第2回 「デートDVは身近におきている 現実、その実態」

1.デートDVは、私たちの身近におきている

「交際相手からの暴力」(デートDV)が若者の間におきていることを理解できない人、特別なケースだろうと考える人は、若い人にも大人にもたくさんいます。では、デートDVは現実にどのくらいおきているのでしょう。

内閣府「男女間における暴力に関する調査」から見えること(注1)

 内閣府では「女性に対する暴力」について的確な施策を実施し、社会の問題意識を高めるため、定期的・継続的な実態把握の調査に努めています。
 平成11年度から3年ごとに行われたアンケート調査からは、男女間の暴力の実態とともに、昨今の社会問題の新しい課題を把握することができます。
 平成20年度の全国20歳以上の男女5000人への調査(回収率62.6%)では、10歳代から20歳代のころの交際相手からの暴力被害について、3つの行為をあげて聞いています。

  1. 「なぐったり、けったり、物を投げつけたり、突き飛ばしたりする身体的暴行を受けた」女性7.7%、男性2.9%
  2. 「人格を否定するような暴言や交友関係の監視などの精神的いやがらせ、危害を加えられる恐怖、脅迫をうけた」女性7.8%、男性3.1%
  3. 「いやがっているのに性的な行為を強要された」女性4.8%、男性0.8%

 また、「身体的暴行」「心理的攻撃」「性的強要」のいずれかをされたことが「あった」女性13.6%%(7人に1人)、男性4.3%(20人に1人)と、交際中に暴力があったことがわかります(下図・注2)。中でも「その行為によって、命の危険を感じたことがある」女性は21.9%で、被害女性の5人に1人が深刻で重篤な被害を受けている実態があります。犯罪と背中合わせの危険と恐怖が身近にあるといえます。

図4-2-5 交際相手からの被害経験 -まとめ(男女別)

交際相手からの被害経験図

名古屋市「デートDVに関する調査研究」(名古屋市男女平等参画推進センター)から見えること(注3)

 自治体による調査は神戸市や横浜市など各地で行われています。平成20年度、名古屋市では市内の公・私立高校63校のうち31校の協力を得て、高校生と市内の一部大学生を対象に被害・加害の実態調査を行いました。高校1校につき各学年1クラスの生徒を対象にしたサンプル(4630人)は、現実的な実態を映しだすデータといえるでしょう。筆者も調査研究会の一員として、効果的な予防啓発の方策を研究・検討し、提言をまとめています。
 以下に、報告書の主な項目を抜粋して紹介します。


加害・被害の実態

被害経験
【全体】5人に1人 【女子】4人に1人 【男子】8人に1人
初めての被害時期
高校1年生が最多。約半数が中学2年から高校2年の時期。 
被害内容ランキング
  1. 「自分の予定を優先させないと無視したり不機嫌になる」
  2. 「バカとかグズなど、傷つく呼び方をする」
  3. 「携帯電話の着信履歴やメールをチェックする」
被害の特徴
  1. 「無理やり性的な行為をする、避妊しない」
  2. 「携帯電話を使った束縛と支配」
  3. 「恐怖を感じた女子の割合は男子の4倍強である」

その後の交際

つきあいを続けた
54%
別れた
31%
別れなかった理由ランキング
  1. 「好きだから」
  2. 「大したことではないと思うから」
  3. 「いやなところもあるけど、いいところもあるから」

調査からみえること

 行為の内容によるダメージの違いはありますが、「5人に1人が被害を受けている」実情は、10代の子どもたちに共通する問題としてとらえることができます。調査の分析から、性別役割意識、男女平等指向、暴力への感度、暴力への許容度についての相関関係をみると、男女平等指向が強い者ほど非暴力意識の高さが見られ、加害経験がありません。逆に男女平等志向が弱い者ほど加害経験が多くあるという結果は、問題解決に向けて必要な課題を示しています。

2.なぜ!好きあっている2人の間で暴力がおきるの?

恋愛という「2人の世界」では、相手が求めることに不満があっても、多少納得がいかなくても、「好きだから」「特別な関係だから」と要求し、それが当然のことになっていきがちです。そんな2人の間でおきる暴力の要因を、3つあげることができます。

  1. 暴力を軽く考えている
    「好きな相手には少しくらいのことは許される」「大目に見てほしい」という考え、「ふざけただけ」「甘えてるだけ」という考え
  2. 「束縛」や「嫉妬」を「愛情」とはきちがえている
  3. 社会やメディアにある「男らしさ」「女らしさ」を相手にのぞんでいる

 2人のどちらかが主張する側で、もう一方が従う側になると、支配-被支配関係が固定化していきます。「お前のせいだ」「なんで怒らせるんだ」「怒らせる相手が悪い」・・・暴力をふるう人は、自分の言動に責任をとろうとしないで責任転嫁します。暴力を愛情で正当化するので、被害者が罪悪感をもたされ、同じことが繰り返されるのです。

3.社会にある暴力容認の背景「男だから?女だから?」

 デートDVは、男女ともに加害・被害がありますが、DV同様、深刻な被害を受けているのは残念ながら圧倒的に女性たちです。なぜでしょう?
 一般的に「暴力はいけない」と言われつつ、現実は勧善懲悪という形の暴力容認、子どもへのしつけや体罰も愛情や教育的指導を名目に容認されています。そんな社会の土壌に存在する男女への「期待される男性像・女性像」は、カップル間の固定化した性別役割意識や特権意識を生んでいきます。男女の暴力的な支配関係を生みだす社会構造や背景に深く根ざしているといえるでしょう。
 私たちは、自分自身のジェンダーを含む人権意識や差別意識、偏見がないかという検証を通して、無意識にもっているかもしれない自分の加害性に敏感になる必要があります。1人でも多くの人が加害者や被害者にならないことはもちろん、「暴力」に対する感度を高め、すべての暴力を容認しない意識をもつことが非暴力社会実現につながると考えます。

参考図書

『恋するまえに』デートDVしない・されない10代のためのガイドブック バリー・レビイ著(アウェアFネット支援の会)

「フレンテみえ」情報コーナーにも関連図書、ビデオ等があります。ぜひご利用ください。