第2回 男女共同参画社会への道筋

第1回は、性別について公正な社会(男女共同参画社会)とはどういう社会であるかを確認した。今回をそこに至る道筋、次回をそのための方策を考えることに当てたい。

1.条件の平等と機会の平等

 だれもが法律上等しい機会が得られることを「条件の平等」という。「法のもとの平等」あるいは「形式的平等」と言われることもあり、人が法律すなわち国から異なる扱いを受けないということである。国民が性別によって国から異なった扱いを受けないことは、『日本国憲法』第14条によって保障されている。一方、事実上等しい機会が得られることを「機会の平等」あるいは「実質的平等」と言い、人々の社会生活を実質的に形作っている社会通念、慣習・慣行などの次元でほんとうに分け隔てや別扱いがないことを言う。性別について公正な社会を実現するには、人々の間の「条件の平等」、つまり法律上の均等な扱いが追求されるのみではまったく足りない。それはあくまで条件、前提であって、その上に、事実上人々の生活の営みを形づくっている社会通念・慣習・慣行などの次元での等しい扱いが追求されてはじめて真のものになり得る。例をあげよう。1992年に性別にかかわらずすべての労働者に、生後1年未満の子どもの養育のための休業を保障した『育児休業法』(現在は改正されて『育児・介護休業法』)が施行された。が、では1992年以降、カップルによって、育児休業を女性が取得したり男性が取得したりするようになったかというとそうではない。10年以上経った今日なお、育児休業取得者の男女比は2対98と著しく偏っている。性別に関係なく乳児をもつ労働者に育児休業を保障した法律と、2:98という現実のギャップを生み出しているものは何だろうか。たとえば、育児を女性の役割とみるような社会通念、育児休業の取得が現実には難しい男性一般の雇用慣行、賃金の男女格差等々を考えてみることができる。賃金の男女格差とは、育児休業中は一定割合の所得が保障されるが、就業時と同じように賃金が支払われるわけではないため、共働きでどちらかが休む場合、収入の少ない方、多くの場合女性が休むことになりがちだということである。ここに挙げたような要因は、いずれも「機会」の次元に属する要因である。性別にかかわらずすべての労働者に育児休業を保障するという法律の趣旨は、法律が制定・施行されただけで自動的に現実となるわけではない。2対98を事実上作り出している前述のような通念や慣習(「機会」の次元の要因)に挑み、法律と現実をつなごうとしない限り、法の趣旨は絵に描いた餅のままになってしまう。

2.機会の平等の追求・実現

 以上より、条件の平等が『日本国憲法』で基本的に保障されているわが国では、性別について公正な社会をつくるという課題は、ほぼ、機会の平等―社会通念、慣習・慣行などにおいて、性別によって分け隔てられたり不利益を受けたりすることがない―の次元にあることがわかる。戦後、『日本国憲法』第14条に基づいて始められ、国連をはじめとする国際的取組みと軌を一にして国際女性年(1975)以降本格化した性別について公正な社会を追求するわが国の努力は、国連世界女性会議への政府とNGOの参加(1980、1985、1990、1995、2000)、『女性差別撤廃条約』の批准(1985)、そして『男女共同参画社会基本法』の制定・施行(1999)、改正男女雇用機会均等法の施行(1999)、中央省庁改革に伴う内閣府への男女共同参画会議および男女共同参画局の設置(2000)、男女共同参画基本計画の策定(2000)、『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の施行』(2000)等を節目として進んできた。このうち『女性差別撤廃条約』の批准と、『男女共同参画社会基本法』の施行は、あらゆる社会的努力に法的根拠を与えたものとして極めて重要である。『女性差別撤廃条約』と『男女共同参画社会基本法』はいずれも条件の平等の保障を前提に、機会の平等の実質的な確保を求めたものである。重ねて確認するが、たとえば、性別を問わず総合職と一般職が選べるという制度を用意する、というように形式的に機会を等しくしたが、実際には総合職は男性に偏り、一般職は女性に偏っているといった状態は、機会の平等が確保されたとは言えない。実際運用してみて、総合職と一般職との選択と性別の間に関連が見られない状態が実現してはじめて機会の平等が確保されたと言えるのである。
 (1)『女性差別撤廃条約』における機会の平等の確保――『女性差別撤廃条約』は、締約国に「第2条(A)男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な手段により確保すること」と、条件の平等の保障を確認し、「第2条(F)女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること」、「第5条(A)両性いずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は男女の定型化された役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため、男女の社会的及び文化的な行動様式を修正すること」と、機会の平等の確保を求めている。
 (2)男女共同参画社会基本法における機会の平等の確保――『日本国憲法』の公布後50年以上を経て、性別について公正な社会の形成のための社会的努力を根拠づける『男女共同参画社会基本法』が制定されたのは、『日本国憲法』第14条のもと、とくに1975年以後本格化した努力の結実であり、また逆に長年の努力にもかかわらず、未だ性別による社会的な分け隔てや不利益が根絶されない現実の反映であり、さらには、少子高齢化の急進・経済の高度な成熟といった社会情況の変化、連立政権等政治情況等が相俟ってのことであった。
 『男女共同参画社会基本法』は機会の平等の確保について次のように述べている。
前文・・・(前略)・・・性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現は、緊要な課題となっている。・・・(後略)・・・
 第3条 男女共同参画社会の形成は、男女の個人としての尊厳が重んぜられること、男女が性別による差別的取扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されることその他の男女の人権が尊重されることを旨として、行われなければならない。
第4条 男女共同参画社会の形成に当たっては、・・・中略・・・社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。
第6条 男女共同参画社会の形成は、家族を構成する男女が、相互の協力と社会の支援の下に、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たし、かつ、当該活動以外の活動を行うことができるようにすることを旨として、行われなければならない。