第3回 「実効性のある取組の進め方とダイバーシティへのパラダイムシフト」

1.どうしたら経営効果に結びつけられるのか

 経営トップが経営戦略としてとらえて本気で取組んでいるかどうかが成否を分けます。人事部門など一部の担当者だけで推進しようとしても、すでに根付いている企業風土や慣習は容易には変わりません。しかし、経営トップが取組意思を示し、その必要性を役員、管理職、従業員、株主、顧客などあらゆる関係者に訴えれば、徐々に理解されていくはずで、たとえ困難や課題に直面することがあっても、トライアンドエラーを繰り返しながら、成果を実現するまで本格的・継続的に取組むことが可能になります。

 取組を進めていく過程では、「期待する女性が負担に感じている」、「結婚して辞めてしまった」などの問題が生じることもあるでしょう。そのようなときには、そこに至った背景や原因を探り、根気強く解決策を検討、実践していくことが大切です。

2.実効性のある取組の進め方

 企業の置かれている状況や考え方、組織風土等も異なるため、取組方法の画一化はできません。自社の置かれている状況を客観視したうえで、自社なりの「女性活躍の方法」を見出していくことが重要です。

 標準的な推進プロセスとしては、まず社内の推進体制を整備することです。経営トップが自ら指揮することもあれば、人事部内に担当部門を設置する、女性社員や事業部門の社員などを含めた横断的なプロジェクトチームを設置するなど、さまざまな体制の作り方があります。自社にとってどのような体制で進めていくことが、最も従業員の納得性が高いか、そして現場に浸透しやすいか、を考えて推進体制を構築することが鍵となります。

推進体制を構築した後は、
ステップ1「現状分析・課題発見」
ステップ2「具体的取組計画の作成」
ステップ3「具体的取組の実施」
ステップ4「成果の点検と見直し」
のPDCAサイクルを繰り返して、取組を進歩させていきます。


 自社の現状分析や取組計画の策定・改定を行う際は、(財)21世紀職業財団(2009)「ポジティブ・アクション推進マニュアル」(※1)や同(2012)「中堅中小企業の経営者のための女性社員の戦力化 ポジティブ・アクション実践的導入マニュアル」 (※2)などが参考になります。 また、企業における取組事例は、厚生労働省「ポジティブ・アクション応援サイト」に多数掲載されています。三重県『「男女がいきいきと働いている企業」表彰・認証制度』の表彰・認定企業の取組の中にも参考になるものがあるでしょう。


(※1)厚生労働省「ポジティブ・アクション応援サイト」に掲載(※2)当該マニュアルをはじめ、厚生労働省のポジティブ・アクションに関するマニュアル等は、以下に掲載されている。

厚生労働省「ポジティブ・アクション応援サイト」に掲載外部リンク

3.国や自治体の政策としての方向性

「第三次男女共同参画基本計画」(2010年12月17日閣議決定)で、少子高齢化による労働力人口の減少、グローバル化や消費者ニーズの多様化への対応のためには、女性をはじめとする多様な人材を活用することが、我が国の経済社会の活性化にとって必要不可欠との認識が示されています。同計画では、雇用分野における具体的な成果目標として、「民間企業の課長相当職以上に占める女性の割合10%程度(2015年)」、「ポジティブ・アクション取組企業数の割合40%超(2014年)」など11項目について、具体的な数値目標を掲げており、現在はその達成に向けた個別施策を講じる段階に移ってきています。

 また、政府内に設置された「女性の活躍による経済活性化を推進する関係閣僚会議」は平成24年6月22日、『「女性の活躍促進による経済活性化」行動計画~働く「なでしこ」大作戦~』を策定し、「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)のなかでも重点施策として位置づけられました。前出計画は(1)平成24年末までの女性の活躍状況「見える化」総合プランの策定・推進、(2)経営戦略の視点からの取組推進のため、表彰制度の創設、企業・家計・社会へのメリットの数値化、(3)各府省の公共調達を通じた女性活躍推進について立法措置を含めた検討など、非常に踏み込んだ内容となっています。そして、既に各施策の具体的内容を検討するためのワーキンググループが設置されるなど、急ピッチでの検討が進められています。


4.多様性を活かすダイバーシティ経営へのパラダイムシフト

 3回にわたり「ポジティブ・アクション」の重要性を示してきましたが、時代は女性に限定せず、外国人、高齢者、障がい者等、多様な人材を活かして経営効果に結び付ける「ダイバーシティ経営」が求められるように変化しています。

 背景には、少子高齢化が進む中、従来のように日本人男性一辺倒では必要な労働力の確保さえも困難になり、人材確保・活用の観点からも多様な人材の活躍促進の重要性が増していること、さらには経済のグローバル化の進展や国内市場の拡大余地の限界、多品種少量生産でさまざまなニーズに応えていく必要性が高まる中、多様な人材が活躍できるようにすることで、柔軟な発想を生み出し、企業のイノベーション力、経営パフォーマンス、従業員のモティベーション向上等、企業の競争力向上につなげていく必要があるということがあります。つまり、「ダイバーシティ」は、企業規模や業種、事業構造等にかかわらず、あらゆる企業にとって極めて重要な課題であり、経営戦略なのです。

 「ポジティブ・アクション」を「ダイバーシティ」推進のための一方策として捉え、経営戦略の一環として取組むようになれば、経営成果の実現可能性も高まります。このように考えれば、「ポジティブ・アクション」も「ダイバーシティ」も、女性のためではなく、企業全体のためであることを理解いただけるのではないでしょうか。

 とはいえ、一気に外国人や高齢者、障がい者まで対象を広げることは難しく、女性以上に取組の難易度は高くなります。まずは最も取組みやすい女性活躍推進「ポジティブ・アクション」に取組んで企業競争力の向上を目指しませんか。今までは気づいていなかった、女性をはじめとするすべての従業員の方々の潜在能力が発揮されて、皆さんの会社が新しい一歩を踏み出すきっかけとなることを期待しています。