第3回 男女共同参画社会をつくる

 第1回は男女共同参画社会の姿を、第2回はそこに至ることはすなわち「機会の平等」を実質的に確保していくことなのだということを確認した。今回はその具体策を考えよう。

1.性別分業慣行の撤廃

 日本で、性別について公正な、すなわち、性別にかかわらずだれもが、社会生活においても家族や地域の生活においても実質的に等しい機会を得られる社会を追求・実現していくということは、未だ根強く残る性別分業慣行とそれを支える社会通念を克服していくことに等しいと言っても過言ではない。そこで、公領域(政治、経済)、私領域(個人、家族)それぞれにおける性別分業克服の方途を見定めておきたい。
(1)公領域――公領域では、社会的な意思決定への関与や就労のしかたが性別に左右されず、能力・個性や努力や情況にのみ規定される状態を実現していくことである。もとより、論理的には、人を性別によって配置するよりも能力・個性や努力や情況によって配置した方が成果も生産効率も高いに違いない。が、戦後日本とりわけ高度経済成長期においては、当時の日本の資本主義経済の成熟度合い、産業技術の水準、日本社会の歴史的土壌等に即して性別分業は一定の経済合理性をもった(人権上の問題は別として)。経済的な成長が至上の価値をもった当時の日本では、産業経済界のもつ価値や方法が政策や公務労働のありかたにも大きな影響を与え、政策や公務労働さえ事実上性別との関連性(性別による偏り)を帯びてしまった。しかし今や、人の社会的ありかたが人種、性別などの属性によって左右されるのは公正でないうえ、社会的経済的な成果や効率の面でも最上とは言えない。性別から個性・能力・努力・情況へ、という流れは、公正を旨とする政治の場ではもちろん、経済活動の場でももはや必然・不可逆的である。グローバル化・多国籍化する経済活動の面では、こうしたそもそも論に加えて、企業の格付け項目への性別(取締役の女性比率、女性の採用・教育支援プログラムの有無、労働法遵守、リストラの際の配慮度、育児・介護の支援制度等)や人種への配慮を加える動きCooperative Social Responsibilityや、株式投資を通じた、性別への配慮に関する企業への働きかけSocial Responsibility Investment等の動きもある。これらは、経済活動における性別に関する公正の実現を促進するに違いない。
(2)私領域――性別から能力・個性へという公領域の流れが必然であるにもかかわらず、そうした合意形成や社会変化が、たとえば環境問題対応のように急速に進まないのはなぜだろうか。その現実的障碍はむしろ私領域にある。すなわち、法的にも人を性別で差別的に扱った戦前の歴史的土壌のうえに、経済のしくみとして慣習上人を性別によって異なって扱ってきた戦後を通じて、とくに家事・育児・介看護等私生活の運営にかかわる負担が極端に女性に偏ってしまっていることが現実的障碍となって、公領域における性別から能力・個性への転換を阻んでいる面がある。家庭責任ゆえに就労や政治的活動に一定の制約が及び得るという本来当然のことが不当にも不利に扱われたり(たとえば、既婚女性のパートタイム労働者化)、女性が家庭責任ゆえに責任ある社会的立場に立つことを躊躇してしまったり、というようなことがある。すなわち、公領域での、性別から能力・個性への転換は、私生活領域の活動における性別の偏りの是正(性別にかかわらずだれもが労働者であったり政治の担い手であったりする一方、生活者であるという置きなおし)を伴わなわなければ進まない、ということである。それでは、女性に集約されてきた家庭責任の遂行は今後どのように置き直されていくのだろうか。次の4方法を、その時々の家族の情況に応じて最適な割合で組み合わせて家庭責任を遂行していく、という方向しかなさそうである。4方法とは、1.家族内の協働(特定の家族員の固定的役割にしない)、2.公的制度の活用(例えば介護保険)、3.地域・市民の互助(ボランティア、NPO等)、4.モノやサービスの金銭的購入、である。

2.性別について公正な社会をつくる

性別について公正な社会をつくっていく取り組みは、1.公の取り組み、2.産業界の取り
組み、3.市民の活動、4.1,2,3,の諸活動の協働、と分けてみることができる。1,2,3は、言わば、3つの“われわれ”である。このうち2には前項で言及したので、ここでは1,3,4について、大枠のみを述べる。1性別について公正な社会をつくっていくための公の取り組みは、他の政策分野同様、根拠法規、執行機関、行動計画、政策手法・政策分析手法、ジェンダー統計、予算、人員という“7つ道具”から成っている。根拠法規は『男女共同参画社会基本法』、地方自治体の男女共同参画推進条例等、執行機関は国の内閣府男女共同参画会議、内閣府男女共同参画局、都道府県・市町村の男女共同参画担当課、行動計画は国の男女共同参画基本計画、都道府県・市町村の男女共同参画推進計画等である。政策手法は、事実上男女共同参画推進計画の実施計画を構成する諸事業であり、規制手法、経済手法、情報機会手法に分類できる。政策分析手法には政策評価・事業評価、影響調査等がある。ジェンダー統計とは、性別に関する諸実態のデータである。③市民のできることは、何より、世論の担い手となることである。また、グループや個人で地域で性別関連の学習機会の創出や情報の伝達を担い、公的施策の立案や実施や評価に関与することができる。産業界の動きに応答することができる。さらに、性別や家族のあり方や働き方・生活のし方について、自身と違う考えや選択を尊重することができる。そして、4.こうした異なる“われわれ”の協働、すなわち、性別について公正な社会の形成という共通の目標のもとに、合意と対等な継続的関係を形成し、それぞれがもつ能力、資源等を提供し合うことによって、それぞれ単独で行うよりよい効果(成果)が生み出すことができるに違いない。