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Mニュース141号で、移動距離約2万キロメートル、1310日間の前人未踏の挑戦から学んだ喜びや達成への道のりをお話くださった田中陽希さん。
誌面に掲載しきれなかったインタビュー完全版を公開いたします!
質問1.「日本3百名⼭ひと筆書き」チャレンジの達成おめでとうございます。挑戦のきっかけを 教えてください。
⾃分らしい(⾃分にあった)挑戦だと考えたからです。2014年の最初の挑戦(⽇本百名⼭ひと筆書き)が⽇本3百名⼭ひと筆書き達成までのすべての始まりではありましたが、2007年から始めたアドベンチャーレースでの経験から「更なる成⻑のためには、⼀⼈の⼈間として『何か』に挑戦し、成し遂げる必要がある」と2012年2⽉にパタゴニアンエクスペディションレースにて初の準優勝を残したときに、⾃⾝を強く突き動かしました。
2012年秋に⽗⽅の祖⽗⺟へ会いに⾏った折に、九州にある⽇本百名⼭「九重⼭」「阿蘇⼭」「祖⺟⼭」を2泊3⽇で150キロメートルほどをすべての荷を背負い、⼭から⼭へ町から町へと歩いた旅が挑戦を具体化する⼤きなきっかけとなりました。
初めて歩く町、初めて⾒る景⾊、そして初めて登る⼭すべてが新鮮で、発⾒と出会いの連続。⽇本にはまだまだ知らない感じたことのない魅⼒がたくさんあると知ったとき、「⽇本を歩こう!」そして「⽇本の⼭を登ろう」と帰りの⾶⾏機の窓から眼下を眺めながら決意し、挑戦のスタートへと⾛り出しました。
質問2.⾃動⾞や電⾞、船などを使わず、徒歩やカヤックなどの「⼈の⼒のみ」で挑戦しようと考えた理由は?
群⾺に帰ってきた後、チームのキャプテン(⽥中正⼈さん)と職場の社⻑(⼩橋研⼆さん)に挑戦の概略を伝え、2⼈からの後押しやアドバイスにより、⾃分の経験不⾜を補うことができました。
インターネットで検索し、百名⼭はすでに⼈⼒(陸路のみ)で挑戦(南下)し、212⽇という記録で達成された⽅がいたため、私は北上で陸路も海路も⼈⼒で挑戦する決断をします。
挑戦計画当初、友⼈や職場の同僚からは「陸路は⾃転⾞でもいいのでは?」という意⾒や「⼀⽇のゴール地点(宿泊地)に到着した後は、宿の⽅の送迎を利⽤して、温泉へ⾏ったり、買い物へ⾏ったりしてもいいのでは?」という意⾒もありましたが、私の中ではそれらになんのメリットも感じられなかったのです。
「すべてを⼈⼒で」(⼀部エレベーターと渡船を使⽤)と胸を張っていえるように「中途半端は無し」「やるなら徹底的に」という思いがありました。
徒歩は⼈間が⽣まれながら持てる唯⼀の移動⼿段。それが⼀番⾃然だとも考えていました。
あるとき、⼈気の無い⽥畑の中を抜ける道を歩いていたとき、畑仕事をする地元の⽅と⽴ち話になりました。きっかけは「こんにちは」の挨拶⼀⾔から。
その脇を⾃転⾞旅をする⼈がさっと駆け抜けていきましたが会話も挨拶もない姿が印象的でした。もし、⾃転⾞での挑戦をしていたら、今の⾃分はいなかったと思います。それに、もっと旅が直線的になっていたように思います。歩いて旅をするととにかく「時間」を消費します。進める距離も少なく、現代では「⾮効率」かもしれません。しかし、それでも、「価値と魅⼒」があったから「あきらめる」こと無く歩き続けることができたのだと思います。
質問3.アドベンチャーレースとはどんなレースですか?
とにかく、⾯⽩い!過酷になればなるほど、共に戦うチームメンバーがいることに感謝することができ、⼈⽣を⾃分⾃⾝を成⻑させるためにはこれ以上無い条件が揃っているレースです。男⼥混成4⼈⼀組のチームレースです。メンバー構成は男⼥混成であれば⾃由です。ありとあらゆる⾃然環境がレースフィールドとなり、チームは主催者が⽤意した地図とコンパスだけを⽤いて、地図上のチェックポイントを通過しながら、500キロメートルから800キロメートル先のゴールを⽬指しながら、昼夜ノンストップレースとなります。種⽬は主にトレッキング、マウンテンバイク、カヌー、カヤック、ロープアクティビティなど、レースは全⾏程を通してナビゲーション技術(地図読み)が必須となります。すべてのチェックポイント、すべての種⽬を全員が⼀つとなり通過し、ゴールラインまでたどりつけたチームのみが完⾛となります。
質問4.プロのアドベンチャーレーサーである⽥中さんが感じる「アドベンチャーレース」の魅⼒とは?
レースの魅⼒を最⼤限に引き出しているのは「⼀切の通信機器使⽤が禁⽌され、レースで使う地図がスタート直前に配付される」というアドベンチャーレースならではの特殊なルール。そのため、どんなに万全な準備と⼼⾝のトレーニングを積んでいたとしても、⾃分たちの思い通りのレース展開になることがないことです。
常に、想定外のことを抱えながらとなるため、レース本番で⼈としての真価が試されます。毎回、ゴール後に「もっとあそこはこうできたんじゃないか、もっともっと」と思う⾃分がいます。だからこそ次への原動⼒につながってると思います。
Q5.アドベンチャーレースやひと筆書きチャレンジでは強靭な⾁体や精神⼒が必要だと思いますが、普段どんな練習をされ、⾝体や精神のコンディションはどのように整えていますか?⽥中さん流のモチベーションの保ち⽅も教えてください。
2021年に⼀⼈での挑戦に区切りをつけて、2022年よりチーム活動を本格的に再開させました。挑戦の舞台や内容には違いはあれども、3百名⼭挑戦達成までの⾜かけ8年で培った経験、特に精神⾯での成⻑をアドベンチャーレースでも存分に⽣かせると⾃負していましたが、実際は別物でした。⼀⼈でトラブルや⽬標に挑むのと、チームで挑むのでは全く違いました。例えば、前進するためにロボットの操作を⼀⼈でするのと、メンバーで各パーツを分担して前へ進むのでは、その難易度は変わるということです。⼀⼈であれば、⾃分の感覚や経験で判断し⾏動へ移すことができますが、4つの脳、4つの⾝体、4つの価値観・考え⽅では、それを⼀つにすることは容易ではありません。それぞれに個性があり、感情があります。どんなに客観的に仲の良いチームに⾒られていても、必ず衝突は⽣まれます。それを乗り越え、さらに⼀丸になれるかは「恐れずに⽴ち向かう」気持ちがチームメンバー全員にあるかどうかです。1名でもその気持ちが弱ければ、乗り越えることができません。なぜなら相⼿は⽛むき出しの容赦の無い未経験の⾃然なのですから。
⽇本百名⼭ひと筆書き、3百名⼭ひと筆書きでは、挑戦中に特別トレーニングをしていたことはありません。なぜなら、毎⽇30キロメートルから50キロメートルを歩き⾛り、3⽇に1 回⼭を登るような毎⽇でしたので、⽇々がトレーニングのようでした。
それよりも、疲弊する⼼⾝のケアの⽅が⼤変でした。ストレッチやアイシング、テーピング、時には旅先で整体・マッサージ・鍼灸を施しながら、コンディションを維持しました。それでも、どうにも⾏かないときは「休養」を取るようにしました。
質問6.⾷事の量や栄養バランスなども気にされているのでしょうか。
⾷事は、ひと筆書きチャレンジ中もアドベンチャーレース中でも、栄養バランスは偏りがちでした。コンビニの⾷事も多くありましたし、アドベンチャーレースでは、⾼カロリー重視になりがちとなります。普段の⽣活でなるべく外⾷・飲酒の機会を減らし、⾃炊するようにしています。発酵⾷品も毎⽇取るようにしたり、よく噛みゆっくり⾷べるように意識してます。
質問7.徒歩での移動中に考えていたことや、歩いているときに喜び・楽しみを感じる瞬間を教えてください。
どんな些細なことでもいいんです。新たな発⾒があれば⼗分です。特別なものとか過⼤な出来事ではなく、⾃分⾃⾝の⽇々の流れの中で、「昨⽇とは違う何か(出来事や景⾊など)」があればその⽇⼀⽇が楽しく、笑顔で過ごせました。昨⽇は無かった道ばたに咲くタンポポや菜の花を⾒かけるだけで。
それに、⼈との出会い。出会いの連鎖です。⾚の他⼈でも実はどこかでつながっていること はよくありました。その出会いのつながりに時に驚き、時に喜びました。
効率や成果ばかりが求められがちになる現代だからこそ、何気ないこと、これまで⾒向きもしなかったことに、⾃分から⽬を向けると、予想外の発⾒が多くあります。どんなことでも、⼀⽅向ではなく、多⽅向から⾒るだけでも得るものは違います。そのためにはよく周りを観察する意識が必要でした。
「今⽇はどんな発⾒があるかな?」そんな気持ち⼀つ持つだけで、ただ歩く道のりも楽しみの宝庫となります。
質問8.最後までやり遂げるために⽥中さんが⼤切だと思うことを教えください。
「⾃発的な原動⼒」です。挑戦・チャレンジする前に「⽬的・ ⽬標・達成した先に何を得たいのか」を具体的にすることです。いつどこで誰に聞かれても、すぐに回答できるようにすることも⼤切です。たとえば「アドベンチャーレースって何が楽しいの?」と聞かれたら「楽しい・⾼揚感に包まれる瞬間は、 レース中に多くありません。でも、それを少しでも多く感じるために、この舞台が今の⾃分に取って必要不可⽋だと考えているから」と答えるようにしています。
質問9.最新著書「⽥中陽希⽇記」に掲載されている写真はユニークなものも多いですが、道中や⼭頂で写真を撮るときに意識していることを教えてください。
⾃分の⽬で⾒て、「雰囲気がいいな」「きれいだな」「この瞬間を残したい」「こんな⾵にこの景⾊に⾃分が映り込んだら⾯⽩い」という感覚的、感動したときに撮影するようにしています。そのときは毎回、誰かに頼むのではなく、⾃分がイメージしたとおりに撮影できるまで、セルフタイマー機能を使⽤して、繰り返し撮影を試みます。
ちなみに酒⽥市の海岸で撮影した写真は20回近く繰り返しました。時間にすると30分ほどです。イメージは⽇本海に沈む太陽の光に包まれ、逆光で⾃分のシルエットだけが残るような写真です。
セルフタイマーのシャッターのタイミングに合わせてきれいな倒⽴をすることが⼀番⼤変で したが、カメラを置く位置や⾓度、ピントの場所などにもこだわりました。 納得の写真となったかと思います。
とくに⽇本3百名⼭ひと筆書きが⼀番写真撮影に時間を要しました。
質問10.今後、新たにやってみたいこと、学んでみたいことは?
⼈⽣は短いとも感じる⽇々ですが、先を⾒すぎず、今取り組んでいる挑戦を全うし、⽬標を達成できたあとに考える余地が⽣まれるのかとも考えています。
「⼀歩⼀歩」です。
質問11.インタビューをお読みのみなさまへぜひ⼀⾔お願いします。
⽇本百名⼭ひと筆書きから3百名⼭ひと筆書きまで⾜かけ8年、⽇本中を歩き回り、登り続けた挑戦を一昨年夏に集⼤成として幕を下ろすことができました。旅先では、直接声援を届けに来てくれた⽅も多くいらっしゃるかと思います。 ⻑い間、⼀⼈の男が⼭に登り、町を駆け抜けた挑戦をともに歩き続けていただき、誠にありがとうございました。
⽇本3百名⼭ひと筆書きとは
「⽇本百名⼭」、「⽇本⼆百名⼭」、「⽇本三百名⼭」の合計301座(※)を、プロアドベ ンチャーレーサー⽥中陽希が⼈⼒のみで繋ぎ合わせる旅。陸路は徒歩とスキー、海路はシーカヤックやパックラフトを使⽤する。
(※)⽇本⼆百名⼭に選定されている「荒沢岳」が⽇本三百名⼭には含まれないため、合計 301座となる。
プロアドベンチャーレーサー Team EASTWIND所属 1983年埼⽟県⽣まれ。北海道富良野市麓郷育ち。⼩中⾼校、明治⼤学時代までクロスカントリースキー競技に取り組み全⽇本学⽣スキー選⼿権などで⼊賞。2007年より⽥中正⼈率いるアドベンチャーレースチーム「チームイーストウインド」に所属し、2022年、キャプテン に就任。2014年、陸上と海上を⼈⼒のみで進む「⽇本百名⼭ひと筆書き」を発案し、達成。翌年には「⽇本2百名⼭ひと筆書き」を達成。2018年から2021年にかけて、⾃らの旅の集⼤成として「⽇本3百名⼭ひと筆書き」も成し遂げる。
毎年度初めに著名⼈をお招きし、ご⾃⾝の活動や⼈⽣観についてお話しいただく「三重のまなび講演会」。
2023年度は、「⽇本3百名⼭ひと筆書き-Great Traverse3-」を完遂されたプロアドベンチャーレーサーの⽥中陽希さんをお迎えいたします。
2023年4⽉30⽇(⽇曜⽇) 13時30分から15時00分まで(開場12時45分) 会場:⼤ホ ール
定員に達したため、受付終了いたしました。たくさんのお申込みありがとうございまし た。(当⽇受付・キャンセル待ちはございません)
⽥中陽希さんインタビューのほか、2023年度のそうぶんのイベントを⼀部ご紹介する「かる みー新聞」、7⽉から9⽉までのイベントインフォメーション、「⽂化交流ゾーン」の企画展に関するコラムなどなど…情報もりだくさん!