第3回 司法における男女共同参画について
1.裁判と市民参加
先回、裁判に対する市民参加がもっとも先端的に求められている制度として、裁判員制度をご説明しました。
家庭裁判所で行われている裁判や調停についても、市民参加の観点から、あるいは広く国民にわかりやすい、利用されやすい裁判や調停の実現のために、さまざまな改革が行われてきました。今回は、家庭裁判所で行われている裁判や調停について、改革の内容に触れながら説明したいと思います。
2.家庭裁判所の役割
家庭裁判所は、家事事件と少年事件を扱います。家事事件は、家庭に関する身分上及び財産上の事件であり、離婚等の夫婦に関する事件、子の監護者の指定等親子に関する事件、成年後見、保佐、補助に関する事件、相続に関する事件などがあります。
従前は家事事件のうち、家事調停と家事審判のみを家庭裁判所が扱い、家事に関する訴訟事件は地方裁判所が扱っていました。たとえば、離婚調停は家庭裁判所に申立をしましたが、調停が不調になったときの離婚訴訟は地方裁判所に提起することになっていました。
平成15年の人事訴訟法改正により、家事に関する訴訟事件は、家庭裁判所で扱うことになりました。これにより、離婚訴訟等において付帯的に申し立てられることの多い子の親権者の指定や、財産分与について、家庭裁判所の調査官の調査を受けることができるようになりました。調査官は、心理学、教育学、社会学等の専門的知識を用いて、親権者の指定や財産分与について事実の調査をします。調査にあたっては当事者や子と面談したり、時には家庭を訪問するなどします。その結果が訴訟に生かされることになっています。
3.参与員制度
同じ改正により、家庭裁判所における離婚等の訴訟においても参与員制度が導入されました。参与員は一般国民から選任され、必要に応じて、離婚等の訴訟手続きの審理や和解の試みに立ち会います。裁判官は、立ち会った参与員の意見を聞くことができます。夫婦関係が破綻していると思われるか、それとも修復可能と思われるかというような場面で、一般国民の良識を反映させることが期待されているのです。
この参与員制度もまた、刑事事件の裁判員制度と並んで、国民が司法に参加する1つの方策として設けられています。
4.調停、訴訟の管轄について
家事事件について、調停の申立も訴訟の提起も家庭裁判所が扱うことになったことは、先に記述しました。では、どこの家庭裁判所が扱うのか、この問題を土地管轄といいます。
家事調停事件の土地管轄は、相手方の住所地の家庭裁判所にあります。すなわち、家を出て別居に踏み切った者が、離婚等の調停を申し立てるには、相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てなければなりません。それが遠方の場合大変不便なことになりますが、この点は今も同じ扱いです。
これに対し、離婚等の家事に関する訴訟事件については、平成15年改正により当事者のいずれかの住所地の家庭裁判所に訴訟を起こすことができることになりました。ただし、事情によっては、相手方(被告)の申立により又は家庭裁判所の職権で、相手方の住所地の家庭裁判所に事件を移すことも認められています。
改正前の離婚訴訟事件の管轄は、第1順位が夫婦の共通の住所地、第2順位が夫婦の最後の共通の住所地であって夫又は妻の現在の住所地ということになっていました。これでは、家を出て別居に踏み切った夫又は妻が離婚訴訟を起こすには、相手方の住所地に起こさなければなりません。
婚姻関係破綻の原因がDV被害にある場合、離婚訴訟事件の管轄を固定することはDV被害者保護の観点から好ましくありません。今回の改正は望ましい改正と言えます。
5.離婚調停の実際
(1) 調停前置主義
離婚訴訟等の家庭に関する事件について訴訟を起こそうとするときは、まず家庭裁判所へ調停の申立をしなければならないことになっています。これを調停前置主義といいます。
家庭に関する事件は、いきなり公開の法廷における訴訟手続きで争わせることは望ましくないので、調停における話し合いの手続きを先行させることになっているものです。
(2) 調停の進め方
調停は、審判官(裁判官)1名、調停委員2名からなる調停委員会により進められます。と言っても、審判官は1度に多くの調停事件を担当しますから調停に立ち会うことは難しく、通常は調停委員2名(男性1名、女性1名のことが多いです)が調停を進めます。審判官は調停成立時に立ち会うほか調停の事前や事後に、調停委員と評議をし、調停の方針の決定に関与します。
平成16年1月1日から、「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律」により家事調停官の制度が新設されました。これは、弁護士が非常勤裁判官である家事調停官になって、原則として週1回、家事調停官として調停に関与します。家事調停官の調停に関する権限は家事審判官と同じです。家事調停官は家事審判官と異なり、調停に専念できますから、直接調停に立ち会うことも多くあります。
調停は調停委員が申立人、相手方の双方から、順番に話を聞いて進めます。一方から話を聞いている間、他方には待合室で待ってもらいます。調停の進行上有効であって、かつ当事者双方の同意が得られた場合に限り、双方に同席してもらって調停を進めることがあります。
DV被害事案等においては、当事者双方が顔を合わせないよう、別室において調停をすることもあります。
調停において当事者が結論を強制されることはありませんが、合意ができれば調停が成立し調停調書が作られます。そこで離婚の合意ができれば調停離婚が成立します。
6.履行の確保
調停で決まった養育費や婚姻費用の支払いが滞ったときには、家庭裁判所に申し出て、履行の勧告をしてもらうことができます。ただし、履行の勧告は事実上の効果を期待するもので、法的な効果があるわけではありません。
養育費や婚姻費用の不払いの場合に相手方の給料等を差し押さえることができます。平成15年の民事執行法の改正により、一部に不払いがあるときに将来分の養育費についても差し押さえができるようになりました。また従前、給料等の4分の1までしか差押えができませんでしたが、法改正後は2分の1まで差押えができることになりました。
7.司法における男女共同参画社会の推進
これまで司法における改革の数々を紹介してきました。それぞれの改革は、男女共同参画社会の推進を接の目的としているものばかりではありませんが、男女共同参画社会の推進に寄与することは間違いありません。
来年4月からいわゆる年金分割が可能になります。これもまた、自立した男女による男女共同参画社会の推進に役立つものだと思います。