第2回 DV防止法

2001年4月、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下、DV防止法)が制定され、同年10月より施行された。さらに、2004年5月に第1回目の改正、2007年再改正が行なわれた(2008年1月施行)。

「配偶者からの暴力」の定義

 DV防止法は対象を「配偶者からの暴力」に限定している。配偶者には内縁や事実婚を含み、離婚後も対象となる。DV防止法が対象を「配偶者」に限定したのは、「配偶者からの暴力」は家庭内で行われるので、他の男女関係とは異なり、外部からの発見や介入が困難であり、暴力がエスカレートして重大な被害が生じるおそれが大きいからだと説明されている。そのような特質をもたない婚約者、同棲相手、恋人などからの暴力は、他人からの暴力一般と区別する必要はなく、ストーカー規制法を使えばすむとされる。
 DV防止法でいう「暴力」は身体的暴力を原則とするが、「心身に有害な影響を与える言動」も含まれる。ただし、保護命令を申立できるのは、「身体的暴力」および生命身体に対する「脅迫を受けたとき」だけである。保護命令の対象をこのように狭く限定したのは、保護命令に違反すると加害者に刑事罰が科せられるからである。

保護命令

 保護命令は被害者が自分の身を守るための選択肢の一つである。保護命令には、「接近禁止命令」(6か月有効)と「退去命令」(2か月有効)の2種類がある。
 接近禁止命令が禁止する行為は、「つきまとい」と「はいかい」(周囲をうろつくこと)のみであったが、2007年改正で、面会要求、行動の監視、粗野な言動、無言電話、連続しての電話・FAX・メール、夜間の電話・FAX・メール(午後10時~午前6時)、汚物等の送付、名誉侵害、性的羞恥心の侵害が付加された。退去命令の有効期間は2か月と短い。それ以上長いと、加害者の財産権や居住権を侵害するおそれがあるからだと説明されている。
 被害者が地方裁判所に保護命令申立を行う。自分の判断で申立でき、被害者の主体性が尊重されるしくみである。申立をすれば、一緒に逃げてきた子どもにも保護命令の効力が及ぶ。
 申立をするためには、事前に「配偶者暴力相談支援センター」(以下、DVセンター)あるいは警察に相談する必要がある。DVセンターで申立の援助が受けられる。保護命令は裁判官が申立人(被害者)と相手方(加害者)を法廷に呼び出して別々に事情を聞いた上で(審尋という)、「迅速に」発令する。生命が危ないなど緊急の場合は、裁判官の判断で加害者の事情を聞かずに即刻保護命令を出すことができる。保護命令に違反した場合は、懲役1年以下あるいは罰金100万円以下の刑事罰が科される。

画期的なDV防止法制定

 DV防止法が制定されたことは極めて画期的である。
 第一に、DV防止法の制定により、「法は家庭に入らず」原則を打破した。従来、家庭内の出来事にはよほどのことがない限り、国家は介入しないという「不介入主義」の下、DVは放置・容認されてきた。みだりに国家権力が家庭内あるいは夫と妻などの個人的関係に立ち入れば、尊重されるべき「私的自治」が侵害されるからだ。夫と妻などの個人的な関係は、他人同士の関係とは区別され、介入の条件がより厳しかった。DVは「夫婦げんか」だと考えられていたので、110番しても警察はなかなか来てくれなかったし、パトカーが来ても、夫が一言「何でもありません」というと、警察はそのまま帰ってしまった。だがその陰で、女性や子どものからだや心が傷つけられていたのである。
 DV防止法は、保護命令制度を導入し(第10条以下)、被害者の保護と自立支援の責務が行政にあることを明記した(第2条)。また、各都道府県にはDVセンターの設置を義務づけた(第3条)。つまり、DV防止法制定によって、個人が暴力を受けず、安全に暮す権利と自由を実現するためには、国家に対して積極的な介入が要請されることとなった。
 第二に、DV防止法の「前文」は、DVが「女性に対する暴力」であり、「女性に対する人権侵害」であると述べている。DV防止法は、事実婚・内縁を含む「配偶者からの暴力」に対象を限定しており、しかも夫と妻双方が加害者にも被害者にもなりうるという立場をとっている。しかし、前文は、DVの被害者の多くは経済的自立が困難な女性であり、女性の心身に有害な影響を与えることは、女性の人権侵害であるとともに、男女平等の実現を阻害するとしている。つまり、DV防止法は女性に対する暴力根絶をめざした法律なのである。
 第三に、同じく「前文」で、DVが「犯罪となる行為」を含む重大な人権侵害であることが宣言されている。DVの犯罪化は実現しなかったが、暴力を容認しない社会へ向けての第一歩が踏み出された。
 第四に、DV防止と被害者の自立支援を含む保護が、行政の「責務」として明記された。従来、女性相談員や民間女性シェルターなどのNGOが、やむにやまれぬ思いから支援活動を行なってきた。いわば、行政が本来、責任をもって担うべき職務を民間団体などが無償で肩代わりしてきたのである。1993年に国連総会で満場一致で採択された「女性に対する暴力撤廃宣言」は、国家は「女性に対する暴力」防止に責任を持つべきであり、「あらゆる適切な手段をもって遅滞なく暴力撤廃のための施策を推進すべき」であるとした。国家が暴力を許容し、当然行なうべき施策や対応を怠ってきたからこそ、女性に対する暴力が世界中で蔓延してきたのである。

2007年改正DV防止法のポイント

2007年、DV防止法が改正された。改正のポイントは、市町村の役割の拡大と保護命令の改善に集約できる。

  1. 市町村の役割の拡大

     従来、「DV基本計画」を策定しなければならないのは都道府県だけであったが、2007年改正で初めて、市町村にも「DV基本計画」策定努力義務が課された。市町村は「基本計画」の策定に向けて努力しなければならない。市町村は住民にとってもっとも身近な自治体であり、生活の本拠である。DV防止と被害者支援にとって、市町村の役割は大きい。被害当事者や援助機関、民間団体の声を十分に聞き、地域の社会資源を活用しながら、きめ細かな被害当事者支援政策策定に努めなければならない。都道府県の「DV基本計画」についても、今回法改正に伴い見直しがおこなわれる。また、従来、市町村は「DVセンター」を可能なら作ってもよいというだけだったのだが、改正後は市町村もDVセンター設置に努力しなければならない。また、地域の民間団体や医療機関、保健福祉機関、学校、裁判所などの関連機関との連携・協力でネットワーク型の防止や支援をおこなうことが重要である。行政は、民間団体を作りたいというグループへの支援や民間団体へのさまざまな事業委託などを検討していく必要がある。

  2. 保護命令の改善
    2008.8.1

     第一に、生命身体への脅迫を受けた場合も保護命令の申立が可能となった。精神的暴力・心理的暴力の被害が深刻であることから、改正を求める声が大きかった。保護命令を申立てることが出来るのは、あくまでも「殺すぞ」などと「生命身体に対する脅迫を受け、生命身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に限定されている。第二に、接近禁止命令の禁止行為が拡大された(上記参照)。今回改正で付け加えられたのは、ストーカー規制法第2条の「つきまとい行為」とほぼ同じである。第三に、接近禁止命令の効力が被害者の親族等へ拡大された。加害者はしばしば親族や援助機関、支援団体に押しかけて脅迫をおこなう。親族などに危害が及ぶことをおそれ、被害者が逃げることをためらう原因ともなっていた。2004年改正では、同伴する子どもへの接近禁止命令の効力拡大が図られたが、今回の改正で、保護命令を使って、親族や支援者の安全も守られることになった。

    図 DV防止法のチャート

[参考資料]

  • 平成20年度改訂版「STOP THE 暴力」内閣府