第1回 家族と男女共同参画について

1.はじめに

 少子化、高齢化、非婚化、晩婚化など現在の家族をめぐる状況の変化を表すさまざまな言葉があります。これらの変化によってもたらされている問題を家族そのものの問題と考える立場もあるようですが、状況が変われば適応に時間がかかるのは家族という人間集団でも同じです。ここでは、2004年に出された厚生労働省少子化対策企画室の「少子化に関する意識調査」のデータを基に、主に結婚をめぐる問題について考えてみたいと思います。この調査は「少子化の大きな要因として、結婚することや子どもを持つことに対する国民の意識の変化があることを踏まえ」その「意識を体系的に把握」することを目的に行われたものです。

2.まずは昔話から

 昔友人たちと、離婚するなら何月がよいかという話をしたことがあります。このときにその中のシングル女性数人が異口同音に主張したのは、クリスマス、正月、お盆、ゴールデンウィークの季節は避けた方がよいということでした。その時期には独り者は行くところがない、実家に帰っても兄弟姉妹の家族が帰ってきていて、独り者は半端者のような気分にさせられるというのがその理由でした。「いい人はいないのか」「いつまで一人でいるんだ」とうるさい両親やおじ、おば。年下なのに二人の子持ちとなり、すっかり母親然としている妹や兄弟の妻。その中で、何とも居心地の悪い複雑な気持ちにさせられるという彼女たちの話から、その時期に離婚するのは避けた方がよいだろうと衆議一決したことを覚えています。
 そしてもう一つ長期の休みが淋しい理由として「家族イベントの時期には、家族持ちの女友達は皆家族イベントに狩り出されていなくなってしまう。だから一緒に遊んでくれる人がいない。皆が誰かと一緒にいる時期に一人はつらい」ということがあげられました。これも「そりゃそうよね」と合意されたのですが、家族持ちの女性が家族優先にすることが、なぜこれ程までに当然のこととされていたのか不思議になります。その時期の一部でも友のためにさくことは無理なことと考えられていましたし、その時期に家族持ちの友の家に遊びに行くことなど想像すらできないといった感じでした。神聖にして侵すべからざる「家族」ですが、家族を持っている既婚者たちが、その生活に満足していたかというと「離婚するなら何月がいい?」という話し合いをしていたのですから、おして知るべしでしょう。

3.無理に結婚しなくてもよい

 これは今から20年近く前のことです。話し合いに参加していたメンバーの年齢は30代後半から40代前半。子どものある人は、乳幼児期は過ぎたものの、ある意味で子育て真っ盛りの年代です。そしてその時代、30代後半と40代前半で単身の女性は、それぞれ20人に1人程度でした。
 それから20年が過ぎ、シングル女性は、30代後半で3倍の6人に1人、40代前半でほぼ2倍の10人に1人に増えています。未婚化の傾向は特に都市部で顕著で、東京都では女性の生涯未婚率がほぼ1割に達しています。避けようもない観のある未婚化の動きですが、この人たちが最初から結婚の意思がない人たちかというと、そうではありません。冒頭で紹介した調査でも結婚する気はないと答えたのは、20代の独身男女では1割未満、30代、40代の独身男女では3割未満です。そして結婚しない理由としては、全ての年代で、6割の人が適当な人にめぐりあわないからと答えています。
 また男女ともにほぼ5割の人が「結婚したい人がいなければ無理に結婚することはない」と答え、独身男性のほぼ1割、独身女性の2割弱が「一人で不自由なければ結婚することはない」と答えています。この二つの答えを合わせると、男性の6割、女性の7割が、「結婚は無理にしなくてもよい」と考えていることになります。また、パラサイトシングル論議が盛んだったときに、「今より生活レベルを落としてまで結婚はしたくない」と考える独身女性のことが取りざたされましたが、この調査でも、結婚していない理由として「現在の生活レベルを落としたくないから」と「自分の自由になる時間やお金が少なくなるから」という回答があわせて3割になります。
 結婚のメリットとしては、男性では「好きな人と一緒にいられる」、女性では「精神的な安定が得られる」などがあげられていますが、結婚のデメリットとして「自分の自由になる時間が少なくなる」「自分の自由になるお金が少なくなる」「行動が制限される」の3点が上位にあげられています。このデメリットをしのぐほどに好きな人あるいは精神的な安定が得られる人が見つからなければ、無理に結婚をすることはないと考えているのが、現在の独身男女だと言えます。

4.のしかかる親の老後

 冒頭のエピソードで紹介したシングル女性の居心地の悪さは今も変わりませんが、私の友人のシングル女性たちによると、周囲からの「結婚しろ」攻撃は、20代後半から30代後半までが最も強く、40代に入ると減っていくそうです。彼女たちの言葉を借りるなら諦められていくとのことですが、彼女たちが「結婚しろ」と言われなくなる理由は年齢だけではありません。その一つに「娘さんが一人でよかったね」と言われる状況の到来があります。具体的には、親の病気など、ケアが必要な事態が起こったときです。こういう事態が起こると、結婚して子どもがない女性も「○○ちゃんに子どもがなくてよかったね」などと言われます。冒頭のエピソードで、家族持ちの女性は家族を優先することが当然と受け取られていたと書きましたが、ここにも、結婚をしていたら、あるいは子どもがいたら、そちらの世話が優先されるという暗黙の合意があることが見てとれます。しかし、実際には夫がいようが、子どもがいようが、待ったなしに狩り出されるのが看護の実態です。狩り出された女性は、本来するべき夫や子どもの世話が十分にできないことに罪悪感を抱きながら、看護に携わることになります。

 回復までの期間が定まった病気であるなら、「娘さんが一人でよかったね」も成り立ちますが、仕事をしながら、回復が難しい病気の看護や介護の主戦力となるのは困難です。こういった事態で主戦力となれる独身の娘とは、いつか結婚するものとして、やめることも休むことも自由な職業についていた娘です。中には看護あるいは介護と両立できる仕事に転職せざるを得なくなる娘もいます。先ほどの調査でも、33歳から49歳の独身男性の1割、31歳から49歳の女性の2割弱が、具体的な内容はわかりませんが、結婚していない理由として「親の扶養・同居の問題を抱えている」としています。また将来の不安として独身男女の3割が、31歳から49歳の女性では半数以上が「親の介護」をあげています。親の老後が独身女性の将来に重くのしかかっていることが見て取れます。