第2回 今、若者が抱くジェンダー観
活動をする中で、ジェンダー平等に対する若い世代の理解は、マスメディアやSNSで話題になるほど“進んでいる”とは言い切れないと感じる場面が、まだ多くあります。
SNSでの意見や学校を訪問した際の感想を聞いていても、「ジェンダー平等は誰かの不利益を生むものではない」という基本的な考え方が、十分に浸透しているとは言えません。
しかし、着実にジェンダー平等に関心を持つ若い世代は増えています。
SDGsのカラーホイールを目にする機会が増え、小中高生も総合的な学習の時間などを通じてSDGsに親しんでいます。メディアでも「ジェンダー」という言葉が頻繁に取り上げられ、「国際女性デー」や「ジェンダーギャップ指数」といった言葉に触れる人が増えています。20 歳前後の人たちを対象に実施したSDGsに関する調査で、最も関心が高い課題としてジェンダー平等が挙げられたとのデータもあります(EdTechZine,2020)。
男女二元論ではない性別の多様なあり方についても、学校の制服をめぐる議論等を通じて考えを巡らせる機会が多くあります。医学部入試における女性差別や、社会的経済的に地位のある人物によるセクシャルハラスメントのニュースにも日々さらされています。ジェンダー平等とは、決して他人事ではない、自分自身の将来のために必要なものだとの当事者意識がある若者は増えています。
日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ「国や社会に対する意識(6カ国調査)」によると、日本の若者が「自国の重要な課題」として挙げたのは「少子化」「高齢化」「経済成長」の順であり、特徴的なのは「自然災害」と並んで「ジェンダー格差」が上位に入っている点です。
アメリカ・イギリス・中国・インドで9〜10位、韓国が6位、日本が5位。つまり、日本の若者は他国と比べても「ジェンダー格差」を重要な社会課題として認識しているとわかります。
(出所)日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ「国や社会に対する意識(6カ国調査)」
さらに、男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に対し、「反対」と回答した割合が18〜29歳、30代で特に高いことがわかっています。
(出所)内閣府男女共同参画「男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)」
「男だから」「女だから」ではなく、「自分らしさを大切にしたい」という価値観が広がっていることの表れだと思います。
「若い人が引っ張る時代になれば、日本もジェンダー平等になるよね」と言われることがあります。確かに、若い世代の意識変化には希望がありますが、現実はそれほど単純な話ではありません。
若者の中にもさまざまな考え方があり、SDGs教育や社会の空気感によって全員が同じ方向に変わっているわけではないのです。
そこで、今回は日本の若者世代の前向きな変化の側面と、いまだ残る課題の両面を見ていきたいと思います。
まず変化の兆しとして注目できるのは、家庭や職場における「役割分担意識」です。
厚生労働省「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査」によると、家庭と仕事(キャリア)の優先順位づけに関して、約7割が「性別は関係ない」と回答。また、若年社会人の7割以上が育休取得の意向を示し、そのうち約8割が「1か月以上の取得を希望」と答えています。
さらに、就職活動では約7割が「仕事とプライベートの両立」を重視している一方で、「仕事と育児の両立に不安がある」と感じる人も約7割にのぼります。
(出所)厚生労働省「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査(令和7年)」
これまでの社会や親世代にとって「性別役割分担」は当たり前のものでしたが、今の若者世代では「女性も働き、男性もケアを担う」ことがスタンダードになりつつあります。
しかし、若者の理想と社会制度・組織文化との間には依然としてギャップがあり、「自分らしい生き方を選べない」現実に直面しています。
結果として、理想と現実のズレを感じた若者が、結婚や子どもを持つことを諦めざるを得なかったり、組織や地域から“静かに離れていく”現象も見られます。
この5年ほどで若者の「企業選びの基準」にも変化があり、給与や安定性だけでなく「SDGsへの取り組み」や「社会的意義」を重視する傾向が強まっています。
つまり、若者は、“理想と現実の間で模索しながらも、より公平で柔軟な社会を望む姿勢”へと確実に変わりつつあるのです。
こうした前向きな変化の一方で、依然課題が残る部分や、急速に深刻化しつつある課題もあります。
東京都「令和5年度性別による無意識の思い込み実態調査結果」によると、小学生に比べ高校生、また、高校生の中でも上の学年の生徒ほど、「男性/女性だから」と思う割合や「性別で向いている仕事と向いていない仕事がある」と考える割合が高いことが明らかになりました。年齢が上がるにつれて、「男性らしさ」「女性らしさ」という固定観念が強まる傾向が見られ、家庭・職業観にも影響を及ぼしています。
親や友人、インターネットやSNSなど、多様な人々・多様な媒体から「男性らしさ」「女性らしさ」といったメッセージに触れる機会が増えることで、“ジェンダーステレオタイプ”が刷り込まれていく可能性が指摘されています。幼少期から「無意識の思い込み」に気づき、考える機会をつくることが重要です。
そして、急速に深刻化しつつある課題として、「男性もつらいのになぜ女性やセクシャルマイノリティばかりが優遇されるのか」といった不満の高まりや、ネットの過激な言説に感化された性差別発言などがあります。私自身、講演やSNSの場でこうした意見に出会う機会が増えたと感じています。最近では、私が学校で講演している最中に、匿名のチャットメッセージで、私が閲覧できる場所に性差別的な罵詈雑言を講演を聞いている最中の生徒が記した事例もあり、事態は深刻です。
男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)では、「社会全体で男女の地位は平等になっていると思うか」という問いに対し、「男性の方が優遇されている」と答えた人が74.7%、「平等」と答えた人が16.7%、「女性の方が優遇されている」と答えた人が6.8%でした。年代別に見てみると、18〜29歳男性の28.1%、30〜39歳男性の27.5%が「女性の方が優遇されている」と回答しており、 若年男性の中でそうした認識が相対的に高い傾向にあります。
(出所)内閣府男女共同参画「男女共同参画社会に関する世論調査(令和6年)」
さらに、イプソス(※1)の国際調査では、「男性は、平等を支えるために多くを求められすぎている」と答えた日本人が45%に上り、2019年から6年間で10ポイント上昇しています。特に男性の同意率が高く、Z世代では3割が「やりすぎ」と感じていることが分かりました。
(※1)世界的に展開する市場調査・世論調査の会社のこと

(出所)イプソス「平等指数2024」
こうしたデータから、若年層で「ジェンダー平等」が「女性優遇」や「男性の不利益」として捉えられている傾向が見えてきます。変化が進む中で、「男性もつらい」「こんな社会をつくったのは自分たちの世代ではないのに、上の世代が残した「負の遺産」を背負わされる」という不公平感が生まれ、性別や世代の対立構造が生まれつつあるのかもしれません。
ジェンダー平等は「誰もが自分らしく生きられる社会」を実現するためのものです。 いま求められているのは、「誰かが得をし、誰かが損をする」という考えから抜け出し、 性別を問わず、すべての人が生きやすくなる社会をどうつくるかという視点です。
いまこそ「ジェンダー平等とは何か」「なぜそれが必要なのか」そして「ジェンダーギャップのある社会では何が問題なのか」を丁寧に伝え、共通認識を広げていくことが求められています。ジェンダーギャップのある社会では、誰かの可能性だけでなく、社会や地域全体の力が失われてしまいます。互いを理解し合い、誰もが生きやすい社会をつくっていくために、一人ひとりが「自分にも関係のあること」として考え、行動できる社会の土台づくりが求められています。
