第1回 「デートDVってなに?」

1.「デートDV」を知っていますか?

 2001年のDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法(注1)施行以降、配偶者・元配偶者間でおきている暴力の事件や実態が次々と明らかになってきました。今や、DVは重大な社会問題として認知され、対応・支援される問題となりました。しかし、DVは大人だけの問題ではありません。DVが注目されるプロセスで新たにクローズアップされてきたのが「デートDV」です。デートDVとは、中学生・高校生を含む10代、20代の若年層の間で起きている「恋人、交際相手による心とからだへの暴力」です。今、わたしたちの身近に、若者の間で、深刻な被害を伴うデートDVの現実があるのです。

2.恋する前に知ってほしいこと

 2006年から「デートDV防止教育」に取り組んできた筆者は、当初いくつかの学校で講演前の事前アンケートを実施し、「高校生の男女交際に対する意識」を調べてみました。どの学校でも概ね共通した回答傾向がみられ、男女差を含む平均的な意識として参考となりました。
 ここでは、名古屋市内のA高校1年生450人(男女共学/2007年実施)の回答の一部をご紹介します。

【問1】「好きな人に暴力をふるう人なんて、めったにいない」と思いますか?

【問1】「好きな人に暴力をふるう人なんて、めったにいない」と思いますか?

 この質問では、男子は「そう思う」57%、「ややそう思う」23%と、8割が「好きな人に暴力をふるう人なんて、めったにいない」と考えていることが強く表れています。それに対して女子は「そう思う」が40%と大きく下がります。「そう思わない」28%は、「好きな人からの暴力はある」とみており、現実の被害や身近な見聞が想定されます。実はこの男女の意識差が、加害行為を軽く見る意識や被害の背景に結びつくといえるのです。 

【問3】「望んでいないのに、セックスしてしまう人なんていない」と思いますか?

「望んでいないのに、セックスしてしまう人なんていない」と思いますか?

 性に対する正しい知識は彼らにとって非常に重要です。ここでは男子の65%が「望んでいなければ、セックスするわけない」と思っていることがわかります。しかし、女子は対照的に53%が「そう思わない」と回答しています。実際には「まだ心の準備ができていないけど、応じてしまった」女子は多いのです。その理由のベスト3は①「相手の機嫌が悪くなるので断れない」②「いやだと言って嫌われたくない」③「いやだと言ったのに聞いてくれなかった」。つまり「仕方なく応じた」結果といえるのです。

3.恋する2人~「束縛」は「愛」のカタチ?

 お互いを信頼し尊重しあう交際ではデートDVは起こりません。デートDVでは、交際前は「楽しい、面白い、優しい」と思っていた相手が、友だちから恋人(彼氏と彼女)の関係になると、「好きだから」という理由で「束縛」を強めるパターンが多く見られます。さらに性的な関係をもつと、「相手は自分のものだ」という気持ちが一層強くなり、それまではなかった支配的な言動をエスカレートさせるケースがほとんどです。
 「自分だけを見ていてほしい」「携帯やメールはすぐに返信させる」「他の異性との連絡はダメ」「友だちより、家族より、他の誰よりも自分を優先させる」「いつも一緒にいたい」「好きだから一人占めしたい」「好きな相手の言うことは聞くもの」「いつ、どこで、何をするか事前に許可を得させる、すべて報告させる」・・・
 こんなふうに交際相手を束縛したり、されることに「愛情の証」という理由があると違和感を持ちにくくなるのが実情です。それも2人にとってはロマンチックでドラマチックなラブの世界に映るのです。たとえ暴力があっても、それすら「好きだからこそ」となるとさらに危険です。「暴力はイヤだけど、いいところもある」「それでも好き」と相手を擁護したり、双方が暴力を否定したり、問題の深刻さに気づかない場合も多くあります。

4.デートDVに気づく~「暴力」という「支配」のカタチ

 好きな人を独占したいからと、自己中心的に自分の価値観を押しつけたり、束縛したり、行動を制限して相手を思い通りにするのは、「愛」ではなく「力で支配する関係」です。それは暴力であり、独善的なひとりよがりといえます。
 デートDVは支配の方法として、さまざまな「暴力」を使います。暴力はからだにふるわれるものだけではありません。

  1. 身体的暴力/なぐる、ける、首をしめる、おさえつける、ひきずるなど
  2. 心理的暴力/バカにする、どなる、にらむ、無視する、否定・批判するなど
  3. 性的暴力/無理に性行為をする、応じないと不機嫌になる、避妊しないなど
  4. 経済的暴力/お金をとりあげる・返さない、バイトさせるorさせないなど
  5. 社会的暴力/行動を制限する・報告させる、監視、ケータイチェックなど

 デートDVをしている人は、自分の大切な人を傷つけ、苦しめ、失うかもしれないことになかなか気づけません。

 デートDVをされている人は、以下の3つの状況に陥るといえます。

  1. 恐怖感をもつ/怖くて気を使う、顔色をみるようになる、自分のことが決められない
  2. 無力感に陥る/自分が悪いと思う、はずかしい、誰にもわかってもらえないと思う
  3. 孤立する/安心して人と関われない、自由がない、2人の世界から抜け出せない

 その結果、自分の意思決定や選択ができず、心身にさまざまな影響が出ることもあります。不眠、食欲不振、集中力の低下、対人不安、うつ病などはその一例です。
 暴力は、人が持っている「心の力」(自尊感、自信)やエネルギーを奪います。デートDVは、大切な人を傷つける「力と支配の関係」なのです。

用語解説
(注1)DV防止法:平成13年4月制定「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法))」

参考資料

『恋するまえに』デートDVしない・されない10代のためのガイドブック
バリー・レビイ著(アウェアFネット支援の会)

フレンテみえ情報コーナーにも関連図書、ビデオ等があります。ぜひご利用ください。