第3回 男女共同参画統計について 連載第3回

第1回、第2回を通じて、男女共同参画統計の定義や意義を理解し、世界および日本国内の動向を見てきました。さらに、国が定めた「第3次男女共同参画基本計画」を実施していく上で、「成果目標」や「参考指標」という形で「男女共同参画統計」が必要かつ有用であることを学びました。最終回では、現在進められている男女共同参画施策の実施状況について、特に意思決定分野における目標値と現在の進捗状況をとりあげて見ていきます。

2.世界の女性議員割合から見る日本女性の意思決定への参画状況

 男女共同参画社会の実現に向けて、社会の政策や制度・方向性を見直すために、女性が指導的役割を果たしていくことが求められています。具体的には、社会の意思決定・政策方針決定過程に男女が平等に参画することが重要です。1990年に国連で採択された「ナイロビ将来戦略勧告」は、「指導的地位に就く女性の割合を1995年までに少なくとも30%までに増やす」という目標と、それに向けたプログラムの策定を勧告しました。
 その後、各国で女性を登用するための施策やプログラムが導入され、世界中で意思決定の地位に就く女性の割合が増加する傾向が見られました。しかし、日本の歩みは他国に比べると極めて遅いのが現状です。政治・経済・社会や地域における女性の参画状況は、目標である30%のはるか手前で足踏みし、一部では後退するなど、国際的水準との格差が拡大しています。
 
 具体的に「世界の女性議員割合の推移」を見てみましょう(図1)。1997年に、国会議員の女性割合が10%未満の国が54.5%と半数以上を占めていました。しかし、約10年後の2011年には、10%未満は25.1%と4分の1に低下し、20%以上の国が約半数を占めています。年々、女性割合が世界的に上昇していることがグラフからわかる一方、日本の女性議員割合は、11.3%で、120位台で低迷しています。最新の内閣府の公表資料では女性議員割合は10.9%のため、さらに順位を落としている可能性があります。

図1 世界の女性議員割合の推移(1997年、2005年、2011年) (出所)男女共同参画データブック2012

統計画像

 統計では推移を表すことで進捗状況や速度も表すことができますが、ここからわかるのは、世界の変化のスピードに追い付いていない日本の状況です。

2.達成目標「2020年までに30%」

 2003年に国連の女性差別撤廃委員会が日本政府の報告書を審議した際に、委員会の最終所見として「(日本が)、公的活動のあらゆる分野、特にハイレベルの政策決定過程に女性が参画する権利を実現するため、なかでも条約の第4条1に基づく暫定的特別措置の実施を通じ、政治的・公的活動における女性の参加を拡大するための更なる取組を行うこと」が勧告されました。「将来の女性指導者への訓練プログラムを支援すること」、「男女共同参画実現のためには意思決定過程への女性の参画が重要であることを啓発するキャンペーンを実施すること」も要請されました。

 日本は同年、男女共同参画推進本部が、「2020年までに、あらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度」になることを達成目標とたてました。これが「202030」です。指導的地域に占める女性とは、特に、議会議員、法人・団体等における課長相当職以上の者、専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者を指しています。
 第3次基本計画では、「2020年までに30%」を達成するために、各分野や実施機関・団体等の特性に応じて、具体的な数値目標と期限を設定しました。実効性のある積極的改善措置(ポジティブ・アクション)*を推進するなど、取組への強化を加速し、政治や経済分野において積極的な取組を促すための働きかけを行うことも明記されました。このように女性の参画拡大に関する一定目標と達成までの期間の目安を示して、その実現に努力する手法を「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」といいます。
 
 ちなみに、列国議会同盟(International Parliamentary Union)のデータに基づいて、OECD加盟34カ国の女性議員割合について、1997年と2011年を比較すると、日本は97年の34か国中32位から2011年には33位と低下しています。一方、34か国中27か国ではこれまで何らかの形でポジティブ・アクションが導入されています。
 第二回で、男女共同参画統計は必ずしも性別統計データとしての男女の数に関する統計だけでなく、男女共同参画にかかわる課題を解決する上で必要となる制度等のデータも重要であることを指摘しました。目的達成に必要と考えられる制度や施策の導入や進捗状況を見ていくことも男女共同参画統計として重要です。

列国議会同盟(International Parliamentary Union)ウェブサイト外部リンク

3.あらゆる分野における女性の参画状況

 女性の意思決定への参画が必要なのは、国政分野だけではありません。地域の暮らしにより密接した意思決定を行う地方議会への女性の参画も重要です。しかし、都道府県議会の女性議員割合は8.1%、政令市/区議会は12.9%、町村議会は8.1%と低水準が続いています。2010年の三重県の数字を見ると、それぞれ県議会が4.1%、政令市・区議会が13.4%、町村議会が10.4%です。国の平均と比較すると、特に県政レベルで女性の参画が遅れていることがわかります。
 あらゆるレベル、あらゆる分野で女性が男性と共に参画していくことが喫緊の課題です。内閣府男女共同参画局では、毎年「女性の政策・方針決定参画状況調べ」を公表しています。その中で、参画状況の推移をあらわす総括表を見ていきましょう。
 行政分野では本省課室長相当職以上の国家公務員の女性割合は2.5%にすぎません。司法分野では裁判官の女性割合は17.0%、検察官は14.1%であり、検事総長・次長検事・検事長にいたっては0.0%です。新司法試験の合格者に占める女性割合が3割を超えるようになり、裁判官、検察官などに採用される女性が徐々に増えていますが、入口分野の増加に比べて、管理職レベルの女性の参画は極めて遅い状況です。 
 地域団体や民間団体においても同様の傾向が見てとれます。民間企業では、100人以上の従業員規模の会社の部長相当職以上は4.2%に過ぎず、課長職相当でも6.2%です。日本経済団体連合では0.5%、日本商工会議所も0.0%であり、民間団体における女性の割合が極端に低いことがわかります。日本新聞協会や日本民間放送連盟のいずれも女性役員割合が0であり、メディアにおける男女共同参画が進んでいないことが明らかです。
 総括表では過去5年の推移を見ることができますが、多少は増加傾向が見られる分野、5年間でほとんど変わっていない分野、反対に減少している分野も見られます。2020年という目標に向かって、どの分野で進捗状況に課題があるのか、その原因や課題を分析し、ゴールに向かって必要な方策を検討していく必要があります。


 3回にわたって男女共同参画統計についてお話してきました。最初にお話したように、男女共同参画統計は、男女共同参画実現のための問題分野を把握し、その問題点を明示します。その上で、計画・政策の進捗状況評価に利用することが重要です。内閣府男女共同参画局では、国や地方レベルの統計を収集・公表していますが、まだまだ統計データの収集や公表状況は官民ともに十分ではありません。
 ぜひ皆さんも関心のある分野における統計に関する理解を深めるとともに、それぞれがお住まいの地域の統計についても関心を持ってみてください。今年会館では8月に埼玉県嵐山町で開催するNWECフォーラムで、男女共同参画統計に関するワークショップを開催する予定です。関心のある方はぜひお越しください。お待ちしております。

注意イベントは終了しました

用語解説

積極的改善措置(ポジティブ・アクション)
過去に社会的・構造的な差別で 不利益をうけた集団に対して、一定の範囲で特別な機会を提供して機会均等を実現する取組を指します。以前の男女共同参画ゼミも参照ください。

参考 

「男女共同参画統計データブック2012」 (株)ぎょうせい外部リンク

内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」外部リンク

内閣府男女共同参画局「女性の参画状況の見える化」外部リンク

(文責: 国立女性教育会館研究員  渡辺 美穂)