第2回 締約国の条約の遵守(じゅんしゅ)システムと日本

1.人権条約遵守システムの概要

 人権条約の締約国が、その条約の内容を国内社会において誠実にまもっているかどうかをチェックする方策、またその条約を守らせるためにどのようなシステムがあるか、考えてみましょう。このシステムには、国家報告制度、国家通報制度、個人通報制度が代表的なものです。実際には、一つの人権条約にこの3種類の制度が、複数設定されている場合が普通です。

  1. 国家報告制度

     この制度は、三種類のなかで一番緩やかな遵守制度といわれます。多くの人権条約は、その条約において締約国の委員で構成される委員会(条約機関)を設置しています。その人権条約に加盟している国家は、人権条約上の義務として、委員会に対してその人権条約が規定している人権の保障の国内社会での進捗(しんちょく)状況を報告しなければなりません。委員会は、その報告書を審査するのです。そして、個々の国に対する勧告、最終見解を含む審査の内容を国連の諸機関を通じて公表します。この制度を採用している人権条約は、社会権規約、自由権規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約(拷問禁止条約)、女子差別撤廃条約などがあります。

  2. 国家通報制度

     この制度は、人権条約の締約国が、同じくその人権条約の他の締約国がその人権条約に違反していることを、条約が設置した委員会に通報し、この委員会がその通報を検討する制度です。人権及び基本的自由の保護のための条約(ヨーロッパ人権条約)や人権に関する米州条約(米州人権条約)がこの制度を設けています。また自由権規約も同じような制度を設けていますが、しかし、事前に、通報される締約国は、この自由権規約が設けている規約人権委員会がこのような権限を有することを承認し宣言する必要があります。

  3. 個人通報制度

     人権条約が設置した委員会が、締約国が人権条約の人権を侵害したという個人からの申し立てを受理する制度があります。しかし、この制度も、事前に締約国がこのような権限を委員会が保持するということを承認する必要があります。具体的には、締約国がこの条約の個人通報に関する選択議定書への事前の加盟が必要です。この制度は、三種類の制度のなかでも、もっとも国家に対して条約を遵守させるのに有効的であるために、「牙を持った狼」と言われています。例として、自由権規約の第一選択議定書が有名です。

用語の解説

選択議定書
議定書は、名称は異なりますが条約の一つの種類です。しかし、主たる条約が存在して補充の意味において議定書が締結されます。女子差別撤廃条約とこの選択議定書の関係を説明しますと、この条約が存在し、それに付随して選択議定書があります。名前のように「選択」ですから、この議定書に入るか否かは女子差別撤廃条約の締約国の判断に委ねられます。地球温暖化防止は、国際社会が緊急に取り組む必要のある課題ですが、皆さんは、いま、地球温暖化を安定させるための気候変動国連枠組条約と京都議定書の関係をご存知ですね。