第3回 「両立支援制度の活用と定着を進めよう」

 第1回、第2回と育児・介護休業法の改正ポイントについてみてきましたが、ここで育児・介護休業法のそもそもの目的に立ち戻ってみましょう。
 育児・介護休業法には、仕事と育児・介護とを両立させるための様々な制度が規定されています。これらの制度は「育児・介護をしながら働き続ける」ことを支援するものです。すなわち、育児・介護休業法は、育児や介護など、働き続ける上で障害といわれる事由が生じた場合にも働き続けることができるよう、各種両立支援制度を法的権利として保障したものです。

女性が働くこと

 それでは「働き続ける」ことへのニーズはどうでしょう。三重県の実施した調査から、「女性の職業への関わり方」に関する意識を全国と比較してみてみましょう。
 三重県では、「結婚や子育て等で一時的に仕事を辞め、子育て時期が過ぎたら再び職業を持つ」という考えを持つ人が58.7%で最も多く、全国平均の31.3%に比べて倍近い割合となっています。一方、「子どもができても職業を持ち続ける」は19.6%に過ぎず、全国の45.9%の半数にも満たない数値となっています。

女性の職業への関わり方

 このことから、三重県では、女性の育児休業のニーズは全国に比べ低く、子どもが生まれた場合、女性は子育て中心の生活、男性は子育てを妻に任せて仕事に邁進、という構図が浮かび上がってきます。
 しかしながら、いわゆるリーマンショック以降、こうした意識に変化の兆しが見えてきています。三重労働局雇用均等室に寄せられる働く女性からの相談でも、最近は、「妊娠を会社に告げたところ、退職を求められたが、産休、育休を取得して働き続けたい」といった類のものが増えています。厳しい雇用情勢の中で、一旦仕事を辞めてしまうとなかなか次の就職先が見つからない、夫の収入だけに頼ることは不安、などの事情がうかがわれます。

今後求められる働き方

 働き方や生き方は、個々人や各家庭がそれぞれの事情を踏まえて選択していくものですので、「これが正解」というものはありません。
 そうはいっても、その時代の社会情勢や経済情勢など、個人の力だけではいかんともしがたい要素によっても大きく左右されるものと思われます。
 我が国は今後ますます少子・高齢化が進行します。第1回で記述したとおり、2055年には65歳以上層が全人口の4割を超えるようになり、生産年齢人口1.3人で1人の高齢者層を支える時代が到来します。そうした時代では、男性だけでなく、女性も高齢者も働ける人が働ける範囲で働くとともに、育児・介護等家族としての責任も男女双方で担っていくことが必要となると思われます。
 一方、企業の側もグローバル化の波の中で、世界市場を相手により厳しい企業経営が求められるようになっており、1人の社員を一定水準以上の賃金を保障して一生涯雇い続けることは困難になると思われます。となれば、働く側としては、得られる収入はさほど多くなく、また、雇用そのものも盤石ではないことを前提とした生活設計が必要となってくるといえるでしょう。
 かつての高度経済成長の時代における一般的家庭像=「父親が一家の大黒柱として外で働き一家を養える程度の収入を得、母親は家事や子育て、高齢者の世話を一手に担う」を今後も維持していくことは可能なのか、それが家庭の構成員1人1人にとって、あるいは家族全体にとって、最も幸福な家庭の形なのか、立ち止まって考え直してみる必要があるのではないでしょうか。
 特に、これから家庭を築いていく若い世代は、前代未聞の少子・高齢社会を切り抜けていかねばならないわけですから、親世代の働き方はお手本にはなりえないことを心する必要があるでしょう。

両立支援に向けた企業の取組

 育児・介護休業法が改正されたからといって、個々人の働き方が急に変わるわけではありません。法に規定された制度が利用され、周囲の同僚、上司がそれを受け入れていくことによって、ようやく社会に定着していくものです。
 特に、父親の育児休業は、本人はもちろん、周囲の人々にとってもまだまだ抵抗感があると思われます。しかしながら、父親の育児参加や育児休業は父親本人、妻、子だけでなく、企業にとっても様々なメリットがあると言われています。
 実際に両立支援の取組を進めている企業では、優秀な人材の確保や定着、社員のモチベーションアップや企業のイメージアップ、効率的業務遂行やチームワークの向上、さらには超勤縮減、社員の心身の健康保持等がプラス面として認識されています。
 話が少し横道にそれますが、平成14年から5年の間に家族の介護等のために離・転職した労働者は約50万人おり、その6割は企業において中堅もしくはベテランといわれる4,50歳代でした。しかも男性が17.4%を占めています。今後は、仕事と介護の両立が企業にとって大きな問題となることが予想されますが、今のうちに男性社員の育児休業を経験して、企業として「男性社員が家族のために一定期間仕事を休む」ということに対するノウハウを蓄えておくことも、長い目で見たメリットといえるかもしれません。
 仕事と育児・介護等との両立支援やワーク・ライフ・バランスに関する情報、企業の取組等については、厚生労働省や内閣府のホームページの他、両立支援のひろば((財)21世紀職業財団)、父親のWLB(ワーク・ライフ・バランス)応援サイト、イクメンプロジェクトサイト(いずれも厚生労働省委託事業)など、各種サイトで紹介されていますので、是非のぞいてみてください。
 ここでは、三重労働局管内の企業の取組の一部をご紹介します。
 厚生労働省では、平成11年以降、仕事と育児・介護との両立支援に積極的に取り組んでいる企業を「ファミリー・フレンドリー企業」として表彰していますが、三重労働局ではこれまでに5社を表彰しています。
 また、次世代育成支援対策推進法に基づく認定制度というものがあり、男性の育児休業取得促進を含め、次世代育成支援に取り組んで三重労働局長の認定を受けている企業が、現在、県内で8社あります。
 これらの詳細については三重労働局のホームページや各社のホームページなどをご覧ください。

ファミリーフレンドリー企業表彰

平成11年度 三重女性少年室長賞 
(株)百五銀行
平成12年度

三重労働局長賞
朝日松下電工(株)【旧朝日ナショナル照明(株)】

平成14年度 三重労働局長賞
住友電装(株)
平成17年度 三重労働局長賞
オムロン松阪(株)
平成18年度 三重労働局長賞
桑名信用金庫

次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業

平成19年度 (株)三重銀行
マックスバリュ中部(株)
平成20年度

(株)第三銀行
(株)百五銀行

平成21年度

パナソニック電工インテリア照明(株)
医療法人社団 寺田病院

平成22年度 太陽化学(株)
河村産業(株)

おわりに

 3回のゼミを通じて、改正育児・介護休業法の内容を中心に、これからの働き方や企業の取組等についても解説してきました。
 先にも述べましたが、いくら法律や制度が変わっても、それを実際に使って、活かしていくのは働く1人1人です。
 今回の改正で、お父さんの育児休業取得促進の仕掛けがされましたが、実際に男性が育児のために一定期間休業するのは難しい、というのが正直なところかと思います。
 それでも、お母さんのため、生まれてきた子どものため、そして何よりお父さん自身が、仕事一辺倒ではなく、愛するわが子の成長を見守るかけがえのない時間を持つために、勇気を持って一歩踏み出してみてはいかがでしょう。そして是非、周囲の人たちは、働きながら子育てをする家族を精一杯応援してほしいと思います。
 1人でも多くのお父さん、お母さんそして子どもたちにHappyがありますように。

用語解説

次世代育成支援対策推進法 
  平成17年4月から10年間の時限立法として施行されており、事業主に対して、仕事と子育ての両立を図るための「一般事業主行動計画」を策定し、労働局に届け出ること等を求めています。
 平成22年10月末現在、三重県内の届出数は387件で、届出義務のある301人以上企業の届出件数は147件、届出率は98.7%となっています。
 行動計画に定めた目標を達成するなど一定の要件を満たした場合には、労働局長の「認定」を受け、認定マーク「くるみん」を使用することができます。
ファミリー・フレンドリー企業
  育児・介護休業法を上回る両立支援制度を持ち、利用実績が高いこと、男性の育児休業取得実績があることなど、仕事と育児・介護との両立に積極的に取り組んでいる企業をいいます

  育児・介護休業法に規定されている両立支援制度には以下のものがあります。これらの制度を上手に組み合わせて、仕事と育児・介護との両立を工夫してみましょう。

  • 育児・介護休業
  • 育児・介護のための法定時間外労働の制限
  • 育児・介護のための深夜業の制限
  • 育児のための短時間勤務制度
  • 育児のための所定外労働の免除
  • 育児・介護のための短時間勤務等の措置
  • 子の看護休暇
  • 介護休暇 等

育児・介護休業法に規定されている制度内容の詳細等については、三重労働局雇用均等室(Tel 059-226-2318)まで、お気軽にお問い合わせください。

三重労働局ウェブサイト外部リンク