第3回 これからの女性の働き方とライフプランニング 連載第3回

「男女共同参画ゼミ」第3回目は、女性の働き方とこれからの社会の変化について述べたいと思います。1986年に男女雇用機会均等法(以下「均等法」と略)が施行されてから四半世紀が過ぎ、仕事を取り巻く状況もかなり変わってきました。均等法施行当時は女性の社会進出は「女性の権利の拡大」のひとつとして解釈されていましたが、その後予想以上のスピードで進んだ少子化と長期にわたる厳しい経済環境により、女性の労働の位置づけも「権利」というよりは「必然」となってきたと言えるのです。今回はそのあたりについて考えてみることにしましょう。

「男は仕事、女は家庭」が成り立たなくなってきた!

  戦後の高度経済成長期(1950年代半ばから1970年代 初頭まで)から80年台前半までは、女性の労働は男性の補助とみなされていましたから、結婚や出産で退職するのは当然、その後は家事や育児に専念するのが女性のあるべきライフコースと多くの人が考えていました。そのように考える背景には「男性ひとりの働きで家族全員を養える」という状況があったからです。大企業に勤めていれば手厚い福利厚生や終身雇用のシステムに守られて「一生安泰」、転職などは「リスクが高すぎてとてもできない」と思われていたのがこの時代です。「残業や出張などもいとわず、精力的に働くお父さん、家事や育児に励むお母さんの間に子ども2人」という「標準世帯」という言葉が登場したものちょうどこの時期です。
 1983年の総理府「勤労意識に関する世論調査」によれば、当時の女性の望ましい就業のあり方は結婚・出産退職が38%、子どもが大きくなってから再就職35%、継続就業11%、就職しない10%という結果でした。「子どもが大きくなってから再就職」ではなく、「結婚・出産退職」にもっとも多くの支持が集まっていました。
 一方、内閣府の平成20(2008)年度「男女共同参画白書」で女性の望ましい働き方について「出産で退職し、子どもが大きくなってから再就職」と回答しているのは、女性33.8%、男性33.2%で、これは四半世紀を経てもそれほど大きな変化がありません。しかし、ここで注目したいのは「結婚・出産退職」の回答の減少と、「継続就業」の増加です。具体的には「結婚退職」と回答しているのは女性5.1%、男性5.9%、「出産退職」が女性9.5%、男性12.5%。一方、ずっと「職業を継続した方がいい」と回答している人は女性45.5%、男性40.9%となっています。
 このような回答が得られる背景には、長期化する国内の不況やサブプライムローンの破綻、リーマンショックなど、家計をひとりの稼ぎ手だけで支えることのリスクを実感させる出来事が数多くありました。 「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業はとても現実的ではないということに多くの人が気づきだしたと言えるでしょう。

「1.57ショック」で少子化社会へ突入

  女性が働くことについてのもうひとつの「追い風」となったのは、少子化です。厚生省(当時)がまとめた89年の人口動態統計で、合計特殊出生率(=1人の女性が生涯に産む子どもの数)が過去最低の1.57となったことが発表されました。これがいわゆる「1.57ショック」です。人口統計調査が開始され、合計特殊出生率の算出が始まってからの最低記録は「丙午(ひのえうま)」にあたる1966年で、この年合計特殊出生率は1.58まで下がりましたが、一時的なものですぐに回復しました。ところが1989年の数字はそれをさらに下回り、以後大幅な回復は見られなくなったのです。ちなみに 「ひのえうま」とは「十二支の午年に生まれた女の子は気性が激しく夫を食い殺す」という迷信です。現在の社会ではほとんどだれも信じていないでしょうが、当時は将来の結婚で娘が不利になることを恐れた人も多く、66年の出生率は25%も落ち込んだのです。このような事実をみても、当時の女性の置かれていた状況がわかるのではないかと思います。
 それはともかく、意図的に出生率が下がった66年はいわば「特殊年」と見なされていました。ところが、89年の段階ではそれを下回る合計特殊出生率となったため、事態を深刻に受け止めた厚生省(当時)は「これからの家庭と子育てに関する懇談会」を設置し、90年1月に報告書をまとめました。その内容は「深刻で静かなる危機」と危機感を示し、「企業活動のための家庭生活」から「家庭生活のための企業活動」への転換、子育てに男女両方が関わることができる社会の実現などを求めるものでした。
 出生率低下の原因は、教育や住宅事情などによる経済的・精神的負担、出産・育児と仕事の両立の困難さなど複数の要素が絡み合っているので、理由をひとつには絞ることは困難です。しかし、一番の理由は女性の晩婚化(89年の女性の平均初婚年齢は25.8歳、男性は28.5歳で史上最高)と、非婚化(25~29歳女性の未婚率は85年当時で31%)と見られています、現在ではこれらに加えて、父親が育児に十分参加できない環境なども挙げらています。(下記の図参照)

家事や育児に参加できない男性

ワークライフバランス社会へ

 少子化が社会にどんな影響をもたらすかといえば、ひとつには「将来の労働力が得られなくなる」ということ、さらには「年金の支え手が減少する」ということです。日本の年金システムは基本的には「賦課方式」を取っていますので(正確には一部「積立方式」も取り入れていますが)、保険料率は「年金を受け取る人」と「掛け金を払っている現役の人」の比率によって決まります。つまり、人口の高齢化が進む(=年金を受け取る人が増える)と少ない現役世代が高齢者を支えることになり、保険料が影響を受けます。その結果掛け金の額をあげたり、年金を減額したり、支給時期を遅らせたりする必要がでてくるのです。しかし、そのようなことは人生設計に大きな影響を及ぼしますので、できるだけ避けるべきことです。となれば、解決策はひとつ「働く人を増やして掛け金を納めてくれる人を増やす」。これに尽きるのです。
 そのような状況からそれまで日本の社会が行ってきた「扶養されている女性優遇税制」(具体的には配偶者控除などの税制面での措置)や、サラリーマンの配偶者に扶養されている人(=実態は圧倒的に妻)は、掛け金を払わなくても老齢基礎年金が受給できる国民年金の第三号被保険者制度は根本的な見直しを迫られることになりました。

 このような先行きの見通しが立たない社会に生きる私たちであればこそ「自分の収入を持つ」ことの重要さを自覚すべきでしょう。これは必ずしも「経済的に自立できる収入額」に限定して考える必要はなく、家事や子育ての負担が大きい時期は働く時間や収入が多少減っても構わないのです。そしてさらに言えば、家事や子育てを担当するのは「女性に限定する」必要もありません(たまたま、主に担当するのが女性だということはあるかもしれませんが)」 家庭によっては男性が家事や育児を担当して、現金収入は主に女性が稼ぐというスタイルがあってもいいでしょう。しかし、ここで重要なのは「たとえ、一時的に仕事を離れたり、収入が減少したりすることがあっても、いつでも稼げる自分に戻れる体制は常に整えておく」ということです。

 少し前までの女性と仕事に対する考え方は「女性は結婚出産したらそれに専念すべき」という考え方と「とにかく継続就業が大事。絶対やめたらダメ!」という考え方があり、これらは極端で弾力性に乏しい部分もあったように思います。しかし、今後は自分のライフステージに合わせて、もっとも快適と思える生活スタイルを選ぶことができる社会を目指すべきではないでしょうか。それが真の意味での「ワーク・ライフ・バランス社会」だと私は思います。