人形遣い吉田一輔インタビュー

吉田一輔

文楽入門(vol.120)

MNEWS vol.120特集では、文楽の人形遣い吉田一輔さんにインタビューさせていただきました。WEB版では、紙面には掲載しきれなかった質問も全て掲載します。

「主遣い」「左遣い」「足遣い」の3人で一体の人形を動かしていますが、どのように動きを合わせていらっしゃるのでしょうか。

主遣いから、左遣いと足遣いに「頭(ず)」というサインを送っています。主遣いが人形のかしらや肩のちょっとした動きで出すサインを、足遣い、左遣いの修行で徐々につかんでいき、今度は自分が主遣いになってサインを出せるように勉強します。30年たってやっと主役級の人形を遣えるようになります。基本的なサインはありますが、主遣いによって違いますし、ベテランになると、「頭(ず)」を出さない人もいます。息や間合いを読み取らせる。同じようでも違うサインだったりするので、微妙な差を感じとれるようにならなければなりません。感じとれないときは怒られるだけですね。昔は舞台上で怒る師匠もいました。足遣い、左遣いにとっては、舞台が試練の場でもあり、主遣いに気に入られると、次のステップにつながります。緊張感の中で芸を覚えるんでしょうね。先を読んで、この人ならこう遣うのではないかというのを感じとることは、教えられたからと言ってできるものでもありません。勘の良し悪しもあります。口で説明するのはとても難しいですね。

人形遣い

「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」で14歳の娘お半を演じられましたが、感情や仕草などどのように表現されましたか。

可愛らしく遣うことを心掛けています。ちょっとした頭の角度や動きなどで表現します。お半は、身籠っているということもあるので、色気も必要。かといって色気がありすぎるのも子どもらしくない。そのへんの微妙なところは難しいと感じています。感情移入がないと芝居はできません。男の人形を遣うときは、直線的な動きが多くなりますが、女形のときは、丸く角ができない動きで遣うことを意識しています。

人形の着付けはどうしていますか?

2時間ほどかけて自分で着付けています。若い頃は気が付かなかったことですが、例え師匠の人形であっても、他人の人形を持つと、人形が動かないんです。襟元の詰まりとか、たるませ方とかちょっとしたことなんですが、それぞれ好みがあります。特に女形の人形は他人には借りません。着付けの綺麗さというよりは、人形の中の空間をどうするかというのを考えています。

頭アップ

生涯現役で活躍される人形遣い。体力面や技能面など日常生活から心掛けていることはありますか。

人形はこの人形(お半)で34キロ。本番前に手指をほぐしたり、休みの日は身体のメンテナンスをしていますが、特別な筋力トレーニングはしていません。

体力は必要ですが、体力だけではない部分もあります。人間国宝の吉田簑助師匠は、平気な顔されてますからね。僕の方が腕力はあるはずなのに。力ではなくコツだと思います。人形に愛されているのではないかと思いますね。

技能面では、普段から能や歌舞伎をよく見るようにしていますが、一番の勉強は師匠や兄弟子を見ること。しかし、人形の中に入れている手の動きは絶対教えてくれません。どうやっているのかな、と考えて工夫しています。技術は教えた方が成長するのかもしれませんが、僕も聞かれないと教えません。きれいに遣えるようになりたいという憧れや強い気持ちがあれば、だんだんできるようになります。

休みの日は何をしていますか?

あまり休みがないので、休む時は本当に体を休めてゴロゴロしています。合間にゴルフに行ったりもしますけどね。

―家でもずっと姿勢を正して正座をしているイメージがありました。
そんなことはまったくありません(笑)。でも、正座の方が楽ということはありますね。

人形遣いとしての到達点や目標をお聞かせください。

目標は、師匠や兄弟子たちのように、舞台に登場したらお客さんが喜んでくれるような人形遣いになりたい。それぐらいにならないとあかんなと思います。

師匠方は、80歳になっても芸を追求し続けています。毎回同じことはしはらへん。前回よりよいものを、とやられているので、ふりをかえたり、工夫をされたり、師匠方の姿を見ていると一生勉強なんやということを感じます。満足すると成長しないし、おもしろくない。

芸は師匠から継承するかと思いますが、一輔さんオリジナルの部分もあるのでしょうか。

僕は、現在の師匠である簑助師匠に憧れているので、似ていると言われるのがうれしい。しかし、父一暢の弟子でもあったので半分は父の影響も受けている。派手さと基本、両方のいいところを自分の中でうまく出せたらと思っています。2人の師匠がいるというのはありがたいこと。お手本にしているのは簑助師匠ですが、芸風が違う勘十郎さんなど、この役だったらこの人がいいと考えながら取り込んでいます。自分の好きなようにやっているだけでは伝統芸能として間違っていると思います。芸を受け継ぐ意識があるか、いつも勉強していますね。

初めて文楽を観る人に、ここを注目して欲しいというポイントはありますか。

文楽は、「太夫」、「三味線」、「人形遣い」の三業の芸能なので、いろんな楽しみ方ができます。古典芸能は難しいと思われがちですが、難しいと感じるところは、極端に言うと寝てもかまわない。特に若い人たちは、何を言っているかわからへん、退屈やったと思うかもしれない。堅苦しく思わずに、「太夫がおもしろい顔して語っているな」とか、「おじさんがかわいい娘の人形を動かしているな」とか、三味線の音色とか、まずは楽しんでほしいですね。

実は文楽に稽古はありません。公演初日の前日に皆が揃って一回あわせるだけ。その緊張感がいいんでしょうね。でもやはり回を重ねるほどよいものになっていくので、通の方は初日、中日、千秋楽と3回はご覧になって変化を楽しむようですよ。

三重公演の演目はどちらも世話物なのでわかりやすいです。「桂川連理柵」では、笑わせる部分があったり、心中の場面があったり見どころがたくさんあります。「曽根崎心中」は教科書にもでてくるような有名な物語です。

初めての人に来てもらうきっかけをつくるのがとても難しいと感じています。劇作家の三谷幸喜さんの作・演出で上演された三谷文楽「其礼成心中」のような試みも大切。三谷文楽をきっかけとして、文楽を観に来てくれる人がたくさんいました。劇場によっては字幕やイヤホンガイドなど初めての人でも来やすい親切な環境が整っています。文楽を1回も観たことがないという人を1人でもなくしたいと思っています。

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