みで、労働者と企業経営の両方に役立つ計画を策定・実施することが必要です。

(2) 仕事と家庭の両立を支援する環境整備の促進

 育児・介護休業法では、職業生活と家庭生活の両立を図るため、労働者が育児休業、介護休業等を取得できることを労働者の権利として規定するとともに、勤務時間短縮等の措置を始めとした育児又は家族の介護を行う労働者等を支援する措置を講ずることを事業主に義務づけています。
 また、将来の社会経済に大きな影響を及ぼす少子化の流れを変えるための取組として、平成15年3月に政府として「次世代育成支援に関する当面の取組方針」を決定しました。
 この中では、「男性を含めた働き方の見直し」として、仕事と子育ての両立支援を進めるために、男女別の育児休業取得率等についての目標値(下表)を設定し、子育て期間中の残業時間の縮減、子どもが産まれた時の父親の5日間の休暇取得の促進等を盛り込んでおります

「次世代育成支援に関する当面の取組方針」等に盛り込まれた育児休業取得率等の目標値

項目 目標値 平成14年度 平成11年度
男性の育児休業取得率 10% 0.33% 0.42%
女性の育児休業取得率 80% 64.0% 56.4%
子どもの看護のための休暇制度の普及率 25% 10.3% 8.0%
小学校就学の始期までの勤務時間短縮等の措置の普及率 25% 9.6% 7.0%

※平成11年度及び平成14年度の数値は、厚生労働省「女性雇用管理基本調査」による(5人以上規模事業所の数値)

なお、この目標値については、
・ 男性の育児休業取得率については、子育て層の男性のうち、「機会があれば育児休業を取得する」と考えている労働者の割合7.4%を超える数値として、10%
・ 女性の育児休業取得率については、「職場の雰囲気」を理由に育児休業の取得を断念した労働者の割合(43%)をゼロとした場合の数字(76%)を超える数値として、80%
・ 子どもの看護休暇制度の普及率と小学校就学の始期までの勤務時間短縮等の措置の普及率については、育児休業の義務化直前の普及率が21.9%であったことを参考に、25% という考え方により設定されたものです。
 この目標値を社会全体で着実に達成していくため、企業等においても「男性の働き方の見直し」を含めた積極的な取組が求められています。
 しかし、実際の企業の実態としては「男性の働き方の見直し」はまだ進んでいるとはいえません。男性の育児休業取得率は平成14年度には0.33%と大変低い状況です。
 また、三重労働局が、県内の企業の人事労務担当者を対象に行った「ポジティブ・アクション及びファミリー・フレンドリー企業に関するアンケート」結果によると、男性の育児休業の取得促進に必要なこと(複数回答)は、「職場(企業トップ、上司、同僚)の理解の向上」が61.8%、「男性の育児休業取得に対する社会一般の理解の向上」が61.6%となっており、社内外の諸制度整備等より企業内の意識改革の必要性の方が高いという結果となっています。
 そのためには、企業は単に制度を整備するだけでなく、仕事と家庭の両立について、女性だけでなく男性も、ともに可能にしていく「多様でかつ柔軟な働き方」を労働者が選択できるような取組を、企業が行う必要があります。

男性の育児休業取得に対する問題点
資料出所:三重労働局「ポジティブ・アクション及びファミリー・フレンドリー企業に関するアンケート」

(3) ワーク・ライフ・バランスとファミリー・フレンドリー企業への転換

 仕事と育児・介護とが両立できるような様々な制度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取組を行う企業を「ファミリー・フレンドリー企業」といいます。
 また、前述の「ポジティブ・アクション及びファミリー・フレンドリー企業に関するアンケート」結果によると、会社を「ファミリー・フレンドリー企業」にしていく取組を実施したいと回答した事業所は52.1%となっており、さらに取組を実施したいと回答した事業所のうち、取組実施の意向を示した理由(複数回答)は、「企業にとって人材確保の面で有効だから」が61.9%、「労働者の仕事の満足度の向上の面で有効だから」が55.4%、「労働者のモラールの向上の面で有効だから」が43.6%となっています。
 少子高齢社会の到来によって、労働力人口は減少し、優秀な人材を確保することが困難になる中、仕事と家庭の両立に配慮し、ワーク・ライフ・バランスの取れた生活を送ることが出来る企業には、優秀な人材の確保と定着が図られるという図式が生まれることでしょう。それを見越した人事戦略として「ファミリー・フレンドリー企業」への転換が有用であるといえます。

ファミリーフレンドリー企業への取組実態の意向を示した理由
資料出所:三重労働局「ポジティブ・アクション及びファミリー・フレンドリー企業に関するアンケート」

2.おわりに

 3回にわたり、職場における男女共同参画についての現状と今後の取組について見て参りました。
 職場においては女性に対する均等確保徹底とあわせてポジティブ・アクションの実施が求められております。その対象者は若い世代だけでなく、均等法施行前の世代においてなかなか解消していない、過去の雇用管理の経緯から生じている格差を縮小するため、均等法施行前の世代にも特段の配慮がなされるべきといえます。
 女性が職場で活躍することにより、「職場における男女共同参画」が進み、そのことにより会社も女性も更なる飛躍が期待でき、また、女性の能力が充分発揮される社会の実現は、少子高齢社会の担い手としての確保のためにも重要な課題となっています。
 そして、男性を含めた働き方の見直しを図ることにより家庭生活を充実させることで、「家庭における男女共同参画」が進み、少子化に歯止めとなる一助になるだけでなく、働き方の見直しによりワーク・ライフ・バランスの取れた豊かな社会が形成できると捉えることが出来ます。
 「職場における男女共同参画」と「家庭における男女共同参画」は車の両輪であるといえます。この車の両輪を円滑に動かしていくことが今後の課題であるといえます。