第1回 キャリアデザインとは

1.大学における男女共同参画

 私は、職業柄この言葉になじみはありますが、学生には、聞き慣れない言葉のようで、中には聞いたこともないという人もおります。英語で言うと、"gender equality" <ジェンダー>の<平等>すなわち、私たちが持っている「男らしさ」「女らしさ」について、イメージや意識・考え方をジェンダーというものにとらわれず、一人一人が平等に扱われるべきだという考え方です。つまり、「男だから、女だから○○○らしく」などと、男・女という属性によって行動や思考の範囲が限定されることがないようにしていこうということです。
 現在、男女共同参画の必要性がいわれるということは、ジェンダーに基づいた思考・行動パターンが多く見られたということでもあります。例えば、会社で働く父親が一家の稼ぎ手として家計を支え、母親は家事や育児・介護などに専念するというものですが、冷静に考えれば、女性だからといって家事ができるとは限りません。なのに、ジェンダーに基づく男女観の下では、「男は仕事」「女は家庭」が当然と思われていたのです。大学に限らず一般的には、学校は比較的男女の平等が実現しているところだと言われており、今どきの学生は誰もそんな事は考えていないという声が聞こえてきそうです。
しかし、大学の中でも男女共同参画の視点から見て、性別による役割分担の光景を目撃することがあります。
 一つの例として、サークルやクラブ活動などでも、男女の区別によって役割を割り振るということが自然とできている例があります。先日、キャリアの学習で女子学生がクラブのマネージャーとして、達成感を得たという内容のプレゼンをしてくれました。中身は甲斐甲斐しく選手の世話をしたり、問題があったら率先して役目を果たす内容だった記憶がありますが、頑張った彼女の達成感を否定するつもりもなく、マネージャーの重要性を否定するものではありませんが、男子運動部の「マネージャー」がどうして、主に女子学生が想定されているのかという事に視点をおき、議論をしてみてもいいのではないでしょうか。
 また、学園祭の模擬店の出店の際には、女子学生が料理を作り、男子学生は模擬店の設置作業やお客の呼び込みをやるという、性別による役割分担がごく普通になされています。このように、何の違和感もなしに、無意識に性別役割が行われていることは案外多くあります。学生一人一人の生育歴によっても考え方や志向は異なってきますが、男女共同参画社会の実現のためには、「男性優位」に変えて「女性優位」をうち立てることではなく、一人一人が男女共同参画やジェンダーについて理解を深め、社会をそのような観点から見る能力を身につけることが大事かと思います。またこのことはキャリア形成をしていくにあたってもジェンダーの視点に立ち、自分本来の欲求に気づき職業選択をする一つのヒントになるものです。

2.キャリア教育の必要性

 バブル経済崩壊以降、産業・経済の構造的変化や雇用の多様化・流動化等を背景として、将来への不透明さが増幅するとともに、企業は社員に対して自立を求め、一律型の教育制度から選抜型の教育制度へと変革しつつ、個人の意識も会社に頼るのではなく、自分で考えキャリアアップを図らなくてはならないと強く感じるようになってきました。自立型の関係を求められる中で、社員は自己選択を求められ、そうした考え方はこれから会社に入る学生にも反映されるようになり、就職試験の段階でキャリアに対する考え方を問われるようになりました。進路選択が多様化する中では、明確な職業意識が求められ、早い段階で自分の将来方向性について考えざる得なくなってきています。
 このように、就職・進学を問わず学生たちの進路をめぐる環境は大きく変化しています。しかし、何のために学ぶかという目的を持たぬまま大学等へ進学した者も少なくありません。こうした中、学生たちが「生きる力」を身に付け、社会の激しい変化に流されることなく、それぞれが直面する様々な課題に柔軟にかつたくましく対応し、社会人・職業人として自立していくことができるようにするキャリア教育の推進が大学では強く求められています。
 キャリア教育とは、人間関係形成、進路選択、意思決定、将来設計などを能力と捉え、社会人・職業人としての基礎的な資質・能力を育成する教育です。学生たちも、この教育を通して、自己の可能性や適性についての自覚を深め、自らの意志と責任で進路を選択できるようにすることが極めて重要です。同時に大学においては、そのためのきめ細かな指導・援助を適切に行うことが求められ、予め整備しておかなくてはならないことが生じてきます。しかし、職業観というものは、教育を受けたかといっていきなり身につくものではなく、成長の過程において少しずつ醸成されていくものであり、大学だけのキャリア教育重視ではない、小・中・高・大と連携したキャリア教育が求められてきています。