第3回 「恋する2人に大切なこと これからのために」 

1.恋する2人の関係

 人を愛すること、好きになることは素晴らしいことです。幸せな気持ち、満ち足りた思いは、お互いを高め合い生きる力やエネルギーにもなります。大切な人を傷つけない、失わないために、恋する2人に大切なことは相互尊重と対等性です。

2人の気持ち~これって「愛」?

「優しいし、面白かった」「私から告白した」・・。そうして交際を始めた2人にデートDVが起こるようになると、2人の気持ちは変化していきます。

ハート1

 交際し始めた頃は、彼といるといつもうれしくて楽しかった。だけどこの頃は彼の言うことを聞いて、顔色をみて、怒らせないように気をつかう。好きだから嫌われたくない。でも私にもやりたいことや好きなファッションがある。最近はできないことばかりで辛くて苦しい・・・。

ハート2

 俺のことを最優先にしてほしい。彼女なんだから、なんでもわかってくれて当然。俺だけの彼女でいてほしいのは、それだけ好きな証拠。だから俺の気に入らないことはやめてほしい。そうしたら、2人はうまくやっていけるんだ。

 好きな相手を自分の思い通りにしようとするのは「愛」ではありません。自分が辛くても、嫌われたくないから、好きな相手の望むことを優先するのは「愛」ではありません。自己中心的な恋愛のカタチに巻き込まれて「愛」を勘違いしてはいけません。

関係のいびつさに気づく・見直す

 「恋愛」至上主義のカップル幻想は社会の中に、若者の中にしみこんでいます。「彼氏(彼女)はいた方がいい」「一人は寂しい」という価値観が強いほど、「関係」に依存したり、相手を暴力的に縛りつけてでも執着する傾向がみられます。そんな2人の間でくり返される暴力と優しさの揺れ動きに「何か変かな?」と思っても、自分がしていること、自分がされていることが「暴力」だと気づくことはなかなか難しいのです。
 2人がお互いの辛さや苦しさに目を向けて、正直な気持ちを話し合い、デートDVだと気づくことができれば、その関係はずいぶん違うものになるでしょう。大切な人を傷つけ失う前に、2人に起こっていることを見直す勇気を持つことが必要です。

2.デートDVをチェック!

 恋人に限らず友人関係も含めて、以下の3点は人間関係を見直す点で重要です。

  1. 「対等な関係でつきあっているか?」 
     対等な関係では、自分の意思「YES」「NO」を安心して言葉にできます。「力で支配する」デートDVは相手の自己決定権や自由を認めず、一方だけが主導権をもつ関係です。「怖がらないで言えるNO」は関係の対等性・自由度を表すバロメーターです。
  2. 「自分の言動に、相手の言動に、暴力的な態度はないか?」
     暴力はさまざまな形で存在します。特に心理的暴力は見えにくく、気づきにくく、こころとからだを深く傷つけます。身近なところから意識していくことが必要です。
  3.  「まわりにデートDVは起こっていないか?」 
     デートDVは渦中にいる2人よりも周りの友人や家族がその異変に気づくことが多いのです。被害者を救い、加害者に気づきを促すのは身近な人のサポートこそが重要です。

3.2人の心地よい関係~これからのために

 関係は育てるもの、作り出すものです。心地よい関係とは、

  1. 「自分らしさを大切にする」=自己尊重・自己決定権・性的自己決定権の尊重
     偏った女らしさ・男らしさの固定観念に縛られない。
     自分らしさを失わない、奪われない関係を持てる相手を見分ける。
  2. 「相手を尊重する」≠他者優先
     自分を犠牲にしないで、自他ともに尊重しあう、相互尊重の関係を築く。
  3. 「コミュニケーションを深める」
     話したいこと、わかってほしい気持ちを言葉にして伝え合う。

自分に必要な時間や距離感を大切にした関係は、お互いの心地良さになるはずです。

4.デートDVをしない・されない・見逃さない

 心身ともに安全に生きることは私たちの権利です。しかし、残念ながら「デートDV」は世界中で起こっている深刻な問題です。加害者にも被害者にもならないために、「こころとからだを守る」セルフディフェンスの姿勢が必要です。暴力を軽く考えず、問題がエスカレートする前にできるだけ早く相談すること、サポートを求めることが自分を守ります。

  • デートDVをされていたら
     一人で解決することは難しい問題です。相手に「NO」を言う、相手から離れる、友人や信頼できるおとなに相談するほか、専門家の力を借りることも必要です。
  • デートDVをしていたら
     暴力はやめられます。自分に問題があることを認める、暴力の責任転嫁をやめて自分の選んだ行動に真摯に向き合う、友人や信頼できるおとなに相談することが必要です。暴力が及ぼす影響や、感情のコントロール、相手を尊重する関係を学ぶことも必要です。
  • デートDVに気づいたら
     暴力を認めないはっきりした態度で、2人に起こっていることがデートDVだと気づくよう、暴力と認められるように支援しましょう。「自分たちの問題」「邪魔しないで」と、感情的に介入を拒否する恋人たちは大勢います。被害者が加害者を擁護することもよくあります。暴力と仲直りを繰り返す恋人たちの行動に振り回されるかもしれません。それがデートDVにはありがちな行動だと理解し、話を聴き、肯定的な態度で支援をしましょう。

5.身近なおとなの役割 保護者、教育現場は

 自分の子どもがデートDVの被害を受けている親は、わが子の身の安全を心配し、何とかしなければ、守ってやらねばと思うことでしょう。交際相手に怒りをぶつけたくなるかもしれません。しかし、責めたり、無理に引き離そうとしたり、心配だからと監視したりすれば、被害を受けている子どもは逆に安全な場所から離れていくかもしれません。力でコントロールしてはいけません。子どもの味方である姿勢を示し、子どもから頼られる存在として、信頼関係を強めることが大切です。デートDVから離れる決定を子ども自身でできるように時間をかけて待つことも必要です。
 高校や大学など教育現場は、デートDVを単なる恋愛のいざこざや問題行動ととらえて生徒指導や処罰で片づけても解決しません。無知な対応は被害者に「二次被害」を与え、さらに暴力がエスカレートしたり、望まない妊娠や退学で大切な将来が奪われることもあります。若い人の多くはおとなに相談しようとしませんが、学校だからこそできることは多いのです。まず2人を孤立させないように見守り相談にのり、健康で安全な関係に気づくよう、根気強い支援が求められます。

6.今後の取り組みと課題

  若い人たちへの正しい知識・情報の提供、教育機会の保障は社会の責任です。それは親や教師にも必要です。自己尊重感の高い人は、暴力を認めず、許さず、自らが加害者にも被害者にも傍観者にもなりません。ジェンダーの偏見や固定観念に縛られない権利意識は男女平等の非暴力社会の基盤となるはずです。
 学習機会の保障は、教育・福祉・男女共同参画などの行政機関が協力・連携してこそ実現が可能となるでしょう。公的施策として取り決め実施されること、DV防止法にデートDVが盛り込まれることが切に望まれます。

参考図書

『デートDVと学校』“あしたがある” 高橋裕子編著(エイデル研究所)
『恋するまえに』デートDVしない・されない10代のためのガイドブック
バリー・レビィ著(アウェアFネットの会)