第2回 職場における男女共同参画について

1.コース別雇用管理制度

 いわゆる「コース別雇用管理」とは、典型的には、基幹的業務又は企画立案、対外折衝等総合的な判断を要する業務に従事し、転居を伴う転勤がある「総合職」、主に定型的業務に従事し、転居を伴う転勤はない「一般職」、「総合職」に準ずる業務に従事するが転居を伴う転勤はない「中間職」等のコースを設定して、コースごとに異なる配置・昇進、教育訓練等の雇用管理を行うシステムを言います。
この制度は、昭和61年の均等法施行前後にそれまでの男女別雇用管理制度を改め、コースごとの処遇を行う等のシステムとして大企業を中心に導入されてきましたが、最近は中堅企業へも拡大を見せており、平成15年度女性雇用管理基本調査によれば、コース別雇用管理制度が「ある」という企業は9.5%で平成12年度より2.4%ポイント上昇しています。
制度の導入により、基幹業務を担い、将来の管理職候補となる総合職として女性が採用され始め、コース転換制度等により女性の職域を拡大させたり、昇進する女性が現れる等女性登用の一つの契機となりました。平成15年度女性雇用管理基本調査で、コースごとの新規学卒者採用状況をみると、総合職の「採用あり」とする企業のうち「男女とも採用」とする企業割合が54.4%と平成12年度を上回り、かつ「男性のみ採用」とする企業割合45.0%も上回っています。また、一般職の「採用あり」とする企業のうち「女性のみ採用」とする企業割合が52.0%と平成12年度に比べ減少する一方、「男女とも採用」とする企業割合は42.7%と上昇しています。

採用の男女比のグラフ

 しかしながら、一方、本来は意欲、能力、適性や成果等によって評価し、処遇するシステムとして導入されてきたはずの制度が、運用面で男女異なる取扱い等事実上の男女別雇用管理として機能させている事例も見受けられるところです。
 雇用均等室では、平成15年度にコース別雇用管理制度導入企業のうち全国236社を対象に行政指導を行いました。それによると、調査時点に在籍している総合職の女性割合は3.0%で、総合職の女性割合が1割未満とする企業が89.4%を占めています。コース転換制度を導入している企業は76.7%で、コース転換に必要な要件として「上司の推薦の有無」が転換に大きく関わっています。平成15年度に転換実績のある企業のうち、一般職から総合職への女性の転換は74.3%となっています。また、平成16年度に総合職を採用した企業のうち、総合職に「転勤要件がある」企業は81.6%で、採用後10年間に男女とも転勤実績があるのは38.7%、うち男性のみ転勤実績があるのは61.3%で、転勤をコース要件としているにもかかわらず採用後10年間「転勤実績がない」企業は10.0%となっています。コースを男女別に設定したり、コースの振り分けを男女別に行う等均等法違反の運用が行われている例の他、均等法違反とまではいえないものの「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」に沿っていない例も多く見られ必要な助言を実施しています。

2.男女の賃金格差問題

制度面の男女均等取り扱いは浸透しつつあるが、事実上の男女間格差は存在しており、特に賃金面では長期的には縮小の傾向にありますが、大きな男女間格差が存在しています。

男性の所定内給与額を100とした場合の男女間格差の割合

 厚生労働省では、学識経験者による「男女の賃金格差問題研究会」を開催し平成14年に報告がとりまとめられました。それによると、男女間の賃金格差の要因は多種多様ですが、最大の要因は職階(部長、課長等の役職)の違いによる影響が大きく、勤続年数の差も影響し、この他、男性世帯主を中心に支給されている手当も影響していると分析しています。
 また、多くの場合賃金制度そのものの問題というよりも、人事評価を含めた賃金制度の運用面や、職場における業務の与え方の積み重ねや配置のあり方等賃金制度以外の雇用管理面における問題に起因していると考えられるとしています。
 そこで、厚生労働省では、男女間の賃金格差を解消するために労使が自主的に取り組むためのガイドラインを作成しています。具体的には、1.賃金格差の実態把握と対応策の議論、2.公正・透明な賃金制度、人事評価制度の整備、3.生活手当ての見直し、4.ポジティブ・アクションの実践、5.意欲や適性、能力に基づいた業務の与え方や配置の実施、6.コース別雇用管理の制度と運用の改善、7.ファミリー・フレンドリーな職場形成を進めることが望まれます。

3.ポジティブ・アクションの推進

 制度上の男女差別は解消しても、営業職に女性はほとんどいない、管理職は男性が大半を占めている、優秀な女性が多いのにうまく育たないといった固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から男女労働者の間に事実上生じている差は少なからず見受けられます。これらは、女性は事務を中心に配属されていて、他の業務経験が少ない、女性に対してつい必要以上に甘やかしてしまう、女性はいずれ辞めるので育てても無駄といったような男性中心の企業文化がもとになって生ずることが多く、スタートラインで既に女性はハンデを背負っていることになります。その女性が背負っているハンデを取り除く企業の自主的な取組をポジティブ・アクションといいます。
例えば、
○補助的業務しか経験のない女性を責任のある仕事に抜擢しようとしたが、しり込みする
⇒このような女性を対象に研修を行い、必要な知識・技術を習得させ、自信をつける。
○担当させた取引先から「女性では…」と難色を示された。
⇒意欲や能力は十分であることを相手方に説明し、必要なら上司もフォローする。
このような努力を企業全体で行えば、女性は確実に戦力となり企業にとっても大きなメリットとなります。

女性雇用管理基本調査
出典:厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(平成12年)

 ポジティブ・アクションについて、経済産業省「女性の活躍と企業業績」、日本経済団体連盟「原点回帰―ダイバーシティ・マネジメントの方向性―」等各方面からも取組を促す報告がなされているところであり、CSR(企業の社会的責任)の一環として取組む企業も見られ、全体的な機運の醸成は図られてきています。三重労働局が行ったアンケートでも既に取組む、今後取組むとする企業は回答企業の約75%を占めています。大企業のみならず、中小企業でもトップダウンが浸透しやすいことから取組むことができる旨の経済団体からの御意見もいただいています。
 市場が多様化する中で、これからの新しいニーズに対応した商品、サービスを提供するための新しい発想が求められています。ポジティブ・アクションを実施することにより男女に変わりなく多様な個性をもった人材を確保し、能力を最大限発揮できることは企業にもメリットがあり、女性にとっても男性にとっても働きやすい環境が整うことになります。厚生労働省としては、女性活躍機会の創出に向けた効果的な取組を検討していきます。女性の活躍は、ワーク/ライフバランスと密接な関係があります。最終回は、「仕事と家庭の両立」をテーマに進めます。