第1回 ジェンダーとの出会いと動き出すきっかけ
1. 私がジェンダーに興味を持ったきっかけ
高校2年生のとき、同級生から「女は黙ってかわいくしてればいいんだ」と言われたことが、私がジェンダーについて考える最初のきっかけでした。「女なんだから」と周囲から言われたことなど無かった私は、同級生の言葉に驚きました。その後、母から「女の子というだけで生まれてすぐ殺される、学校に通えず10代前半で強制的に結婚・出産させられる子どももいる」と聞きました。私は大きな衝撃を受け、調べるうちに「ジェンダー」という言葉、そして世界に広がる不平等の実態を知り、「同じ人間なのに性別でこんなにも違う扱いを受けるのはなぜなのか」と憤りました。
直後、「国際ガールズ・デー」があると知り、国際NGOプラン・ジャパンが主催するイベントに参加しました。登壇されていたジェンダー・スペシャリストの大崎麻子さんとの出会いが、「私もこんな人になって、人生をジェンダー平等の実現のために使いたい」と、その後の私の道を拓く瞬間となりました。
高校時代、最初に目が向いたのは海外のジェンダー課題でしたが、大崎さんをはじめ、女性の権利向上、ジェンダー平等を目指す数々の良き指導者に恵まれ、日本の現状を学ぶ中で「日本の方がジェンダー平等途上国なのかもしれない」と強い課題感を覚えました。そこで大学2年次に任意団体「Torch for Girls」を立ち上げ、東日本大震災で被災した女の子たちの声を基に女の子のための防災ブックの制作や、ジェンダー平等を目指した啓発イベントの開催、国際女性デーの日に新宿駅でミモザを配るなど、社会に働きかける活動に奔走しました。また、院内集会での発言機会をいただいたり、国連女性の地位委員会へ二度参加の機会をいただいたことは、今の活動の原点となっています。
2.若者の声は政策に届いているのか
2020年、次の5年間のジェンダー平等政策を定める「第5次男女共同参画基本計画」の策定にあたりパブリックコメントが実施されました。当時、新卒で勤めたソーシャルビジネスの会社から次へのステップを模索中だった私は、計画素案を初めて目にし「若者当事者の意見を聞いて作ったのか」「なぜ社会は、若者にばかり改革への期待を押し付けるのか」と大いに疑問を抱きました。私が大学生の頃、東京都葛飾区男女平等推進委員を 2 年間務めていた際、委員で若者は私ひとりでしたが、声をかけてくださった区職員も、他の委員も、私の意見に真剣に耳を傾けて計画に反映しようと努めてくださった経験があったため、この国の計画素案に若者の視点を一切感じなかったことに、疑問を抱いたのです。結婚時に 96%人が夫の姓に変え、学部入試では女性であることが減点理由にされる国に、私たちは生きています。「このままでは、生まれた性別によって選択の幅が狭まる日本の状況は変わらない」と危機感を抱きました。SNSを見ていると「ここを変えてほしい」との声を目にする一方で、意思決定者に届いていないことも痛感しました。
そこで、2020年7月に「#男女共同参画ってなんですか」を立ち上げました。32 の個人・団体が賛同し、30歳以下を対象に若者の声を集める取り組みを始めたのです。「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」は100ページ以上にわたり、ジェンダーを学ぶ人でも理解するのが難しい内容だったため、まず私たちは、若い人やジェンダーについて学んだことがない人が見ても理解でき「声を送りたい」と思える内容を、パブリックコメント期間の約1か月間、InstagramやTwitter(現X)で毎日投稿しました。また、内閣府男女共同参画局職員や専門家を招き、計画の背景や課題を知り、意見を形成できる場をつくりました。その際、若者から「国にネガティブな意見を送ったら就職活動に響くのではないか」「直接送るのは抵抗がある」といった声も寄せられたため、webサイトの意見フォーム、SNSハッシュタグ、およびダイレクトメッセージで意見を集め、男女共同参画局へ届ける仕組みを整えました。結果、30歳未満から1,050件以上の声が集まり、様々な分野で活動する若者の提言も併せて「ユースからの提言書」としてまとめ、橋本聖子担当大臣(当時)に直接届けることができました。
若者の声を受け、計画には「就活セクハラ(就職活動時におけるハラスメント)」や「緊急避妊薬のOTC化(医師の処方なしで薬局で購入できるようにすること)」が盛り込まれました。プロジェクトに届いた意見で最も多かったのが「選択的夫婦別姓の早期導入」を訴えるもの(400件以上)でした。橋本大臣は2020年10月の衆議院本会議で「(選択的夫婦別姓について)国民間にさまざまな意見があると承知しているが、わが国の深刻な少子高齢化を食い止めるためには、とりわけ若い世代のこうした意見をしっかりと受け止め、十分に配慮する必要がある」と答弁しました。橋本大臣発言は社会を大きく揺さぶり、導入への期待が一気に高まりましたが、根強い反対意見もまたごく一部の国会議員を中心に噴出しました。そこで私たちが「#いつになったら選べますか」というオンライン署名を急遽立ち上げると、わずか5日間で3万筆が集まりました。計画内に直接明記されることは叶いませんでしたが、若者の声が議論を巻き起こしたこと自体が大きな成果でした。
一連の取り組みは、若者の声で政策を形成できることを示す一歩となりました。何より、それまで「声を届けても変わらない」と諦めていた同世代が、「自分たちの声が社会を動かせる」と実感できるきっかけになりました。(ユース提言を橋本聖子担当大臣(当時)に届けた際の写真)
3.関心があっても思いをカタチにする場がない
「#男女共同参画ってなんですか」の活動を進める中で、若者からは「ジェンダーに関心はあるが語れる場がない」「SNSではつながれるけれど、安心して本音を話せる場がない」「解決のための行動をしたいが、どうしたらいいのか分からない」との声が数多く寄せられました。学ぶ機会や仲間と出会う場が無く、孤立感を抱えている若者が全国にいたのです。そこで立ち上げたのが(一社)GENCOURAGE(ジェンカレッジ)です。GENCOURAGEは「ジェンダー平等を当たり前にする社会」を目指し、若者の育成とジェンダーの視点を広げる場を提供することに加えて、自治体・企業・教育機関と協働しながら研修・講演・プログラム開発など幅広い事業を展開しています。中核事業として2022年に始めたのが、次世代のサードプレイス「ジェンカレ」です。
「ジェンカレ」は、ジェンダー平等の実現を目指す人々が学び合い、考え、そして行動につなげるための包括的な学びと対話のオンラインプラットフォームです。第一線で活躍する研究者・実務家・アクティビストを講師に招き、ジェンダーに関する知識を体系的に学ぶことができます。メインターゲットは若者ですが、年齢に関わらずどなたでも参加できる開かれた学びの場です。
参加方法には、講義を中心に学ぶ聴講生コースと仲間やメンターとともに学びを行動に移すゼミ生コースを設けました。ゼミ生は年齢や居住地も様々で、自身の関心をもとにジェンダー平等に向けたMy Action Plan(MAP)を作成・実施しています。メンターによる伴走支援を受けながら、「地域のジェンダー不平等の解消」「メディアにおけるジェンダー不平等の解消」「LGBTQ+教育」「企業におけるDEI推進」など、多様なテーマで具体的なアクションが生まれています。
ジェンカレで大切にしているのは、問題を引き起こす社会構造を理解し、問題解決の力を養いながら、自身の思いを具体的な行動に移すことです。また、ジェンダーの問題は個人の経験や背景に深く根ざしているため、安心して話せる環境を整えることを重視しています。一人ひとりにメンターを配置し、伴走支援を行っています。学びと対話を通じて得た気づきや経験が、やがて社会を変える行動へと発展していきます。
これまでは主にオンラインで「ジェンカレ」を行ってきましたが、現在は形を広げ、さまざまなニーズに応えています。「1dayジェンカレ」では、基礎的な学びや対話を半日から1日完結で気軽に体験できるようにしています。また、各地の若者や自治体や企業と協働して進める「ジェンカレ for Local」では、地域に根差した課題をジェンダー視点で捉え、性別による生きづらさや若者の声が届かない状況などに向き合い、住民・行政・企業が連携して解決を目指す取り組みを進めています。このように、若者の視点を起点に、日本や地域に残るジェンダーギャップの解消を目指しています。