第2回 女性研究者を取り巻く現状と支援の取組について

1.はじめに

今回は、育児休業期間からの復帰支援と女性研究者支援の先進的・モデル的な取組を紹介する。
 まず、我が国の学術の振興を図る目的で設立された独立行政法人「日本学術振興会」の取組について見てみよう。本振興会では、研究者の育児支援を図るため、平成15年度に「特別研究員制度」「科学研究費補助金制度」の改革を行っている。これらの改革により、前者の制度では、出産・育児による採用の一時中断および延長が可能となるとともに、後者の制度において、育児休業に伴う研究中断において、1年未満の中断後の研究の再開を可能にした。

出典:日本学術振興会(JSPS)ホームページ

 また、平成18年度からは、特別研究員事業における新たな「RPD制度」(Restart-ポスドク(PD)の意味※1)を発足した。採用年度の4月1日現在に博士の学位を取得している者であって、過去5年以内に、出産又は子の養育のため、概ね3ヶ月以上やむを得ず研究活動を中断した者を主な支援対象としている。2年間、月額364,000円の研究奨励金とともに、科学研究費補助金(特別研究員奨励費)の応募資格が与えられ、審査を経て毎年度150万円以内の研究費が交付される。 

新規採用は、18年度に32名、19年度に30名、20年度に38名であり年度合計で採用枠を増大させるとともに、予算額は、それぞれ1.3億円、2.6億円、3.5億円と着実な伸びを示している。平成21年度予算では3.9億円が計上され、40名の新規採用が予定されている。採用枠に比して倍率が高いことから(表1)、更なる採用枠の拡大を希望する声も多い。
※1 ポスドク(PD)とは、英語の Postdoctoral fellowの事で、博士号(ドクター)を取ってすぐ後の研究者をさす。その職は数年以内の契約制で「博士研究員」とも呼ばれる。英語圏では省略して「Postdoc」と呼ばれることが多い

2.女性研究者支援への取組

 次に、平成18年度より開始された科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成事業」を見てみよう。
 本事業では、優れた女性研究者がその能力を最大限発揮できるようにするため、女性研究者が研究と出産・育児などを両立するための支援などを行う仕組みを構築するモデルとなる優れた取組が推進されている。予算額は、18年度に4億円(10機関)、19年度に8億円(20機関)と増えている。20年度の予算は15億円であり、新規に13機関、合計33機関が採択されている(支援規模は、1機関に5000万円/年・3年間)。
 平成21年度予算では、従来型のシステム改革に17.5億円、発展型に5億円が計上され、新たにそれぞれ12機関、5機関が採択されている(図1)。

科学技術振興調整費・女性研究者支援モデル育成事業 選択期間の全国分布
科学技術振興調整費・女性研究者支援モデル育成事業 選択期間の全国分布

本プログラムを契機として、機関長の強いリーダーシップの下、女性研究者の活躍促進のためのシステム改革が、機関内で垂直双方向的に、機関外にも水平展開で、進められている。
 重点の置き方は各機関により特徴がある。システム改革の効果を深め、事業採択機関の外に波及効果を拡げることにより、女性研究者の採用比率の向上および離職率の低下、研究業績の向上、女子中高生など次世代の科学技術分野への参加などが、いっそう推進され、男女が共に参加することにより、科学技術人材が量的・質的に加速的に増大することが期待されている。

 例えば、筆者の所属するお茶の水女子大学の「女性研究者に適合した雇用環境モデル」事業においては、学長の強いリーダーシップの下、システム改革として、

1.人事・予算改革(公正で透明性の高い公募採用と客観的業績評価の積極的推進、中期計画・中期目標に「女性の教員比率の低い領域の新規教員採用に関して、学位、業績、能力などが均等の場合は、女性を優先する」原則を明記、子育て支援のための予算配分)、

2.業務改革(9時-5時実現のための業務改善・合理化、会議時間管理のための学内制度・規則の改定)、

3.研究教育支援(支援要員の配置、学内保育施設などの整備、次世代育成支援対策行動計画の推進)、

4.情報支援(人材情報バンクの構築、メンター制の導入、キャリアサポートの推進、ロールモデル情報の活用、シンポジウムや交流会の開催など)が加速的に進展した。また、

5.意識改革として、ワーク・ライフ・バランスを実現しつつ研究業績を向上させるための、教員および職員を含む全学的な取組を進めている。

3.三重県では

 三重大学のモデル事業「パールの輝きで、理系女性が三重を元気に」においては、医学研究科・工学研究科・生物資源学研究科の女性研究者の増加と研究継続支援、地域連携で理系女性の活躍の場を広げ、数を増やし、県内全体に波及することを計画している。同大学の理系3研究科の女性研究者比率は、平成20年2月の応募時には4.3%で、工学部ではゼロという低い状況であったが、同年4月以降、工学部に新任の女性教員が迎えられた。内外の女性研究者を中心としたイベントも頻度高く行われ、今後のますますの発展が期待される。

4.支援推進の現状

 女性研究者支援モデル育成事業は、現在、33機関で実施されているが、我が国の大学数が全体で約760校あり、更に研究系の独立行政法人もあることを考えると、採択数自体は、全体の5%に満たない。女性研究者支援の全国的な広がりは、事業発足後、どのようになっているだろう。
 日本学術会議による「男女共同参画に関するアンケート調査結果」(平成19年度)からは、多くの大学において、男女共同参画の推進のための取組がまだ進展途上であることが明らかになっている(図2)。

大学における男女共同参画推進のための取組状況
「日本女性科学者の会」が科学技術振興調整費・女性研究者支援モデル育成事業を推進しているモデル機関を対象に行ったアンケート調査

次項では、大学・独立行政法人における女性の意思決定過程への参画状況について、ポジティブ・アクションの現状も含め、ご紹介したい。