第1回 司法における男女共同参画について

1.はじめに

 司法というのは、立法、行政、司法という国が行う三つの権能の一つをいいますが、「裁判所が行うこと」というのがわかりやすいでしょうか。代表的なものは裁判(訴訟)ですが、その他に調停や審判も裁判所が行うこと、すなわち広い意味での司法に含まれています。
 今、司法制度が大きく変わろうとしています。国民にとって利用しやすい、わかりやすい司法制度にするために、さまざまな改革が行われています。
 その1つは、裁判員制度の導入であり、平成21年5月までに実施されることになっています。現在さまざまなところで、実施のための準備が進められています。
 2つ目は、離婚などの家庭の関係の事件の管轄を地方裁判所から家庭裁判所に移し、これに伴い参与員制度の導入などの改革が行われました。
 3つ目は、司法に携わる裁判官、検察官、弁護士の数を増加させること、弁護士から裁判官への任官を促進すること、民事事件の弁護士費用の立替制度である法律扶助制度を改革し、刑事事件の国選弁護を担う司法支援センターを新設することが行われています。
 4つ目は、ADRすなわち裁判外紛争解決手続の拡充ということです。
 これから3回に亘り、司法の分野における男女共同参画の視点から、以上の司法改革をご紹介したいと思います。
 第1回目は、男女共同参画センターの法律相談の紹介とADRの説明
 第2回目は、裁判員制度の新設等司法改革について
 第3回目は、家庭裁判所における紛争解決について

2.男女共同参画センターの法律相談

 三重県男女共同参画センターでは、専門相談員による電話もしくは面接による相談のほか、月に2回土曜日の午後に、弁護士による法律相談を行っています。
 相談件数、相談内容の近年の(男女共同参画センターになってからの)概要は以下のようになっています。

相談内容(法律)

夫婦
問題

男女
問題
家族
問題
対人
問題
職業
問題
経済
問題
暮ら
その
平成13年 56 8 5 2 1 19 - 14 105
平成14年 68 7 9 2 3 9 - 18 116
平成15年 56 7 8 9 1 29 - - 110
平成16年 66 6 22 2 5 13 5 - 119

 相談の中で件数の多いものは、夫婦、親子等家庭内の問題の相談です。特に目立つのが、夫婦間の不和をめぐり離婚が問題となる相談例です。これは、当センターの法律相談に限った現象ではなく、他の相談所でも同様の傾向にありますし、また家庭裁判所が受け付ける離婚等の調停件数も増加の傾向にあります。平成19年4月以降の離婚については、一定の場合に年金分割が可能になりますので、離婚に関する相談は一層増加する可能性があります。
 男女共同参画社会の実現を目指す当センターにおいて、離婚についての法律相談を行うことがどうして男女共同参画に資するのか、夫婦円満であることこそが男女共同参画の実現と言えるのではないかとお叱りの向きもあるかも知れません。
 しかし、相談を受けても、カウンセラーによるカウンセリングを受けても、その結果夫婦間の信頼関係が回復しなければ、離婚もまた、自立のための、そして男女共同参画社会の実現のための生き方の選択であると思います。また中には、DV被害、すなわち、配偶者やパートナーからの肉体的、精神的、経済的、性的な暴力の被害に遭っている方からの相談があります。DV被害者をそうした暴力から救い出すことは、男女共同参画社会の実現のためにどうしても行わなければいけないことです。

3.ADRとの関係

 ADRは、Alternative Dispute Resolutionの頭文字で、裁判外紛争解決手続きとか代替的紛争解決手続きと訳されています。ADRとは、調停、あっせん、仲裁などの、裁判によらない紛争解決方法をいいます。身近なところで紛争(争いごと)が生じて第三者機関による解決を求めたいときに、裁判所の裁判(訴訟)を起こすことに、躊躇を覚えることがあります。そのときに、民事上の紛争を訴訟手続きによらずに裁判所、行政機関、民間といった主体によって、調停、あっせん、仲裁などにより解決するのが、ADRです。
 裁判所で行われる裁判所型ADRとして、家事調停、民事調停、訴訟上の和解、起訴前の和解があります。このほか、行政型ADRとして、建設工事紛争審査会、公害等調整委員会等の行政機関が行う仲裁、調停、あっせんの手続き、民間型ADRとして、弁護士会、社団法人等の民間団体が行うこれらの手続きがあります。
 今般、裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律(ADR法)が制定され、平成19年4月1日に施行されることになっています。この法律は、ADRの基本理念等を定めるほか、ADRのうち民間事業者の行うものについて、民間事業者の認証制度を定め、認証を受けた事業者の業務について時効の中断等の効力を与えるものです。これまで、裁判所の調停などは多く利用されてきましたが、民間事業者の行うADRは必ずしも十分機能してきませんでした。これからADR法の制定を受けて、民間型ADRの機能の充実が求められています。
 当センターの行う法律相談業務は、相談者の相手方との接触を行わない点で、ADRの範疇に入れることは難しいかも知れません。しかし、関係各機関との連携を図ることで、ADRの前段階の機能を果たしていることは間違いありません。