第1回 男女共同参画社会基本法を振り返る

 本年6月23日で、男女共同参画社会基本法が施行されて10周年を迎えます。この節目のときに当たり、改めて男女共同参画社会基本法がどのような過程を経て、なぜ制定されたのか、どのような理念や枠組みを持った法律なのかを簡単に振り返ってみたいと思います。

1.基本法制定の経緯から北京女性会議から基本法制定へ

 我が国の男女共同参画に向けた歩みは、戦後、婦人参政権獲得や日本国憲法の制定を出発点とし、1975(昭和50)年の国際婦人年とそれに続く国連婦人の10年の取組、1985(昭和60)年の女子差別撤廃条約批准と男女雇用機会均等法制定、国内推進体制の整備や国内行動計画の策定と歩を進めてきましたが、特に男女共同参画社会基本法の制定につながる発火点となったのは、1995(平成7)年9月、北京で開かれた第4回世界女性会議といえましょう。北京女性会議には、190の国や地域、多数の国連機関やNGOの代表が参加し、女性のエンパワーメントに向けて2000年までに取り組むべき課題を示す「北京宣言及び行動綱領」が採択されました。我が国からも、首席代表の野坂浩賢内閣官房長官(女性問題担当)以下80名の政府代表団が参加したほか、同時に開かれた女性NGOフォーラムに日本各地から5千名もの女性が参加しました。この北京女性会議を契機として高まったエネルギーが、我が国の男女共同参画の進展のための新たな推進基盤の構築を促すこととなりました。
 この北京女性会議の成果を活かし、総理府男女共同参画審議会(縫田曄子会長)は1996(平成8)年9月に「男女共同参画ビジョン~21世紀の新たな価値の創造~」の答申をまとめ、これを踏まえて男女共同参画推進本部は新たな国内行動計画である「男女共同参画2000年プラン」を策定しました。この男女共同参画ビジョンにおいては、男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な法律の制定を早期に検討することについて提言しています。
 1997(平成9)年3月に男女共同参画審議会設置法が成立し、男女共同参画審議会が法律で直接設置されることとなり、男女共同社会が初めて法律上定義されました。そして、同年6月、橋本総理大臣は「男女共同参画社会の実現を促進するための方策に関する基本的事項について」を同審議会(岩男寿美子会長)に諮問しましたが、この審議の中で基本法の制定が取り上げられ、1998(平成10)2月には、同審議会に基本法検討小委員会(古橋源六郎小委員長)が設置されました。同年11月には、「男女共同参画社会基本法について~男女共同参画社会を形成するための基礎的条件づくり~」の答申がとりまとめられ、これを基に男女共同参画社会基本法案が作成され、1999(平成11)年2月に国会に提出されました。同法案は、民主党・新緑風会提出の法案も同時に審議されました。この議員提出法案が撤回される一方、政府案に法律制定の趣旨をうたう前文が追加する修正が行われました。そして、6月15日には衆議院本会議において、修正された法案が全会一致で可決成立し、6月23日に公布・施行されました。なお、この法案は、小渕総理大臣、野中官房長官(男女共同参画担当大臣)、名取はにわ総理府男女共同参画室長という態勢の下に推進されました。

1.基本法制定の趣旨・目的

 基本法は、なぜ必要だったのでしょうか。男女共同参画社会基本法案について政府の趣旨説明の中では、次のように述べられています。
 我が国においては、男女平等の実現に向けての取組が進められてきたが、現実の社会においては、男女の不平等を感じる人も多く、なお一層の努力が必要である。また、少子高齢化など社会経済情勢の急速な変化に対応していくため、男女が互いに人権を尊重し、喜びも責任も分かち合いつつ、性別にとらわれることなく、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現は、一層緊急の課題とされている。このような状況の中で、男女共同参画社会の実現は政府の最重要課題であり、様々な分野において施策を推進することが重要である。また、人々の意識の中に形成された固定的性別役割分担意識が男女共同参画社会の実現を妨げているため、国民一人一人にこの問題についての理解を深め、各自の取組を促していくことが必要である。この法案は、男女共同参画社会の形成に関する基本理念と基本的な施策の枠組を国民的合意の下に定めることにより、社会のあらゆる分野において国、地方公共団体、国民の取組が総合的に推進されることを目的とするものである、と。
 まさに、この基本法は男女共同参画推進のための基本的枠組みを作るものであるとともに、この法律の制定自体が、社会の男女共同参画意識を高めるためのプロセスでもありました。この法律の趣旨、目的、理念を明確にし、国民の理解を深めるため、以上のことを盛り込んだ前文が、前述のように議員修正により加えられました。前文がある法律は数少なく、「男女共同参画社会の実現は、21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」と力強くうたいあげたこの前文には、この法律にかけた政治、行政、国民の方々の思いが凝集しています。

3.基本法の理念と枠組み

(1)基本理念
 男女共同参画社会基本法は、男女共同参画社会とは何かについて明らかにしています。まず、「男女共同参画社会の形成」を、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成すること」と定義しています(法第2条第1号)。また、前文では、「男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会」と表現しています。
 この男女共同参画社会の形成に関し、国・地方公共団体・国民がその責務を果たす上で拠って立つ基本的な考え方を明確にすることが重要であり、基本法は次の5つの基本理念を掲げています。

1.男女の人権の尊重(第3条)・・・男女の個人としての尊厳が重んじられること、性別による差別的取扱いを受けないこと、個人として能力を発揮する機会が確保されることなど。

2.社会における制度又は慣行についての配慮(第4条)・・・社会における様々な制度・慣行が固定的な性別役割分担等を反映して、男女共同参画社会の形成を阻害する要因とならないかに留意し、制度等が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするよう配慮すること。

3.政策・方針の立案・決定への共同参画(第5条)・・・男女が、社会の対等な構成員として、国・地方公共団体の政策や民間の団体における方針の立案・決定に共同して参画する機会が確保されること。

4.家庭生活における活動と他の活動の両立(第6条)・・・男女が相互の協力と社会の支援の下に、子育て・介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たし、かつ、それ以外の活動(仕事など)を行うことができるようにすること。

5.国際的協調(第7条)・・・男女共同参画社会の形成の促進は、国際社会における取組との密接な関係を有することから、国際的協調の下に行うこと。

(2)国・地方公共団体・国民の責務
 これらの基本理念にのっとり、国・地方公共団体・国民がそれぞれの役割を果たし、総合的に取組を促進するため、基本法は各主体の責務について次のように規定しています。

1.国の責務(第8条)・・・男女共同参画社会の形成の促進に関する施策(積極的改善措置を含む)を総合的に策定・実施

2.地方公共団体の責務(第9条)・・・国の施策に準じた施策及びその区域の特性に応じた施策の策定・実施

3.国民の責務(第10条)・・・職域・学校・地域・家庭その他の社会のあらゆる分野において、男女共同参画社会の形成に寄与するように努力

 また、国や地方公共団体は、男女共同参画社会の形成を直接めざす施策を進めるだけでなく、それに影響を及ぼすと認められる施策の策定・実施に当たっては、男女共同参画社会の形成に配慮しなければならないことが規定されています(第15条)。

(3)基本計画
 施策を総合的・計画的に進め、フォローアップしていくためのツールとしては、基本計画の策定が有効です。基本法は、男女共同参画社会形成に向けた施策推進に必要な枠組みとして、国、地方公共団体に基本計画の策定を求めています。
 まず、政府は男女共同参画基本計画を策定すべきこととし(第13条)、都道府県も、政府の定める基本計画を勘案して、都道府県レベルの基本計画を定めなければならないこととしています(第14条)。市町村については、計画策定を義務とは位置づけられていませんが、国・都道府県の計画を勘案して、基本計画策定に努めなければならないという「努力義務」が定められています。計画策定する市町村は増加しており、現在、市町村を合わせると6割弱、市だけでは9割が基本計画を策定しています。