第3回 若者の声や行動がつくるジェンダー平等
これまで2回にわたり、私自身の原体験や若者たちとの活動する中で見えてきた若者のジェンダー観についてお伝えしてきました。最終回となる今回は、「若者の声や行動がどのように社会を動かし始めているのか」、そして「誰もが日々の生活の中でできること」をテーマとしています。
若者の行動は日常の違和感から始まる
ジェンカレにはさまざまな背景をもつ若者が参加しています。特別な才能や知識だけではなく、「日常のちょっとした違和感」をきっかけに行動すれば、社会はきっと変えられる――そのようにお伝えしています。
高校1年生の高橋さんは、学校生活をジェンダー視点で見つめたときに違和感を覚え、「学校全体でジェンダー教育に取り組んでほしい」と教員へ提案し、生徒や教員に向けてジェンダーを学ぶ授業を実施しました。彼女は「ジェンダー課題は一筋縄ではいかないが、向き合ってくれる大人がいると知り、エンパワーされた」と話してくれました。教育現場は平等だと思われがちですが、実は教員・保護者・地域社会からの「性別による思い込みや期待」が反映されやすい場。彼女の行動は、その構造を考えるきっかけとなりました。
産科病棟で助産師として働くのんさんは、乳幼児のネームバンドが男女で色分けされている現場に疑問を抱き、先輩や師長に提起しました。「昔からこうだから」と続いてきた慣習に問いを投げかけることは勇気のいることですが、結果的に性別に関係なく黄色のネームバンドへ変更されました。若い世代の気づきから、現場の意識を変えることができました。
大学生4年生のけんせいさんは、「男性だってジェンダー規範に苦しむことがある」「男性のアクティビストが少ない」という実感から男性性をテーマにした団体を立ち上げました。男性同士が安心して語り合える場をつくり続けています。
大学2年生の坂本さんは、地元の小学校で盗撮事件が起きたことをきっかけに、「子どもたちは性に関する正しい知識を学べているのだろうか」と疑問を抱きました。学校関係者や保護者にアンケートを行い、包括的性教育に関する陳情書を提出。地域の課題を可視化し、自治体に声を届けました。
大学1年生の山田さんは、静岡から東京への進学を機に、「地方の若者がジェンダーのアクションを起こせる場をつくりたい」と思い、同世代の地方出身の声を集め、地元の県議会議員に直接意見を届けました。現在は、各地で行われるジェンカレのワークショップでファシリテーターとして活躍しており、地域の若者の学びと一歩を支えています。
ジェンカレゼミ生たちの頑張りからわかることは、若者は行動しないのではなく、
- 方法を知らなかっただけ
- やっていいと思っていなかっただけ
- 応援してくれる人がいなかっただけ
ということです。これは若者に限らず、あらゆる世代に共通することかもしれません。
1dayジェンカレがつくる“最初の一歩”
ジェンカレでは、「1dayジェンカレ」を各地で開催し、とりわけ地方の若者がジェンダーや社会の変え方を学べる機会をつくっています。愛媛県、奈良県橿原市、福島県など、地域や学校の現場と連携しながら実施してきました。プログラムは「学び」「対話」「アクション設計」の三段階で構成され、ジェンダーについて初めて学ぶ人でも自分らしい一歩を描けるようになっています。
参加者の中には「ジェンダーについて初めて学んだ」という高校生や大学生も多く、「これまで感じてきたモヤモヤに名前がついた」という声が多数寄せられます。対話のパートでは、違和感や経験を共有することで、「ひとりじゃなかった」「ジェンダーについて話せる人がいなかったから嬉しい」「前向きに解決しようと思っている人がいると知って救われた」と涙ぐむ人もいます。
特に地方では、ジェンダーやセクシュアリティなどの話題を“タブー”のように感じやすく、語れる場そのものが貴重です。だからこそ、1dayジェンカレやジェンカレ for Localでこうした機会をつくれることに私自身も意義深く感じています。この場が、若者、とりわけ地方の若者にとって、自分の感覚を言葉にでき、誰かとつながり、自分の未来を描き始める大切な機会になっているのだと実感しています。
プログラム最後のMAP(My Action Plan)づくりでは、
- 家族や友人とジェンダーについて話してみる
- ジェンダーに関する本を読む
- 産婦人科に行ってみる
- 寄付つきのチョコレートを買う
- ジェンダーに関する本の読書会を開催してみる
- ジェンダー平等について分かりやすく学べる教材をつくる
など様々なアイデアが生まれています。
等身大の一歩を、無理なく続けていくこと。それがジェンダー平等をつくる確かな力になります。
日常の中にある「ジェンダー平等をつくる行動」
社会を変える行動と聞くと、署名運動や政策提言のような大きなことを想像しがちですが、変化はいつも「日常の選択」から始まります。
- 周囲の何気ない言葉に違和感があれば、なぜそう感じたのかメモする
- SNSの情報をそのまま信じず、複数の視点から確認する
- いきなりジェンダーの話がしにくければ、映画やドラマなどを一緒に見て話す
- 学校や職場の「これって当たり前だっけ?」に小さな問いを立てる(はて?と思う)
- 日常で触れる言葉や表現に、性別の決めつけがないか意識してみる
- 「もし自分の立場が違ったらどう感じるだろう?」と想像してみる
こうした小さな行動の積み重ねが、「ジェンダー平等は当たり前」という価値観の土台になります。
若者を支えたい大人へのヒント
若者が行動できる背景には、必ずそれを支える環境と大人の存在があります。大人に求められるのは、若者の気づきや問題意識を真摯に受け止める姿勢です。「まだ分かっていない」「理想論だ」「わがままだ」と切り捨ててしまえば、芽が育つ前に摘まれてしまいます。大切なのは若者を「パートナー」として捉えること。即効性のある成果だけを求めるのではなく、継続的に関わり、試行錯誤を支えること。そうした関係性があるからこそ、若者は安心して一歩を踏み出すことができます。行動しやすい環境が整い、応援してくれる人がそばにいるとき、誰もが社会の変化の担い手になれます。
私たちが「ジェンカレ for Local」を展開しているのも、この環境を地域でつくるためです。ジェンカレ for Localは、ジェンダー視点で地域を見つめ、若者自身が課題を発見し、行動につなげられるようにするプログラムです。地域ではよく「うちの地域にはジェンダー課題に関心のある若者はいない」と言われます。しかし、実際にいないのではなく、見えていないだけです。存在が可視化されていない、あるいは大人たちとの接点がないがために、声が埋もれてしまっているのだと感じます。だからこそ、「学び」「対話」「つながり」が安心してできる場が重要です。こうした場が整えば、若者の声は地域に具体的な変化を生み出します。ジェンカレ for Local では、地域のステークホルダー(※1)と協働し、若者のアクションを支えるコミュニティづくりにも取り組んでいます。この過程で大人は若者から学び、若者も大人とともに地域を変えていく、そんな双方向の関係性が生まれていきます。
決めつけを手放し、ともに未来をつくる姿勢こそが、若者の行動を支える最も大きな力になります。
(※1)その活動に関りがあったり、影響を受けたりする人たちのこと。
一人ひとりの積み重ねが“未来を変える”
世界経済フォーラムの報告によると、世界全体でジェンダー平等が実現するまでにあと123年かかるとされています。
ジェンダー平等は、いつか誰かが実現してくれるものではありません。政治家や専門家だけが進めることでもありません。日々の暮らしの中で私たちがどんな選択をし、どんな態度をとるか、その一つ一つが社会に影響を与えていきます。
変わらないように見える社会に失望するのではなく、今日、自分ができる小さな行動を選んでみること、その積み重ねが、未来を確かに前へ動かします。
今日からできるアクションの一例
〈話す/共有する〉
- ジェンダーや社会課題について誰かに話してみる
- SNSで気づきを共有する
- 映画やドラマをきっかけに話す
- ジェンダー表現に気を付ける
〈知る/学ぶ〉
- 本を読む
- 地域や行政の取り組みを調べてみる
- 男女共同参画センターのイベントに参加する
- 読書会やイベントを開催する
〈選択する/支える〉
- 寄付つきの商品を買う/社会的に問題のあるものを買わない
- 本や服を寄付する
- NPO・NGOの活動に参加する、ボランティアをする
- 地域課題に関わるプロジェクトに参加する
〈企画する/働きかける〉
- 写真展・上映会を企画する
- 身近なコミュニティでジェンダーの話題を扱う会をつくる
- 地域課題に関わるプロジェクトに参加する
- デモに参加する
- 行政や議員に提案・意見を届ける
- 署名に参加する、署名を立ち上げる
- 企業に意見を送ってみる
- パブリックコメントを出してみる
映画やドラマをきっかけに話すときにおすすめの作品があります。映画『女性の休日』です。この作品は、ジェンダー平等先進国として知られる北欧・アイスランドの歴史を動かした、知られざる「運命の1日」を描いたドキュメンタリーです。
1975年10月24日、アイスランドの全女性の約90%が、賃金労働だけでなく家事や育児などの無償労働も含めて「すべての仕事を休む」ことを呼びかけた前代未聞のムーブメントでした。
「女性が休む」という行動が、社会にどれほどのインパクトを与えたのか。その後の法律の変化や意識の転換とともに描かれており、「ケアや家事労働の価値」「誰が社会を支えてきたのか?」といったテーマを自然に考えられる作品です。ジェンダーの話題を周囲としづらいという方は、「このシーンどう感じた?」と感想から始められるため、対話の入り口としてとてもおすすめです。
また、「女性の休日」は、ユーモアと柔らかさで多様な立場の女性たちが参加できるよう工夫された持続的社会運動のモデルでもあります。アクティビストだけでなく、普通の女性たちが連帯し、一歩を踏み出した記録は、「私の行動にも意味があるのかもしれない」と勇気やインスピレーションを与えてくれます。ぜひ見てみてください。
「123年後」にジェンダー平等が実現することをただ願うのではなく、もっと近い未来に実現するように、今日からできる小さな行動を一つずつ選び取っていきましょう。
