第3回 女性の貧困問題と男女共同参画の推進

GDP世界第2位、しかし低い女性の地位

 長引く不況のなかで日本経済は一時ほどの勢いがなくなったとはいえ、国際的にみれば、GDP(国内総生産)世界第2位の堂々たる経済大国である。国民1人当たりの所得や教育水準、平均寿命などを指標とするHDI(Human Development Index:人間開発指数)は世界第8位。この数字が大国ぶりを物語っている。
 その一方で、国会議員や専門職・技術職、管理職に占める女性の割合や女性の所得など、女性の社会的経済的地位を示すGEM(Gender Empowerment Measure:ジェンダー・エンパワメント指数)は、第57位と後退する(内閣府『男女共同参画白書』2009年)。HDIとGEMがともに高いというのが、経済的にも安定した多くの先進国の姿であるが、日本は経済力に比して、女性の社会的経済的地位が大変に低いという、男女共同参画の視点からはあまり芳しくない国であるといえよう。

大きい男女の賃金格差

 日本の女性の社会的経済的地位をもう少し詳細に見ると、管理職に占める女性の割合は、先進国といわれる国においては30~40%を占めるが(アメリカ42.5%、オーストラリア37.3%、ノルウェー30.5%など)、日本はわずか10.1%(内閣府『男女共同参画白書』2008年)。また男性の賃金を100とすると、いわゆる先進国では女性の賃金はその8割程度を維持している国が多いにもかかわらず(スウェーデン88.4、オーストラリア86.4、アメリカ81.0など)、日本の場合は正社員同士比べると、64.9にすぎず、さらにパートタイマーを含む全雇用者でみると男性100に対して女性52.2と差が開く(国立女性教育会館『男女共同参画統計データブック』2009年)。そして働く女性の半数以上が非正規雇用者であるというのが、日本の現実である。 

女性の貧困を内包する社会構造

 男性と女性の経済力の格差がこれほど大きくなってしまった背景としては、出産や育児で退職する女性が依然として7割を超え、継続的な働き方ができず、結果として専門職や管理職として働く女性が多くはないこと、女性の働き方として中断再就職の女性のみならず、最近では若い女性も含め、非正規雇用が大変多いことなどがあげられる。また、DVなど女性への暴力が女性の心身の健康度を低くし、働くことや社会参加を困難にしているという状況もある。
 戦後の経済成長のなかで、男女の性別役割分担規範が一層強化された日本では、多くの女性たちは専業主婦や家事手伝いとして、世帯主である夫や父親に扶養され、たとえ働いたとしても家計補助の枠を出ないことがよしとされてきた。しかし、これまでみてきたように、社会経済状況の急激な変化のなかで、女性がひとたび夫や父親の扶養家族としてではない生き方を選択した場合には、男女の経済格差が大きい日本の現実のもとで女性は一気に貧困に陥るリスクを負っている。扶養家族として生きるという従来の生き方の陰で女性の貧困問題は顕在化してこなかったが、女性たちは貧困と背中合わせの社会構造のなかで日々暮らしを営んでいるといえよう。
 すなわち、経済大国といわれる日本ではあるが、それは男性を主な稼ぎ手とする世帯収入を見るかぎりにおいてであり、女性に焦点をあてれば、経済大国とは程遠い、貧困に直面する女性の姿が見えてくる。

第3次男女共同参画基本計画(中間整理)における女性の貧困問題

  2010年5月の連休明けの12日、内閣府男女共同参画局が事務局となって進めてきた「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」(以下、第3次基本計画(中間整理))に対するパブリックコメントが締め切られた。内閣府によれば、13,000件を超えるパブリックコメントが全国から寄せられたという。
 第3次基本計画(中間整理)はこのあと、このパブリックコメントなど各方面からの意見を踏まえて、男女共同参画会議基本問題・計画専門調査会でさらに審議を重ね、男女共同参画会議から内閣総理大臣へ答申し、閣議決定を経て正式なものとなる(※)。
 第3次基本計画(中間整理)が第2次基本計画と大きく異なる点は、最近の社会状況についての認識として、少子・高齢化の進展、国際化の進展とともに、経済の低迷と閉塞感の高まり、非正規労働者の増加と貧困・格差の拡大をあげて、困難を抱える人々への対応や雇用・セーフティネットの構築について言及している点である。
 とくに貧困問題については、“貧困問題は女性問題であり、男女共同参画を推進することが貧困問題解決への道筋をつけ、格差を是正することにつながる”と明確に記述されている。

男女共同参画の推進が不可欠

 具体的には、「家庭や地域における男女共同参画、女性が働きやすい就業構造への改革など、男女共同参画の推進がさまざまな困難を抱える人々が直面する問題の解決に不可欠である」「女性に対する暴力のさまざまな形態に応じた根絶のための幅広い取組を総合的に推進することが必要である」「女性が当たり前に働き続けることができ、また暮らしていける賃金を確保できるよう男女間の賃金格差の解消やM字カーブの是正、均等待遇の確保、長時間労働の抑制、非正規雇用における課題への取組が必要である」などと記述されている。
 家庭や地域における男女共同参画、女性への暴力の根絶、M字カーブの是正などどれをとっても、これらの解決の方向性は、男女共同参画センターがこれまで事業として取り組んできたものにほかならない。男女共同参画センターは地域における男女共同参画推進の拠点として、これまで実施してきた事業を、社会構造としての女性の貧困問題という視点から光を当てて、さらに強力に取り組んでいくことが求められている。

※ 私自身、男女共同参画基本問題・計画専門調査会メンバーとして「第2次男女共同参画基本計画」の策定に続き、今回の「第3次男女共同参画基本計画」の策定に向けての審議にかかわっている。その立場から第3次基本計画(中間整理)の特徴として強調しておきたい点は、女性の貧困問題の解決のほか、ポジティブ・アクション(積極的改善措置)の促進や男性片働きを前提とした世帯単位の制度・慣行から個人単位の制度・慣行への変更について言及している点である。これらは第2次基本計画には十分に盛り込まれていないものである。

「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)2010年4月」から抜粋

最近の社会情勢についての認識

  1. 少子・高齢化の進展と人口減少社会の到来
  2. 経済の低迷と閉塞感の高まり
  3. 非正規労働者の増加と貧困・格差の拡大
  4. 国際化の進展と国際的な人の移動の増加

改めて強調すべき視点

  1. 女性の活躍による社会の活性化
  2. 男性にとっての男女共同参画
  3. 子どもにとっての男女共同参画
  4. 様々な困難を抱える人々への対応
  5. 女性に対するあらゆる暴力の根絶
  6. 地域における身近な男女共同参画の推進

喫緊の課題

  1. 分野や実施主体の特性等に応じた実効性のあるポジティブ・アクション(積極的改善措置)の推進
  2. より多様な生き方を可能にする社会システムの実現
  3. 雇用・セーフティネットの構築
  4. 推進体制の強化