第3回 怒りの発想を根本から変える

これまで、デートDVとは成長や自由や安全を奪うものだという話と、DVではない対等な関係の話をしてきました。今回は最後ですので、短いスペースですが、デートDVの被害や加害が減るように、デートDVへの対処の力をつけるということに関連する話をしておきます。


◆恋愛して当然という思いから離れよう
 デートDVを減らすためには、「恋愛して当然」「恋人がいるのが幸せ」という考え自体を変える必要があります。デートDVの話をしているときに気を付けないと、「いい恋愛しようね」ということで今の社会の主流秩序の中のジェンダー秩序を強化してしまうことがあります。


  つまり、「異性愛で男女二分法、男/女らしくあるべし」「美人、かっこいいことがよい」「モテるほうがよい、リア充がよい、性体験があるのがよい」「イケ てないとだめ、コミュニケーション能力が高いのがよい」「結婚しているのがよい」「多数派の意見が通って当然」というような価値観を多くのひとが持ってい ますよね。それによって人が序列化され、競争し、秩序の下位の者が劣等感、自己否定感を持たざるを得ないようになっています。


 私 が言いたいのは、まわりと比較して早く恋愛しなくっちゃ、恋人がいなくっちゃ、性体験しなくっちゃと思う必要ないよ、ということです。いろいろあっていい んだよ、焦る必要ないよ、と。実際、モテない人っていますよね。性(セックス)や恋愛に興味のない人もいますよね。今は友情や勉強やクラブが大事というよ うな、恋愛以外のことが優先課題の人がいても当然いいのです。同性愛の人もトランスジェンダーの人もいます。それらを意識して、多様性尊重の感覚を皆が持 つことが、DVや恋愛にとらわれないために必要なことの一つなのです。恋愛なんて、いろいろあることの一つでしかないんです。恋愛の中で力を奪われるよう なら、そんな恋愛から離れてください。恋愛していないけど輝いている人っていっぱいいますよ。


◆怒りをもたらす考えを根元から変える――シングル単位の感覚
  デートDV関係をDVとも思わず容認する考え方が蔓延している原因の一つに、「DV関係ではない関係」というものを知らず、恋人に怒りを持ってしまうゆが んだ考え(そこにはカップル単位発想やジェンダー意識、暴力容認意識などがある)を当然のことと思っているということがあります。

 シング ル単位の考えとは、カップル2人でワンセット、1単位、2コイチととらえない、個人個人が基本、相手の自己決定を尊重する考えといいましたが、もう少し詳 しく言うと、例えば、自分の部屋は自分で掃除するが、ほかの家族の部屋は、その部屋の住人がする、そのやり方や掃除の頻度は本人が決めればよく、口出しを しないという感覚です。どんなに汚れていてもそれはその人の問題なので、その決定を尊重します。手出ししません。


 でも、家族だか らとか、相手のためを思ってとか、こんな汚いのは許せないとか思って、口出しをする人が多く、その考えが、DVをもたらしています。世話好きというのは危 険なんです。加害者の多くは、相手と少し対立が始まりそうになると、主導権を奪われてはならないとか、自分の考えが正しいことを証明しようとしたり、相手 をコントロールして勝とうとしたり、相手に自分の期待通りの行動をとってもらおうとしたり、相手に悪いところがあることを相手に分からせようとしたりしが ちです。


 相手のことに集中して、相手が悪い、相手の態度が間違っている、相手がすべきことをしていない、自分の気持ちを相手がわかっていない、自分のここは相手に譲れないなどと思って相手に怒りを向けてしまうのです。この感覚を無意識にもってしまう人は加害者タイプです。


  それに対してシングル単位感覚になれば、相手との関係はどちらが主導権を握るかとか勝つか負けるかの競争ではない、この場で自分の考えが正しいことを証明 する必要などない、相手をコントロールする必要はない、相手のことは相手自身が決めるのであり、自分の期待通りの行動をとらせることはできない、相手に悪 いところがあるとしてもそれは相手の問題で自分が解決すべき問題ではない、自分のことについては相手の干渉を受ける必要はないが、だからこそ同時に相手の ことに干渉してはいけない、などと自分に言い聞かせて支配行動を止めることができます。


 相手が自分の思いどおりの行動をとらないとか自分の気持ちを相手がわかっていないというのはある意味、他人なのだから当然で、必要なら説明したりアイメッセージでお願いすればいいのであり、相手に批判的・否定的になって怒りを向けてしまうのは間違いなのです。


 この問題の背後には、相手と自分は特別な関係で理解しあえて当然、自分の思い通りで当然というカップル単位的な間違った考えがあるのであり、その考え故にパートナーに怒りを持ってしまい、DVしてしまうのです。


  それに対して、シングル単位の考えは、その怒りを生み出す元の考え方を変えることで不当な怒りが起こらないようにする発想なのです。相手のことに意識を集 中するのではなく、自分のことに集中して、「暴力的支配の代わりの、問題の解決につながる行動」をとれる考え、非暴力的で肯定的な発想を持つコツなので す。


普通の友人にはできないけれど、恋愛関係だからいろいろなことが許されるだろうというのは間違った考え方です。愛しているからこそ、相手を信じて相手の自由を尊重するのです。


◆別れの考え、安全な別れ方
実践的に重要なこととして、安全な別れ方について知っておいてください。スペースの関係で簡単に書いておきます。詳しくは後の文献などを見て、必ず誰かに相談してくださいね。


 まずDV被害者が別れやすくなるよう、そして加害者が間違った考えをもって加害行為を悪化させないよう、「別れに相手の同意はいらない」というルールを知ってください。


  双方の合意があると、別れやすいし、そのあとがすっきりするでしょうが、しかし、片方が同意しないからと言っていつまでも別れないというのはおかしなこと です。よく別れ際に傷害事件化、ストーカー化していますから、すこしでもDV的な危険性がある場合は以下の点を覚えておいてください。


  双方の合意があってこそ恋愛関係は成り立つので、片方がその意思をなくせば、自動的に恋愛は消滅します。続けないといけないという契約ではありません。い くら好きでも、相手から拒否されたら付きまとってはなりません。ストーカー行為をしてはなりません。あきらめるしかない、ということです。DV加害者は通 常簡単には別れを認めないから、被害者のほうから強制的に関係を断ち切るしかない場合が多いです。それを正当な行動だという考えをもってください。加害者 になるかも知れない人は、「別れない権利、執着する権利は、ない」ということを知っておいてください。


 次に現状は、加害者は「好 きだといい続け、別れないという行動を、悪いことではない。むしろ愛情ゆえのことだ」と思っています。危険です。逆上しがちです。だから別れようと思う被 害者は、まず、一人で対処せず、信頼できる友人に協力してもらい、DVに詳しい人(先生や男女共同参画センターの相談員)につながること。そして安全な別 れ方、別れた後の安全の確保の仕方の作戦を立てます。そのうえで、先生や大人、親、弁護士や相談員などを巻き込み、そういう大人(支援者)を同席させて別 れ話をしてください。そういう支援者がついているから、もしストーカー的なことをしたらすぐに警察に通報すると相手に伝えてください。並行して、事前に警 察に、事情を話し、相手が来るのが怖いので、もし連絡したらすぐに駆けつけることを頼んでおいてください。


 そしてもし少しでも何 かされたらすぐに大人の支援者に同行してもらったうえで、警察に伝えて、相手に『もう近付くな』という注意を警察からしてもらってください。それでも止ま らないなら逮捕してもらうように被害を訴えてください。主にストーカー法や刑法の傷害罪、暴行罪、器物損壊罪などが使えるので、警察や弁護士に相談してく ださい。


 多くの場合、専門家や警察などが自分(被害者)にはついていると思わせることで、加害者は諦めます。対処の途中で相手 (加害者)の家族や職場・学校の人にも話をして、相手の暴発を抑えてもらうようにすることも選択肢の一つです。第3者がいる前ではおとなしくして別れを受 け入れるようなことを言っていても、逆恨みして、どこかで待ち伏せして無茶な攻撃をしてくることも考えられるので、別れ話をした後しばらくはできるだけ一 人にならず、周りに注意を向けておくようにしてください。


 なお、相手が冷静でDVなどしていないような人ならば、もちろん通常の 別れ話をしたらいいです。ただし、フラれる方が逆上しやすい傾向が一般的にはあるので、別れ話は、密室で二人だけではなく、できれば、第3者が近くにいる ようなオープンな場所でした方がいいと思います。


◆おわりに
デートDVのことはこれ以外にも学んでおくことがいっぱいあり ます。「DVにならないようにどう気をつけたらいいか」「自分が被害にあったらどうするか」「自分が加害者っぽいと思ったときどうすればいいか」「友人か らDVかもと相談を受けたときどうしたらいいか」「友達がDVっぽいと感じたときどうしたらいいか」などいろいろ知ってほしいです。それは結婚生活や職場 関係、人間関係一般をよくしていくためにも必要です。手前味噌ですが、以下のような本を読んでぜひDV的ではない関係をもって幸せになってほしいなと思い ます。被害者であるあなた、自分はこれしかないと思って運命だとあきらめないでください。相手に支配される生活から離脱して、自分に自信が持てるような生 活を取り戻してください。ではまたどこかで。


参考文献
伊田広行『デートDVと恋愛』(大月書店、2010年)
伊田広行『ストップ! デートDV――防止のための恋愛基礎レッスン』(解放出版社、201
1年)
高橋裕子『デートDVと学校』(エイデル研究所 2010年)
ランディ・バンクロフト『DV・虐待加害者の実体を知る』(明石書店、2008年)
スーザン・ブルースター『DV被害女性を支える』(金剛出版、2007年)
NPO法人山口女性サポートネットワーク編・発行『デートDVへの対応ノウハウ』(2012
年)
※下線の書籍はフレンテみえ情報コーナーで貸出しています。