第3回 男女共同参画社会形成の現状と課題

 前回までに、男女共同参画社会基本法の趣旨・概要、制定後10年間の男女共同参画の基盤整備について見てきました。最終回に当たり、この10年間の男女共同参画の実態はどう変化し、現在どのような状況にあり、課題があるのかについて、考えてみたいと思います。10年間の歩みと今後の方向について、限られたスペースの中で十分なご説明はできませんでしたが、今年度版の男女共同参画白書の特集でこのテーマを取り上げておりますので、詳しくはそちらをご覧いただければ幸いです(内閣府ホームページでもご覧いただけます)。

1.男女共同参画に関する実態の変化と現状

(1)政策・方針決定過程への女性の参画の状況
 前回ご説明しましたように、政府は、女性の社会の各分野における参画、特に政策・方針決定過程への参画については、「2020年までにあらゆる分野における指導的地位を占める女性の割合を30%程度に」という目標を掲げています。各分野における女性の参画の状況については、下記に平成11年から最近値までの変化の例を掲げましたが、少しずつ増えているものの変化が緩やかな分野が多いのも事実です。その中で、審議会委員は3割を超え、2020年に4割という目標を目指す次の段階に入っており、女性の参画推進全体に影響を与えることが期待されます。

(例)国会議員 (衆)5.0%→9.4% (参)17.1%→18.2%
   都道府県知事 0%→6.4% 
   都道府県議会議員 5.5%→8.2%
   国家公務員管理職 本省課室長相当以上 1.1%→1.9%
   民間企業管理職 課長相当職 3.4%→6.6%
   政府の審議会委員 19.8%→32.4%
   裁判官 10.4%→15.4% 
   検察官 4.4%→12.2%  
   弁護士 8.4%→14.4%
   農業委員 1.6%→4.2% 
   医師 14.3%→17.2%  
   研究者10.1%→13.0%   

 国際的に見ても、残念ながら我が国の女性の参画状況の変化は遅く、低水準にとどまっています。例えば、国連開発計画(UNDP)が発表している人間開発報告書によると、人間開発の全体状況を教育水準・平均寿命・所得水準で見る「人間開発指数(HDI)」では、日本は高順位に安定している(2001年62ケ国中9位→2008年179国中8位)のに対し、女性の政治・経済活動、意思決定への参画の状況を示す「ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)」では、先進国の中で最も順位が低く、値がとれる国の数が増える中で順位は連続して下降しています(2001年64ヶ国中31位→2008年108ヶ国中58位)。国民全体の能力開発は進んでいる国なのに、女性の能力は十分に社会的に活かされていないという、いびつな状況がここから浮かび上がります。

(2)女性の就業をめぐる状況
 女性の就業率や共働き世帯は増加しています。総務省の労働力調査によると、10年前には雇用者の共働き世帯と片働き世帯はほぼ同じだったのですが、その後共働きは年々増加し、平成20年には共働き世帯1011万世帯、片働き世帯825万世帯と差はますます広がっています。女性の年齢階層別の労働力率を見ると、現在も出産・子育て期が低くなるいわゆるM字カーブを描いていますが、全体の就業率は増加し、その底も浅くなってきています。しかし、その内訳を見ると、顕著なのは20代、30代の未婚の女性の就業率の増加であって、子育てをしながら働いている人の比率は増えていません。第1子出産前後の妻の就業の状況を見ると、妊娠前から無職である者は減っている一方、出産による退職者は増えており、継続して就業している者は全体の1/4程度にとどまる状況がこの10年間もずっと変わっていません。改めて子育て等と仕事との両立環境の整備、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進が必要であることがわかります。
 また、女性の雇用者のうち非正規雇用者の割合は近年急速に増加し、平成16年以降半分を超え、平成20年には53.5%となっています。非正規の場合、給与や両立支援制度、研修機会など様々な面での処遇の差が大きく、その改善が求められています。

(3)家庭における男女共同参画の状況
 家事・育児の多くは、女性にかかっており、男性の平日の家事・育児時間は30分程度でこの10年間にもあまり増えていません。これは、固定的役割分担意識の問題だけではなく、男性の長時間労働の問題があります。特に30代、40代といった子育て期の男性の労働時間は長く、フルタイム労働者に占める週60時間以上働く者の割合は、10年前とあまり変わっておらず、男性30代で22.1%、40代で21.1%になっています。働き方の見直しによる男性のワーク・ライフ・バランスの実現も強く望まれるところです。

(4)固定的性別役割分担意識の状況
 我が国は、国際的に見ても、性別による固定的な役割分担意識が根強い国ですが、この10年間でも少しずつ変化はしてきています。約3年毎に行われる内閣府の男女共同参画に関する世論調査では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対する賛否をとってきていますが、平成16年の調査で初めて反対が賛成を上回り、平成19年の調査では反対が過半数を占めました。しかし、男女別、年代別では違いがあり、今年内閣府が20代から60代までを対象に行った「ライフスタイル調査」によると、男性はまだ賛成の方が多いのですが、若い世代ほど反対が多くなり、20代では両者が拮抗しています。一方、女性では、全ての世代で反対が賛成を上回っていますが、20代はむしろ40代、50代より賛成が多いという男性とは異なる状況を示しました。これには、仕事と子育てとの両立の難しさ、非正規化など就業をめぐる環境の厳しさが特に若い世代の意識に影響を与えていることが考えられます。

(5)生活困難をめぐる状況
 単身世帯やひとり親世帯の増加等の家族の変化、非正規化の進行等の雇用・就業をめぐる変化、国際結婚・定住外国人の増加等のグローバル化の進展など、様々な社会経済の変化の中で、経済困難や社会的孤立などの「生活困難」を抱える層が多様化し、増加しています。特に、女性は、妊娠・出産・育児等のライフイベントの影響、非正規に就きやすい就業構造、女性に対する暴力被害の影響、固定的役割分担意識等のために生活困難に陥りやすい状況にあります。例えば、母子世帯は増加し、平成17年には約75万世帯となっていますが、その平均年間就労収入は171万円にとどまっており、年間収入200万円未満の世帯は7割を占めています。また、配偶者からの暴力被害者は、経済的な面だけでなく、安全、健康、法的手続き、子の養育など様々な面で複合的な困難を抱えています。このような生活困難の問題について、男女共同参画の視点に立った施策の推進が求められるところです。

2.今後の男女共同参画の推進のために

 以上のような現状の中で、取り組むべき課題は多くありますが、講座を締めくくるに当たって、今後の取組のために必要と思われる視点を2点だけ掲げておきたいと思います。

(1)仕事と生活の調和、女性のキャリア形成支援、意識改革の一体的な推進
 男女共同参画、特に女性の様々な分野での参画が進んでいない要因としては、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)、女性のキャリア形成支援、意識改革が十分進んでいないということがあります。この3つは相互に密接に関連し、影響しあっており、その一体的、有機的な推進が必要となります。例えば、仕事と生活の調和の推進に当たっては、固定的役割分担意識に立って女性にだけ育児等を集中させるのでなく、女性のキャリア形成や意識改革を合わせて考えていかなければなりません。昨年策定された「女性の参画加速プログラム」(前回参照)でも、この3つを連動して推進することを基本的方向としています。

(2)生活困難問題への対応
 前述のように、社会経済の変化の中で生活困難を抱える人々は増加し、多様化しており、その中には男女共同参画に関わる重要な問題が含まれています。このような生活困難問題に対応するためには、このような背景にある男女共同参画の問題に着目し、男女共同参画の視点に立ち、関連する様々な社会システムの検証・見直しを行うことが重要であり、また、女性が働きやすい環境作りや女性に対する暴力の防止などの男女共同参画施策の推進自体が重要です。また、生活困難を抱える人への支援に当たっては、女性のライフコースを通じたエンパワーメントを進める視点に立って、個人を一貫して総合的に支援する仕組みづくりが求められます。この生活困難問題に対応する施策のあり方については、現在、男女共同参画会議の監視・影響調査専門調査会において検討が進められており、本年秋頃には報告書がとりまとめられることとなっていますが、今後の男女共同参画の推進を考えていく上で大変重要な課題であると考えています。
 今年はちょうど、次期(第3次)の男女共同参画基本計画の策定に向けて、議論が始まったところです。10年間の歩みのしっかりとした検証を踏まえ、新たな課題に取り組み、男女共同参画社会の実現に向けて歩みを加速することが強く求められています。