第2回 潜在的貧困層としての若い女性

崖っぷち、と語るガールズ

 横浜市男女共同参画センターでは、先日(2010年4月24日)、福島みずほ大臣を招き、「福島大臣とガールズの語る会」を開催した。男女共同参画センターとは普段最も縁遠い年齢層の女性が、男女共同参画、少子化対策等の内閣府特命大臣と、対話をするという集まりだ。
 参加した20代、30代の女性たちからは「子どもの頃に不登校になって、そのあとはアルバイトを転々としていました。自宅にいますが、親との折り合いも悪いです」「最初は正社員で、しばらくして派遣になって細切れの契約期間で働き、いま、うつで休職しています。週5日はムリでも3日くらいの働き方ができればって、思っています」
 「介護現場で働いていますが、正社員でも低賃金。腰を痛める人も多く、このまま続けるか、人生設計が難しい。結婚とか出産など考えられる状況ではないです」
 など、彼女たちが抱える困難な状況が次々に語られた。
 そして彼女たちは親の高齢化や、どんどん狭くなる正社員への門戸に、大きな不安を抱えている。「アルバイトや契約社員以外の働き口がない中で、綱渡りの毎日」と焦り、中には、「崖っぷちです」とひっ迫した状況を語る女性もいる。
 テレビや雑誌、あるいは街中では、大人の目からは傍若無人とも思えるほどくったくなく、元気な振る舞いを見せる女の子たちがいる一方で、福島大臣との語る会に参加したような若い女性も、実は少なくない。

福島大臣

「フリーター」「ニート」も女性問題

 日本の家族形態は、夫婦とその子どもで構成される核家族、あるいは、高齢者がいる場合には三世代世帯が前提とされ、社会福祉のありようもこの家族形態をモデルとして設計されてきた。ところが1980年代から生涯未婚率の急激な上昇が続き、また、離婚率も2000年に入ってから高止まり状態にある。さらに以前に比べて、初めて仕事に就くときから正社員ではなく、アルバイトや派遣など非正規で働く人の割合が増え、その結果、母子家庭に代表されるひとり親世帯の貧困問題とともに、若者の貧困問題がようやくクローズアップされるようになった。 
 日本で働きづらさ、生きづらさを抱える若い人たちを支援する事業が国によって本格的に開始されたのは、数年前のことだ。背景には、稼働年齢に達しても、定職に就かないまま、あるいは働くことができないままの若者の存在が社会問題として認識されるようになったということがある。これらの「フリーター」(注1)や「ニート」(注2)と呼ばれる若者は、我が国では、男性を指すイメージが定着している。大人になったら働くことが自明とされる男性が定職に就かずにいることが、まずは大きな問題とされてきた。
 総務省の労働力調査によれば、「フリーター」の数は、187万人。そのうち男性が83万人に対して、女性は104万人とイメージに反して女性の方が20万人も多い。また、「ニート」は男性41万人に対し女性が23万人と男性の方が多いが、女性は仕事に就いていない状態であっても「ニート」より「家事手伝い」にカウントされる率が高いというデータもある(注3)。
 内閣府は2005年に「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会報告」をとりまとめ、「ニート」と呼ばれる若者やその家族のための相談窓口を明確にすることを提言し、厚生労働省は、2006年に「地域における若者自立支援ネットワーク整備モデル事業」を開始した。後者は、地域の若者支援のNPOと地方自治体やハローワークなどが協働して実施する、いわゆる「若者サポートステーション」事業を指す。
 こうした施策は対象者の性別を特定しているわけではなく、ジェンダーレスで行われるが、その結果、たとえば「若者サポートステーション」の利用者は7割が男性で、合宿形式で「ニート」支援を行う「若者自立塾」ではその割合がさらに高くなる。アルバイトや派遣など非正規で働き、あるいは仕事に就くことができずにいる若者のうち、人数からいえば、男性よりもむしろ女性の方が多いにもかかわらず、若い女性たちはこれまでそうした支援の対象とされてこなかった。いや、それ以前に、「フリーター」や「ニート」と呼ばれる若者の男女比や性別による状況の違いなどについては、データもまだほとんどなく、実態把握が進んでいないというのが実情である。 

支援に不可欠なジェンダーの視点

 横浜市男女共同参画センターでは、2008年、学校にも職場にも属していない若い女性の生活状況調査を実施した(注4)。この調査でわかったことは、彼女たちが成長する過程で、いくつもの困難な体験を重ねているということであった。学校でのいじめ、職場での人間関係のトラブル、精神科・メンタルクリニックなどへの通院、摂食障害、不登校、家族からの暴力・虐待、セクハラや性被害、望まれない妊娠、父親から母親への暴力等々、こちらが用意した選択肢のうち、ひとり平均4項目に当てはまるという丸印がついた。学校でのいじめ不登校の体験、DVや親の過干渉などが、人間関係への不信、不安定な精神状態を招き、その後の生き方、働き方に大きく影響するという具合だ。
 その結果、彼女たちの多くは、自活できるような仕事に就きたいと願いつつも、不就労と非正規雇用を繰り返す不安定な働き方を余儀なくされている。このことは、生涯賃金が将来の年金額を大きく左右する我が国においては、高齢期の経済基盤の脆弱さに直結する。
 「アパートも借りられないで、ホームレスになっちゃうんじゃないかと、マジに心配しています」という声にうなずく女性も多い。
 2008年のこの調査結果を踏まえ、横浜市男女共同参画センターでは、生きづらさを抱える若い女性無業者を対象にした支援事業「ガールズ編 パソコン+しごと準備講座」をスタートさせた。冒頭の「語る会」はこの事業の延長線上に企画された。
 ガールズからの声を聞いた福島大臣は、「男性中心の社会で、生きにくさを感じることは、ひとつの個性。そうした個性がのびのびと発揮される、多様性が認められる社会を目指したい」としたうえで、若い女性たちの貧困問題を、「青少年というジェンダーレスの施策だけでなく、男女共同参画の視点からも考えていく必要があることを痛感した」と語った。
 母子家庭の母親支援の方法と父子家庭の父親支援の方法とが必ずしも同じでないのと同様、働きにくさ、生きにくさを抱える若者たちへの支援も、ジェンダーの視点が不可欠であり、ここに男女共同参画センターの出番がある。


注1「国民生活白書」では、学生と主婦を除いた15~34歳の若年層のうち、パート、アルバイト、派遣等で働く人および働く意志のある無職の人と定義している。
注2もともと英国政府が労働政策上の人口分布として定義した言葉で、「Not currently engaged in Employment,Education or Training」の略。ここでは、総務省「労働力調査」で、15~34歳の家事も通学もしていない無業者をいう。
注3女性(未婚の卒業者)の無業者のうち、家事手伝いに占める割合は15~24歳で43.5%、25~34歳で58.6%となっている(総務省「労働力調査」2006年)。
注4横浜市男女共同参画推進協会「若年女性無業者の自立支援に向けた生活状況調査」2009年3月