第3回 これからのまちづくりに求められるもの

1.新しい視点の付与が求められる男女共同参画条例、計画

  三重県では、すでに半数以上の市町で男女共同参画にかかわる計画がつくられ、また10をこえる市町で条例がつくられている。ちょうど平成16年~20年の5年間が条例、計画策定のピークでもあり、多くの市町がこの時期に策定を試みた。しかし、この間、男女共同参画を取りまく環境は激変した。少子化はいっそう深化し、出生率も低迷が続いている。男性の子育て参加や労働時間の短縮という課題がクローズアップされ、「ワーク・ライフ・バランス」という考え方が普及したのもつい最近のことである。また昨年(平成20年)末からは、雇用をめぐるトラブルや「派遣切り」などさまざまな就業、雇用問題も頻発し、景気の急速な減退にともなう影響も懸念されている。さらに、ストーカーやDV、セクハラ被害も、その定義や防止策をめぐって再考が求められている。「とりあえず共同参画の条例や計画をつくること」が、これまでの自治体の目標であったならば、今後は、「すでにつくられた条例、計画の成果や課題を検証し、時代のニーズにマッチした新たな条例策定にむけての展望を示すこと」が求められるだろう。策定当時は、先鋭的で、画期的な条例、計画であったとしても、この数年の変化を鑑みれば、修正・改訂、そして新しい視点の付与が必要となるはずである。

2.官民協働で進める男女共同参画

 ひとくちに自治体の条例や計画といっても、その内容にはバリエーションがある。かかえる課題も各々異なるであろうし、何より、自治体の人口や予算の規模によって事業の進捗状況や進行スピードに大きな差がある。予算や人員に限りがあるなかで、どのようなことから取り組み、どのように進めていくのか。この点については、自治体によってまったく違ったかたちをとるといってよい。
 こうしたなか、最近の自治体には、市民の協力を得ながら男女共同参画事業に取り組んでいるところが多くみられる。どの市町も抱えている予算と人員の削減という事態を、市民の協力をもって補完し、こうした官民協働の取り組みを積極的に男女共同参画の普及へと結びつけていこうという発想である。
 たとえば、伊勢市(三重県)では、男女共同参画にかかわる事業やイベントを、公募市民らで構成する「男女共同参画れいんぼう伊勢」などと協働で進めている。イベントにはじまり、ワークショップや各種セミナー、男の料理教室といったものまで、企画から運営まで官民協働で取り組んでいる。さらに、男女共同参画に関する定期刊行情報誌「れいんぼう」についても、企画編集などは市民が中心になって行っている。
 同じように、亀山市(三重県)でも、行政当局が「いどばたクラブ」と称される男女共同参画推進講座企画会議の市民メンバーと協働して、さまざまなイベントの企画・運営、情報誌の発行などを実践している。あわせて、企業懇談会を開催して経営者や労務担当者らと意見交換を行ったり、企業向けアンケートを実施して企業の課題や要望を析出したりと、これまで男女共同参画事業の課題ともされていた企業へのアプローチも積極的にこなしている。
 これらの自治体は、これまでけっして潤沢に予算や人員が確保されていたとはいえないが、それぞれが、市民との協働のもと、男女共同参画政策を進めてきたという実績がある。さらに、伊勢市の場合は、男女共同参画担当職員を市民参画交流課内に配置し、市民グループやNPOと連携できる体制を強化させる一方、亀山市では、企画政策部行政改革室が男女共同参画を担い、庁内の推進体制を充実させつつ、企業への働きかけを積極的に行うなどの工夫もうかがえる。各々が市の課題に応じた庁内体制の構築、また外部への働きかけを実践しているのである。

3.男女共同参画の視点で進めるまちづくり

 今日、男女共同参画を進める自治体は、固有の課題を抱え、それぞれの地域にあった男女共同参画のあり方、進め方を模索している。そして、限られた条件のなかで、行政と市民がそれぞれの役割を担い、協働、連携しながら、施策や事業を推進している。

 こうしたなか、平成20年度、フレンテみえで「まちづくり達人塾」という講座が開講された。市民と行政職員とが協働して「わがまちのまちづくりプラン」を作成する4ヶ月間全6回の実践型講座である。四日市市、津市、鈴鹿市、亀山市の参加があり、それぞれが官民協働でまちづくりのアイデアを出し合い、独自のプランを作成した。この講座では、圧倒的な市民のバイタリティを前に、行政職員がまとめ役に徹するという場面もみられたが、おおむね、市民と行政が一つのテーブルを囲んで対等に意見を出し合い、議論しているさまがうかがえた。
 一つの企画を練り上げるプロセスで、その当初から官民協働で進めるというケースは、今でもそう多くはない。市民側は「これをやりたい」という欲求が先行し、時としてコストやスケジュールの面で不都合を生じさせるケースがあり、また行政サイドは「前年度踏襲」主義が強く、斬新なアイデアを実現させるという意欲に欠ける場合がある。また、行政と市民とのあいだには、暗黙の「上下関係」が生まれ、議論をしづらいという声も聞く。「市民に、企画やアイデア、意見を出してもらい、最終的に行政がそれをとりまとめ、政策立案する」という官民協働のパターンは増えつつあるが、近年では、むしろ両者の対等性の確保や役割のあり方などをめぐってさまざまな課題がもちあがっている。
 こうしたなかで、官民が同じテーブルについて「対等」に話し合い、お互いの役割を確認しあいながら、議論を積み重ねていくという試みは、今でも少ないといっていい。三重県では、すでに亀山市が協働事業提案制度を設け、官民対等の原則の下、協働のまちづくりを実践しているが、フレンテみえの「まちづくり達人塾」は、こうした事例にも匹敵する画期的な試みといえる。
 いま、地域のまちづくりに求められているのは、まちづくりの「輪」に参加した個人に上下の隔てがなく、(もちろん官民間、男女間にあっても)対等に議論できる環境を整えるということ。そして、これまで不十分とされていた「横」の連携を強化していくことにある。男女共同参画にかかわる課題が多様化していく中で、行政であれば部局の壁を越えた、また市民であれば組織やグループの枠を超えた新しい連携のあり方が求められている。役割や業務はもちろん活動内容から組織の成立経緯までもが異なる、組織間、団体間の連携は、確かにむずかしい。しかし個人の能力を自由に発揮し、またその力を地域を動かす力に変えていくためには、対等な立場に立って、多様な価値や考えを理解し、認め合う男女共同参画の視点が不可欠となる。いま、それぞれの地域ではじまりつつある行政と市民との協働のまちづくりは、そうした動きの第一歩といえるのかもしれない。

石阪先生には平成20年度「男女共同参画の視点で進めるまちづくり講座
まちづくり達人塾 ~まちを元気にするプロジェクト~」の講師を務めていただきました。