第2回 「学んで活かそう女子(女性)差別撤廃条約」

1.女性差別撤廃条約の特徴

 国連憲章は、前文で男女同権を確認し、性差別のない人権および基本的人権の実現を国際協力の目的としました。1946年には、女性の地位委員会を設置し、ここを中心に、女性の政治的権利に関する条約、既婚女性の国籍に関する条約、婚姻の同意・最低年齢・登録に関する条約、女性差別撤廃宣言を起草しました。いわば、これらの集大成が、女性差別撤廃条約(以下、「条約」)です。

 条約は、「国連女性の10年」の追い風の中で、1979年12月18日、第34回国連総会で、1国の反対もなく採択されました。条約は、現在187の締約国を擁する世界女性の権利章典です。

 条約は、「あらゆる形態の差別の撤廃」を目指しています。「あらゆる形態の」の中には、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野の差別も含みますし、その人の婚姻の有無も問いません。一見差別を目的にするものでなくても、結果的に差別となる効果があれば、それも含みます。法律上の差別ばかりでなく事実上の差別も含みます。ということは、公の立場の人による差別ばかりでなく、家庭や学校や職場や地域における慣習・慣行による差別も条約による撤廃の対象です。

 どの国も、まだまだ不平等社会ですから、この事実上の平等を促すために、締約国は、暫定的特別措置をとることを求められています。これは、暫定的ではありますが、差別されている側を優先処遇していいという仕組みです。それをポジティブ・アクションといい、そのもっとも強力なやり方が「クオータ(割当て)制」です。

2.女性差別撤廃条約締約国の義務と日本

 条約の実施をモニターする女性差別撤廃委員会(以下、「CEDAW」)は、今年設立30周年を迎えています。CEDAWは、2010年に、締約国の義務に関する勧告を採択しました。それは4つの義務からなっています。

 第1は、尊重義務です。締約国は、女性を直接・間接に差別する法制度を策定したり、条約に反するあらゆる慣行、政策あるいは措置を実施したり、放置してはなりません。日本の場合、婚姻の権利の平等を妨げている民法の改正、女性の生き方の選択に影響を及ぼす税制・年金制度の改正、公人の差別発言を放置している行政の在り方、堕胎罪の刑法からの削除等が、この分野での課題です。

 第2は、保護義務です。締約国は、家庭や地域社会における企業、団体、個人による差別から女性を保護し、固定的な性別役割分担を永続させるような慣習・慣行を撤廃するための措置をとらなければなりません。日本の場合、大峰山などの女人禁制、冠婚葬祭における男尊女卑的慣習、96%もの夫婦が夫の姓を名乗っている状況、父親の育児休暇取得率が1.38%に過ぎない状況、第1子出産後の女性の継続就業率が38%に過ぎない状況、女性の収入が男性の69%に過ぎない男女間賃金格差、女性労働者の非正規割合が53.8%にも上る状況、自治会長に占める女性の割合が4.1%に過ぎないこと等が、ここで問題となります。

 第3は、促進義務です。締約国は、条約に基づく締約国の義務に関する広範な知識を国民に普及することを求められています。日本の場合、条約が教育課程に十分位置づけられておらず、そもそも女性差別撤廃条約の周知度が35%程度なのを改善する必要があります。

 第4は、充足義務です。ここで締約国は、暫定的特別措置の採用を含め、女性と男性の法上および事実上の平等な権利の享受を確保するために、多様な措置をとることを要請されています。日本は、2009年のCEDAWからの国別勧告で、とくに暫定的特別措置をとることを求められており、“202030”は、まさに第4の義務を達成する目標なのです。

3.条約実施を支える仕組み

2009年7月CEDAWにおける日本レポート審議風景
2009年7月CEDAWにおける日本レポート審議風景

 条約の実施は、国家報告制度という仕組みで支えられています。まず、締約国は、少なくとも4年ごとに国連に実施状況のレポートを提出しなければなりません。CEDAWでは、政府代表を招き、「建設的対話」を通じて、レポートの審議をし、その結果を「総括所見」(「最終見解」)として国別に公表します。それが締約国が次の4年間に取り組まなければならない課題となるのです。

 条約を実施する義務を負っているのは、締約国政府です。その政府が、提出するレポートでは、問題点を十分に尽くすことは、不可能です。そこで、CEDAWは、NGOからのアプローチを歓迎します。このゼミの第1回目に、「男女共同参画はNGOが拓く」でお話した国際女性の地位協会や日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)の活動は、そのためのものです。NGOは、独自のレポートをCEDAWに送ったり、CEDAWメンバーへのロビイングをしたり、日本レポートの審議を傍聴したり、さらには、「総括所見」の実施をモニターしたりしています。これが、政府を動かすことにつながります。その意味では、人権条約を生かすも殺すも、NGO次第というところがあります。

 実は、もう1つもっと直接的な条約実施の手段に、個人通報制度があります。条約上の権利を侵害された人が、国内的な手続きでは権利の救済を受けられなかった場合、直接、CEDAWに申し立てることができるという制度です。この制度は、1999年に選択議定書という形式で国連総会で採択され、すでに104か国がその締約国になっています。日本がこの選択議定書を、一日も早く批准することを願っています。