第3回 「女性差別撤廃委員会のフォローアップ勧告と“202030”」

1.暫定的特別措置:女子(女性)差別撤廃条約第4条1項の意義

 いよいよ参画ゼミも第3回、締めくくりの回になりました。今回は、このゼミの中心テーマである「女子(女性)差別撤廃条約から“202030”への展開」をお話しします。

 条約は、第4条1項で、「締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない」と述べています。また、条約の実施をモニターする女性差別撤廃委員会(以下、「CEDAW」)の第4条1項に関する一般勧告第25号(2004年)をまとめると次のようになります。

  • 男性の権力や生活スタイルに関する伝統的な考え方こそが、女性に対する差別や不平等の根本原因です。このように歴史的に形成された枠組に効果的に対処しない限り、女性の地位を改善することはできません。そこで、改善のための手段として、暫定的特別措置が必要なのです。
  • あるいは、特別措置の対象とされた集団や個人の資格と実力の問題が議論になるかも知れません。しかし、特別措置というものは、事実上の平等、実質的な平等の達成を目的としており、民主主義的公平をはかるには、資格と実力以外の要素も考慮されなければならないのです。
  • 締約国は、暫定的特別措置を、憲法または法律に規定すべきです。
  • この措置は、公的雇用と教育部門を対象とするため、国・地域・地方自治体の法令・通達・行政指導にも基づくことが必要です。
  • CEDAWは、締約国からのレポートの審査に当たって、暫定的特別措置に関する行動計画が、その国の問題の解決にもっとも適切になっているかどうかを評価します。
  • この措置の適用の際には、平等な参画へのアクセスが促進されているか、権力と財源の再配分が促進されているかが、常に念頭に置かれなければなりません。

2.CEDAWから日本への勧告:暫定的特別措置の導入

 日本は、1985年に女性差別撤廃条約の締約国になり、これまでに6回、実施状況に関するレポートを国連に提出しました。CEDAWにおける直近のレポート審議が、2009年7月に行われ、翌8月にはCEDAWから日本への「総括所見」(「最終見解」)が明らかにされました。その第18パラグラフが、上記の暫定的特別措置の導入だったのです。

 第18パラグラフは、「CEDAWは、本条約第4条第1項およびCEDAWの一般勧告第25号にしたがって、学界の女性の参加を含め、女性の雇用および政治的・公的活動への女性の参加に関する分野に重点を置き、かつあらゆるレベルでの意思決定の地位への女性の参加を引き上げるための数値目標とスケジュールをもった暫定的特別措置を採用するよう、締約国に要請する」としています。さらに、このパラグラフは、「フォローアップ項目」に指定され、日本政府は、第18パラグラフについての措置をとり、2年以内に、再度CEDAWに報告しなければならないことになりました。

2010年8月28日国立女性教育会館での ワークショップ「女性差別撤廃委員と語る日本の課題」の様子 

壇上、中央シモノヴィッチ委員、右端筆者

壇上 中央:シモノヴィッチ委員、右端:筆者

熱心な超満員のフロアー

熱心な超満員のフロアー

 そこで、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)は、CEDAWのフォローアップ特別報告者・ドゥブラヴカ・シモノヴィッチさんをクロアチアからお招きし、2010年の熱い夏を過ごしました。シモノヴィッチさんは、全国5か所での講演、男女共同参画担当大臣・外務政務官・法務事務次官など要職にある方たちとの面談、そしてNGOとの交流を精力的にこなされました。

 シモノヴィッチさんは、日本で、特に職場や政治的・公的活動に関して、ジェンダー平等を促進するための暫定的特別措置がまったくとられていないことに懸念を表明され、制定過程にあった第3次男女共同参画基本計画にそれが盛り込まれることに期待を示されました。「重要なことは、実効性のある暫定的特別措置であること、そして、その成果が、日本の女性たちの毎日の生活に反映されることです」と断言されたのが、印象的でした。

3.CEDAWの勧告から“202030”へ

 “202030(ニイマルニイマルサンジュウ)”は、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」とした政策目標です。これは、2003年に男女共同参画推進本部で決定され、2005年の第2次男女共同参画基本計画に取り入れられました。さらにそれは、2011年の第3次男女共同参画基本計画(以下、「第3次基本計画」)で、「今後取り組むべき喫緊の課題」と位置づけられました。これには、CEDAWの総括所見第18パラグラフの影響が顕著です。

 第3次基本計画は、15の重点分野それぞれに数値化した82項目の「成果目標」を掲げ、“202030”を推進するため、多様なポジティブ・アクション(暫定的特別措置)を、政治・司法・経済分野を含めて、積極的に推進することにしました。

 2011年8月、日本は、第3次基本計画の成果目標とポジティブ・アクションの推進計画を「総括所見第28パラグラフのフォローアップ」としてCEDAWに報告しました。それは、同年11月、CEDAWから満足をもって評価され、2014年までに、成果目標の達成結果を報告するよう要請されました。あとは、実行あるのみです。

 2012年2月には、男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会報告書で、「政治分野、行政分野、雇用分野及び科学技術・学術分野におけるポジティブ・アクションの推進方策」が示され、同年6月には、「女性の活躍による経済活性化を推進する関係閣僚会議」が、「『女性の活躍促進による経済活性化』行動計画(案)~働く『なでしこ』大作戦」を発表しました。

 さぁ、準備は整いました。私たちひとりひとりが、地域で、身の回りで、こうした文書を活用して、“202030”の実現に向けて一歩を踏み出そうではありませんか。そんなとき、女子(女性)差別撤廃条約は、いつもあなたの支えになります。