第1回 LGBTQと社会的養護の課題とは

1.はじめに

 本稿では、「LGBTQと社会的養護の可能性」と題し、LGBTQの分野と社会的養護の分野がクロスするテーマについて、これまでの活動を紹介します。あわせて、今後の展望についても書いていきたいと思います。
 まず、自己紹介ですが、私は一般社団法人レインボーフォスターケアの代表理事をつとめています。「レインボーフォスターケア」という名前の由来ですが、レインボーフラッグは、LGBTQコミュニティの象徴とされており、多くのLGBTQ団体がその団体名に「レインボー」がついています。「フォスターケア」は、親権者が養育できない子どもを支援するための制度のことであり、日本では「社会的養護」と呼ばれています。その二つの分野が重なる部分でさまざまな課題があり、2013年、その課題解決のための団体を立ち上げました(法人化は2015年)。

2.社会的養護について

 社会的養護とは、正式には「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」(こども家庭庁HPより)です。
 「保護者のいない児童」と聞くと、戦後の孤児をイメージする方が多いのですが、現在は「保護者に監護させることが適当でない児童」がその多くを占めており、親から児童が虐待をされて保護されるケースが多くなっています。こども家庭庁の資料集(注1)によると「里親に委託されているこどものうち約5割、乳児院に入所しているこどものうち約5割、児童養護施設に入所しているこどものうち約7割は、虐待を受けている」という現状があります。
 社会的養護のもとで育つ児童たちは全国に約4万人いて、その受け入れ先は、施設(児童養護施設・乳児院など)か家庭的な場所(里親家庭・ファミリーホーム)のどちらかになります。かつての厚生労働省も今のこども家庭庁も、家庭的な環境での養育を増やす方針を立てていますが、社会的養護を必要とする児童の多くが施設に入所しているのが現状で、里親委託率は令和6年3月末で25.1%とあまり伸びていません(特別養子縁組制度も広い意味では社会的養護の一つですが、養子縁組が成立すると児童福祉法の枠組みから外れるため、本稿では扱いません。なお、養子縁組の割合は全体としても低いのが現状です)。

3. LGBTQの里親

 私が団体を立ち上げたのは、2012年、社会的養護の勉強会で「厚生労働省が家庭的な環境での養育を推奨していて、里親委託率を上げようとしている」と知ったことがきっかけです(当時は、里親委託率が10%くらいでした)。勉強会で「里親を増やせないか」と問われた私は、あることをふと思い出しました。当時、私はLGBTQの勉強会にも参加しており、そこで「子育てを始めている同性カップルたちがいる」と聞いていたのです。早速、「同性カップルは里親の人材になるのではないか」と提案して、次の社会的養護勉強会ではアメリカのソーシャルワーカーを招いてアメリカの現状を聞きました。そこで紹介してもらったアメリカ国内の統計は、以下のとおりです(注2)。

  • アメリカでは、約6万5,500人の子どもが、レズビアンまたはゲイのカップルの養子として暮らしている。
  • カリフォルニア州では、1万6,000人以上の子どもが、レズビアンまたはゲイのカップルの養子となっており、全米で最も多い人数である。
  • ゲイおよびレズビアンの親は、全米の養子の約4%を育てている。
  • 約1万4,000人の子どもが、レズビアンまたはゲイの親のもとで、里子として暮らしている。
  • ゲイおよびレズビアンの親は、全米の里子の約3%を養育している。

 これは2007年の統計でした。この内容にも驚きましたが、ソーシャルワーカーが「LGBTQの方は頼りになる人材なのだ」とおっしゃっていて、「それであれば、日本にもLGBTQ里親を増やしたい」と思いました。2013年、有志とともにLGBTQと社会的養護を考える団体「レインボーフォスターケア」を設立しました。

ニューヨーク市の里親募集のポスター。ゲイカップルがモデルになっている
里親募集のポスター(NY市):ゲイカップルがモデルになっている

4. LGBTQと児童養護施設

 「LGBTQと社会的養護」の課題解決をテーマに掲げて団体を立ち上げると、すぐに多くの児童養護施設職員から相談が入りました。「うちの施設にトランスジェンダー児童がいるが、対応方法がわからない」などの相談です。「LGBTQと里親」が「育てる側」の課題ならば、こちらは「育てられる側」の課題です。多くの児童養護施設は男女別で、自身の性別に違和感を抱くトランスジェンダーの児童にとっては非常に厳しい環境となっているようでした。また、同性愛だとカミングアウトされてどう応えていいのかわからない職員もいました。そこで、2016年には、全国の児童養護施設を対象に調査を始めることにしました。

 次のコラムでは、「育てる側」「育てられる側」、それぞれの課題にどう向き合い、解決に向けてどう進めていったのかについて書きたいと思います。


注1.こども家庭庁資料集「社会的養育の推進に向けて(令和7年12月)」より

子ども家庭庁資料集へのリンク(外部リンク)外部リンク

注2.GARY GATES, LEE M.V. BADGETT, JENNIFER EHRLE MACOMBER, KATE CHAMBERS, Adoption and Foster Care by Lesbian and Gay Parents in the United States, March 23, 2007