第1回 男女共同参画統計について 連載第1回

1.男女共同参画統計とは?

 「男女共同参画統計」をご存じですか。
 
 定義的に言うと、男女共同参画に関わる課題を「統計によって明示し、
分析し、数値目標を入れた解決策を立案し、政策の進捗度を監視しようと
する新しい統計データ、そして理論と活動分野」のことです。
(『男女共同参画統計データブック 用語解説』)
 現在の日本の社会の中には男女共同参画に関わる課題はたくさんありますが、統計データを活用するとそれが客観的な形で明らかになります。
 例えば「日本では女性の大臣が非常に少ないです」と言えば曖昧ですが、「1月13日に発足した野田改造内閣の閣僚19人中女性は1人、5%です」とすると正確な情報になります。
 そしてこうした統計データを作成することによって、過去のデータとの比較、国際比較、都道府県比較、市町村比較が可能となります。
 
 具体的なデータをご紹介しましょう。
 男女平等を推進することは国際的なトレンドですから世界各国では女性議員が増加しています。
 日本はどうでしょうか。衆議院議員に占める女性の割合を見ると、戦後の一時期を除いて1~2%台で推移していましたが、平成8年に小選挙区比例代表制が導入されて以来増加し、平成21年8月の総選挙では、当選者に占める女性割合が過去最高の11.3%になりました。この数字を多いと考えればいいのでしょうか。それとも少ないと考えればいいのでしょうか。過去に比べると多いといえるかもしれません。しかし、列国議会同盟(International Parliamentary Union)が出している下院国会議員数と女性割合の国際比較のデータを見ると女性割合が11.3%という日本のランキングは何と127位なのです。日本の女性の政治参画が進んでいないという時に、このようなデータを示すと説得力がグッとアップすると思いませんか。
 つまり、男女共同参画統計を利用することによって私たちが暮らしている国、地域といった社会の男女共同参画の状況、実態を把握し相対化して見ることができるのです。
 
 男女共同参画社会の形成を進めるためには実態を把握し、そこから解決すべき課題、差別や格差の是正のための政策を作り、それがどれくらい実施され、成果がどれくらいあったかを明確にしなければなりません。その際、実態や成果を把握するものとして必要不可欠な統計が男女共同参画統計なのです。

2.男女共同参画統計の国際的動向

 さて、この男女共同参画統計ですが日本だけで重視されているわけではありません。世界的にはジェンダー統計(Gender Statistics)といわれ、その充実に力が入れられています。歴史的に見ると、1975年に開催された第1回世界女性会議から統計の重要性は認識され、はじめは女性の困難な状況を明らかにする統計として「女性のための統計」の必要性が指摘されました。そして1995年の北京で開催された「第4回世界女性会議」で出された成果文書「北京行動綱領」に男女共同参画統計の充実の方向性や手段が盛り込まれたことから大きく前進しました。 
 現在、国際的な男女共同参画統計の推進を進めているのは国連統計部で、国連統計部が招集するジェンダー統計に関する機関間・専門家会合です。男女共同参画統計の活性化のために①世界ジェンダー統計計画、②世界ジェンダー統計フォーラム、③ジェンダー統計データベースの構築等の取組が行われています。
 
 また1990年から『世界の女性 傾向と統計』が5年ごとに出版されています。最新の『世界の女性2010』は人口と家族、健康、教育、労働、意思決定、女性への暴力、環境、貧困の8章からなり、第4回世界女性会議以降の15年間にそれぞれの分野においてどのような進展があったかを分析しています。健康など多くの分野において15年間にジェンダー格差が改善されていることが明らかなりました。また、統計データの整備については多くの国で改善が図られているものの、国内の地域別データ、家族内のジェンダー格差に関するデータ、女性に対する暴力のデータなど統計が充分に整備されていない分野があることも指摘されています。

世界の女性 傾向と統計外部リンク

 2012年に入って国連統計部は「ジェンダー統計」のウェブサイトを開設しました。国連統計部のトップページの中程に「ジェンダー統計」があり、「世界ジェンダー統計の新しいウェブサイトは、ジェンダー統計分野資料と情報を配布する場を提供する。それはまた、ジェンダー統計機関間・専門家会合が、その様々な活動分野の情報へアクセスし、共有するフォーラムを提供する」と説明されています。
 さらに、「ジェンダー統計」のサイトに進むと前述の国連統計部の取組や出版物、過去にイベント・今後のイベントに関する情報が得られるようになっています。

国連統計部のトップページ外部リンク

「ジェンダー統計」のサイト外部リンク

3.男女共同参画統計の国内の動向

 次に日本国内の動きを見てみましょう。日本でも1995年の第4回世界女性会議を機に男女共同参画統計に関わる動きが活発化しました。それまでも総理府の『女性の現状と施策』、労働省の『婦人労働の実情』、国立女性教育会館の『統計に見る女性の現状』等が刊行され、統計データが提供されていました。それが男女共同参画統計として充実してくるのが1995以降です。
 1999年に成立、施行された男女共同参画社会基本法の第13条に国と都道府県は男女共同参画社会の形成の促進に関する施策について基本的な計画を定めなければならないと明記されました。そして2000年12月に出された「男女共同参画基本計画」では、施策の方向性と具体的施策の11の重点目標の一つ「男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革」の中に男女共同参画社会の形成に資する統計情報の収集・整備・提供」が盛り込まれました。
 
 最新の「第3次男女共同参画基本計画」(2010年12月)では2020年までを見通した長期的な方向性と、平成2015年度までに実施する具体的な方策が示されました。「男性、子どもにとっての男女共同参画」「貧困など生活上の困難に直面する男女の支援」等新たな分野を含む15の重点分野が設定されています。今回の基本計画の特徴の一つは実効性のあるアクション・プランとするために15分野の合計で82の「成果目標」が掲げられたことです。政府全体で達成を目指す水準である「成果目標」の達成の状況についても定期的に把握し、施策の実施やその効果を数値で確認していくこととされています。また各分野に関連する男女共同参画の状況を把握する上で重要な指標として「参考指標」があげられ、その状況も定期的に把握し公表することとされています。

国立女性教育会館でも2003年から『男女共同参画統計データブック』を3年ごとに刊行し、1992年からデータベースの構築を行い、現在は「女性と男性に関する統計データベース」をウェブサイトで提供するなど男女共同参画統計の充実につとめております。2009年12月からは編集委員会を設置し、『NWEC男女共同参画ニュースレター』を年3回発行し、男女共同参画統計に関わる人、利用者や生産者、NGO・グループの関係者、研究者、行政担当者とのネットワークも作っていきたいと考えているところです。

「女性と男性に関する統計データベース」外部リンク

「NWEC男女共同参画ニュースレター」外部リンク

 都道府県、市町村でもそれぞれの地域の実情に応じた男女共同参画統計のリーフレットやデータブックを作る動きが見られます。欲しいデータがなかなか手に入らないといった悩みも聞きますが試行錯誤の取組が見られます。具体的な事例は『NWEC男女共同参画ニュースレター』に紹介しておりますのでご覧ください。三重県でも平成21年3月に「統計でみる三重の男女共同参画」リーフレットを発行し、今年度末にはデータブックを発行予定です。
 
 このように男女共同参画統計を前進させる動きは世界、日本、そして私たちの身の回りの地域にいたるまで共通するものだといえます。
 今を去ること15年前、1996年末、男女平等が進んでいるスウェーデンの統計局からEngendering Statistics : A Tool for Change という書物が出版されました。「統計にジェンダー視点を入れる:変革のための道具」といった意味でしょうか。まさに男女共同参画統計は男女共同参画社会の実現という変革のための道具であり武器であるといえるのではないでしょうか。
(文責:国立女性教育会館研究国際室長 中野 洋恵)