第1回 万協製薬における男女共同参画の取り組みによる成果

私は1985年の阪神淡路大震災で被災しました。家族は奇跡的に命を失うことはありませんでしたが、父が創業し35年間神戸の地で続いていた製薬会社は、一瞬にして倒壊し操業不能となりました。それで、妻と大学の同級生と私の3人で、三重県多気町の山中に移り再創業することになりました。全く知り合いもいないし、仕事のツテもない中で、会社を一からやり直すというチャレンジをしてきました。
 お陰様で今では、売上げが約23億円で、従業員が130名。人数でいうと約40倍の規模になりました。売上げは70倍くらいに成長しています。
 最近では、地元の相可高校の生徒と一緒に化粧品を開発し、一緒にビジネスをするという社会貢献活動もしています。
 それから、残業時間の削減と有給休暇の取得率を上げる取り組みをしています。有給休暇の取得率は、全社員で82.3%。おそらく日本でもトップクラスではないかと思います。

 ユニークなのが「プチコミファミリー制度」という仕組みです。会社の中で別の部署に所属する4人で「ファミリー」を作り、その4人で食事会をしたり、社員旅行に行ったりしています。
 勤続年数の短い人の離職を減らそうと思い、辞める人にアンケートを取ったところ、「会社の中に相談できる人がいない」という意見が多かったので、社内に相談できる人を作るためにこれを始めました。部署も年齢も違う4人の「ファミリー」で食事会をする場合、1人3,000円を会社が出します。海外に社員旅行に行く場合は1週間の休暇と1人10万円のお金を会社が出します。私に旅行の計画のプレゼンをしに来て、合格したグループから海外に出かけています。
 プチコミファミリー制度は2007年から開始し、班ごとの海外旅行は2010年から実施しています。昨年は、あらゆる世代の女性らがチェコ・オーストリアに行きました。「どうやって行くの?」と聞くと、「たぶんドバイ辺りでトランジットじゃないですか?」と当たり前のように言っていました。普通の田舎の女性ですが、海外旅行にも慣れてきている様子です。
 この制度を行うようになって、離職率も下がってきました。1番ひどかった時期は18.3%でしたが今では4.7%です。会社には、所属部署以外にも人間関係を築ける場が必要だと思います。

 それから、出産の時には男性にも必ず配偶者休暇を3日取るようにしてもらっています。育児休暇は子どもが3歳になるまで取得可能ですし、育児短時間勤務ということで、子どもが小学校を卒業するまでは短時間でも正社員として働ける仕組みがあります。女性はこれらの仕組みを活用していますし、男性の中でも育児休暇を1年近く取った人もいます。

 職場に理解と助け合いの環境を作ることで、こういったことが可能になっています。これらは、「どうすれば社員が会社の仕事に楽しく取り組めるか」という目的のために行っています。
 もともと田舎の中小企業だった万協製薬には、社員を雇う際に、性別・年齢・学歴・経歴等、一切選択できる余地はありませんでした。勤め始めても、失敗するとすぐに辞めたがるし、誰もリーダーシップを取りたくないという状況でした。でも田舎で再創業をするためには、そういう人を仲間にしていかないといけなかったのです。ですから私は、社員を自分の仕事のための手先と考えるのではなく、夢の実現のためのチームだと考えるようになりました。

 それで、全員主役の会社にしようと思えば、女性が置かれているハンディキャップを一つでも取り除くようなマネジメントが必要だと思います。しかも、女性が会社で活躍すると、会社の雰囲気が良くなります。男性はすぐに威張って、自分の派閥を作りたがりますが、女性は楽しく和やかな雰囲気を望むからです。女性が会社で活躍するためには、家庭で子育てや介護を一方的に押しつけられている女性を会社が救う制度を持つべきです。例えば、仕事の休みをバランスよく取れるようにするとかです。
 利益追求が求められる企業活動と相対することかもしれませんが、これをやらなきゃいけません。相対することだからといって、みんな簡単に諦めがちですが、絶対出来ます。人に理解されるようになるまでやり続けた結果、成功することが出来ました。