第2回 「企業における取組状況と経営的視点からみた効果」
1.「ポジティブ・アクション」の取組はどのくらい進んでいるのか
「ポジティブ・アクション」に取組んでいる企業は全体では25.8%であり、従業員規模別では、規模が大きいほど取組がなされているようです。しかし、前回お示しした女性管理職比率のデータでは、中小企業の方が女性管理職比率が高い傾向もみられますので、この結果だけをみて、中小企業は取組が遅れているとは言い切れません。
むしろ、中小企業は「ポジティブ・アクション」を意識せずに、従業員一人ひとりにどのようにして活躍してもらうかという視点から、大企業には真似しにくい、個人の事情に応じた細やかな配慮をして、女性を含めたあらゆる従業員が活躍しやすい環境を整えている可能性もあります。
図表:従業員規模別ポジティブ・アクション取組状況

(注)岩手県、宮城県、福島県除く。
(資料)厚生労働省「平成23年度雇用均等基本調査」
2.なぜ「ポジティブ・アクション」が進まないのか
「ポジティブ・アクション」に積極的な企業とそうではない企業の違いはどこにあるのでしょうか。厚生労働省「平成23年度雇用均等基本調査」をみると、「ポジティブ・アクション」に取組んでいる又は今後取組もうとしている企業は、経営の効率化、競争力強化、優秀な人材の確保など、企業の経営パフォーマンスに影響するものと捉えていることがわかります。一方で、取組予定がない企業は業績に直結しないと考えている企業が多いのです。
つまり、「ポジティブ・アクション」が企業の利益や競争力に直結する取組、すなわち経営戦略という理解がなく、福利厚生や義務的な観点からしか取組まれていないために今まで実効性のある「ポジティブ・アクション」が推進されなかったのです。
図表:ポジティブ・アクションを推進することが必要な理由・取組まない理由

(注)岩手県、宮城県、福島県除く。
(資料)厚生労働省「平成23年度雇用均等基本調査」
3.経営パフォーマンスに与える効果
「ポジティブ・アクション」が経営効果を生み出しうるものであるのかを懐疑的に見る方もいるかもしれません。しかし、当社が厚生労働省委託事業の一環で実施した調査では、女性管理職比率が過去5年間に増加した企業ほど経常利益が増加する傾向がみられており、女性活躍推進への取組と企業業績に相関関係があることがわかっています。このほか、女性役員が1人以上いる企業は、ガバナンス強化等により破綻確率を20%低減できる(※1)、米国の「フォーチュン500」を対象にした調査では女性役員比率が高い企業の方が収益性が高い(※2)など、女性の活躍推進と企業業績の関係性を分析した研究成果が複数あります。
定量的な効果だけではありません。当社が経済産業省委託事業として実施した調査(※3)では、女性活躍推進の経営効果について、(1)プロダクトイノベーション、(2)プロセスイノベーション、(3)外的評価の向上、(4)職場内の効果、(5)企業の社会的責任(CSR)に関連する外的評価の向上の5つに類型化して分析し、組織変革や競争優位性の構築、経営効果を創出しうるものであることを明らかにしました。「ポジティブ・アクション」は、実に様々な経営効果を生み出す可能性があるのです。同調査の報告書では、中小企業を含めた個別企業における取組を事例として取りまとめ、経営効果を生み出すためのプロセスを分析していますので、参考にしてください。
(※1)20-first,“ Women on the Board Not Only Aid Bottom Line But Thwart Bankruptcy”
(※2)Catalyst(2007), “The Bottom Line: Corporate Performance and Woman’s Representation on Boards”
(※3)企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会(2012)「平成23年度企業におけるダイバーシティ推進の経営効果等に関する調査研究 ダイバーシティと女性活躍の推進 ~グロ-バル化時代の人材戦略~」(経済産業省委託事業、みずほ情報総研株式会社が事務局として実施)。報告書は、(財)経済産業調査会より出版されている。
図表:ポジティブ・アクションの取組と企業業績の関係性

(資料)「ポジティブ・アクション(女性活躍推進)とセクシュアルハラスメント防止に関するアンケート調査」(みずほ情報総研株式会社、平成22年6月)
図表:経営効果の類型化
経営効果の類型 | 考え方、例 |
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a)プロダクトイノベーション |
対価を得る対象物(製品・サービス)自体を新たに開発、またはそれに改良を加えるもの。
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b)プロセスイノベーション | 製品・サービスを開発・製造・販売するための手段を新たに開発、 またはそれに改良を加えるもの。 管理部門の業務効率化を含む。 〔例〕
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c)外的評価の向上 | 顧客満足度の向上 〔例〕
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d)職場内の効果 | 従業員のモティベーションやコミットメントの向上といった心理的成果(それらの結果としての勤続年数の伸長、 職場生産性の向上等) 〔例〕
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e)企業の社会的責任(CSR) に関連する外的評価の向上 | 女性の採用・登用が進むことで、CSRの観点から外的評価が向上するもの。 〔例〕
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(資料)企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会(2012)「平成23年度企業におけるダイバーシティ推進の経営効果等に関する調査研究 ダイバーシティと女性活躍の推進 ~グロ-バル化時代の人材戦略~」(経済産業省委託事業、みずほ情報総研株式会社が事務局として実施)
最終回は、実効力のある取組方策や政策的展望について説明します。