第3回 キャリアデザインとは

1.キャリアデザインを行うには

 キャリアデザインを行うには、まず自分を知るという作業から始まりますが、平行して自分を取り巻く様々な環境(主に外的環境)を知ることも必要なこととなります。この2つの要素を統合し、いま置かれている自分の現在地を知り、キャリアデザインを描くことになります。

自分の現在地を知る

 しかし、基本的には仕事経験がない学生に、「何をしたいか」から始めると「やりたいことが見つからない」と悩み、カウンセリングを受けにくる学生が多く見受けられます。
 教育の世界では、知らず知らずのうちに「答えを出す」ということに終始し、やりたいことが見つからないという答えが出せないでいる状態が不安でもあり、あせりでもあるようです。しかし、社会では、答えの出ない問題は一杯あり、正解のない答えも一杯あります。
 このキャリア教育にあたっても同様であり、自分で考え、議論し、シミュレーションしたりすることにより、結果が出てくるものです。これが俗に言う「自分探しの旅」なのかもしれません。キャリアをデザインすることもなく、流れるままに身を任せ、キャリアを積んでいくのも一つのスタイルであり、否定するつもりはありません。当然、流れ着いた先が自分の思っていたところと違っていても文句は言えません。それが嫌なら自分はあそこに行きたいという目標をもって到達点に進んで行くこと、すなわちキャリアに対する納得感という意味でキャリアデザインは重要なのです。自分はあそこに行きたいという目標を容易にする方法として、視点を少し変え、あの人のようになりたいといった「この人だ」と思った人に同化していく方法があります。
 そのモデルが先輩であったり、親であったり親戚であったり、多くの人生の先輩に出会うことにより、繋がりが広がる確率も高まります。
 そして、その人たちの働き方や職業観を学ぶことによって、自分の中にあるこだわりや価値観に気づくことになります。つまり、知らず知らずのうちに、モデルとなった人物と自分を比較していることになります。全ての芸事が模倣から始まるように憧れの人物を模倣することからキャリアデザインは始まり、実際に行動に移すことを通して自分だけのキャリアデザインが描かれていきます。

2.職業観について

 ある講座でおこなった際に気がついたのですが、「人に喜ばれる仕事をしたい」という職業観をもつ学生はほとんど女子であるという面白い傾向が見られました。逆に「社会に役に立つことをしたい」「お金をたくさん稼ぎたい」という職業観には男子学生が多かったのも注目すべきことでした。ある面、キャリア形成と生育歴の関係は否定できないものだなとあらためて感じた瞬間でしたが、みなそれぞれ一つの答えです。また、他人から注目されたい、自分を高めたい、など複数の答えが組み合わさることが多いと思います。
 会社選びにしても、長期的に安定した会社、華やかな会社、挑戦しがいのある会社、自己実現の機会の多い会社、待遇が良く居心地の良い会社、社会貢献度の高い会社・・・等々いくらでも考えられそうですが、就職活動をする際には、この職業観をしっかりもっていることがとても大切なこととなります。今や、知りたい情報は、インターネットという媒体でいつでもどこも得ることができるようになりました。反面、あまりにも氾濫する情報に振り回され、自分を見失っていませんか?何になりたいのか?何ができるのか?何がやりたいのか?を問い詰めるばかりで、「やりたい仕事に就くことが、前向きな正しい就職の姿である。」「会社の善し悪しだけで就職先を決めるヤツは夢のない保守的人間。」…なんて、いつの頃からか、みんなそう思い込んでしまってませんか。
 しかし本当に“やりたい仕事”だけが、そんなに正しいのでしょうか。私は仕事上、企業と関わりが深い故に、どんな仕事に就くか(就職)。どんな会社に入るの(就社)。この2つをバランスよく考えて、就職活動をすべきだと思います。日本の企業は、いろいろ複雑で、仕事のことだけ考えて生きている場所ではありません。それぞれの会社に独自の“社風”があり、そこに馴染めるかどうかが重要なカギになります。やりたい仕事を続けるため、自分はどんな社風の中に身を置くべきなのか。そこまで考えて職を選ぶ必要があります。しかも今なら、経営状態や業界の先行きも念入りに調べておいたほうがいいと思います。仕事は面白くて毎日楽しいが給与は未払い、倒産した。そんな、笑えるようで笑えない話も、実際たくさん起こっています。“就職”の理想も大切ですが、”就社”の現実もぜひ見つめて頂きたいと思います。