第1回 男女共同参画センターが貧困問題に出会うとき 

経済的に困難な状況にある女性を支援する事業のスタート

 全国女性会館協議会(※)では2006年から各地の男女共同参画センター(女性センター等を含む)を対象に、母子家庭の母親やDVの被害を受けた女性など、経済的に困難な状況にある女性のためのパソコン講座事業を提案し、その経費を助成するなど、支援をスタートさせた。
 この事業を開始した当初は、センターのスタッフからこんな質問を頻繁に受けた。
「貧困状態に直面している女性を対象にするといっても、男女共同参画センターにどうやってそういう方を集めるのでしょうか。とても受講者を集める自信がありません」
 しかし、多くの場合、この心配は杞憂に終わる。しばらくすると、「受講希望者が多く、抽選にしました」とか、「事業を追加してもう1コース実施することにしました」という報告が返ってくるからだ。
 実際、この4年間に、この事業は延べ40ヵ所以上の男女共同参画センターで実施され、受講者も3,000人を超えた。

貧困問題の顕在化

 経済大国といわれる日本で、“貧困”が社会問題としてはっきりと顕在化してきたのは、2008年秋のリーマンショック以降のことである。しかし、男女共同参画センターの現場ではその数年前から、経済的に困難な状況に直面する女性たちの問題が垣間見られるようになってきた。
 私が勤める男女共同参画センターで女性の貧困問題を発見したのは、日々の事業に参加する来館者の変化からであった。たとえば、相談窓口では、相談者から経済的な困窮が多く語られるようになり、再就職講座では待ったなしで働く必要性を受講動機にあげる受講者が増えてきた。また、生活保護等の制度利用者などに対しては、講座等の受講料を減免する仕組みをつくっているが、その申請が年々増加し、昨年度(2009年度)は申請件数が150件を超えた。女性の貧困問題は男女共同参画センターにもじわじわと押し寄せてきていた。

経済大国における貧困とは

 2009年10月、日本の貧困率が厚生労働省から発表された。貧困率の発表は1965年以来のことである。この間政府は、「日本には貧困はない」という理由で発表を避けてきたが、いざフタを開けてみると、貧困率は15.7%。すなわち国民の7人に1人が貧困状態にあるという結果が出た。
 相対的貧困率とは、貧困状態にある人がその国の国民のうちどのくらいの割合を占めるかをあらわした数値だ。具体的には、世帯の可処分所得を世帯人数に振り分けて高い順に並べたときに、その中央値の半分に満たない人が占める割合をいう。2009年10月に発表された中央値は228万円。その半分の114万円に満たない人が国民の15.7%もいるということになる。
 OECD(経済協力開発機構)の2008年の報告書によれば、日本の相対的貧困率は加盟30カ国の中で下から4番目に高い水準にある。30カ国の平均値は10.6%。デンマークやスウェーデンは5%台と、貧困状態にある人が国民の20人に1人と大変少ないことがわかる。

群を抜いて高い、母子家庭の貧困率

 厚生労働省はその後、ひとり親世帯の貧困率など追加調査の結果を発表した。それによると、ひとり親世帯の貧困率は、54.3%。一方、大人が2人以上いる世帯の貧困率は、10.2%。日本のひとり親世帯の貧困率は、先進国のなかではもっとも高いことも明らかになった。
 「ひとり親世帯の半数以上が、貧困世帯にいるということであり、恥ずかしい現実、恥ずかしい数字」と、この数字を見た山井和則厚生労働政務官は述べている(TBSnewsi)。
 さらに、内閣府男女共同参画局「生活困難を抱える男女に関する検討会」の阿部彩委員(国立社会保障・人口問題研究所)が特別集計した結果では、ひとり親世帯のうち母子世帯の貧困率は57%、父子世帯の貧困率は31%と、母子家庭の貧困率が群を抜いて高いことも明らかになった。日本の全世帯の平均所得567万円に対し、母子世帯の平均所得は児童扶養手当なども入れて237万円(厚生労働省「国民生活基礎調査」)と、全世帯平均の4割という数字をみても母子世帯の厳しい状況がわかる。

年齢別・世帯類型別・相対的貧困率

女性の貧困率

出典:内閣府男女共同参画会議、監視・影響調査専門調査会「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女に関する監視・影響調査報告書」概要版(平成21年11月)より

だれにでも起こりうる状況

 1998年に50万2千世帯だった母子世帯は2008年には70万1千世帯へと、この10年間で1.4倍にも増え、全世帯の1.5%に達した(厚生労働省「国民生活基礎調査」)。母子家庭になった理由の8割は離婚だが、問題は出産・育児などで一旦退職した女性の就労が、非正規不安定雇用に集中しやすいという点だ。また、たとえ正規で働いたとしても、男女の賃金格差は男性100に対して女性65と、女性の収入がこれも先進国のなかではきわめて低いという点も、女性の貧困問題の背景にある。
 実際、母子世帯の就労率は8割を超えており、なかには昼間の仕事に加えて夕方からもうひとつの仕事に就くというダブルジョブをこなす女性もいるが、それでも就労による収入は母子世帯の平均で186万円にすぎない。
 働いても生活を維持する収入が得られない現状・・・。このことは母子世帯に象徴的にあらわれるが、もちろん母子世帯だけの話ではなく、日本に暮らす女性であればだれにでも起こりうる問題である。男女共同参画センターが母子家庭支援など貧困問題に取り組むのは、それが特別な人の問題ではなく、日本の社会構造のなかで誰にでも起こりうる、しかも対応が急がれる問題だからである。

特定非営利活動法人全国女性会館協議会

全国の男女共同参画センター、女性センターをネットワークする民間団体。男女共同参画センター等の中間支援組織として研修事業、情報提供事業、助成事業等を数多く実施。北海道から沖縄まで、会員施設は86館。

詳しくは全国女性会館協議会HPから!

豊かな国の女性の貧困化

平成19年J-kaikan Booklet
桜井 陽子「豊かな国の女性の貧困化」